大切な人を守るため

 

こんにちは。認知症Cafést Online編集スタッフのマツです。

新型コロナウイルスの影響で、介護現場でも家族の面会をお断りせざるを得ない状況が続いています。そこで今回は、家族に会えないということについて考えてみました。

家族に会えない

前回の記事(「父の死に際して~認知症について考えたこと~」)でも書きましたが、2月に父が他界し、母が実家で独居生活となりました。
今月上旬には49日の法要をするつもりでしたが、私が帰省できないこともあり、先延ばしになってしまっています。

 

母にはさまざまな持病があり、私が安易に帰省してウイルスを持ち込めば、間違いなく重篤化してしまうでしょう。
母のことは気がかりで仕方ありませんが、運がいいことに母は自力では外出できないため、逆にウイルスへの感染リスクは低いだろうと高を括ることにしました(そう思うしかない、というのが正しいですが)。

見舞客の人数と余命の奇妙な関係

話は変わりますが、以前私が入院中にたまたま聞いた話で、お見舞いに来る人が多い患者さんほど余命が長いというものがありました。
私はエビデンスを確認したわけではありませんが、これは病院に限った話ではないのではないでしょうか。現在面会が禁じられてる介護施設でも同じことが言えるとしたら、新型コロナウイルスとはなんとも度し難い存在なのではないでしょうか。

大切な人を守るために

勿論、未知のウイルスでありワクチンもないこと、劇的に悪化する場合があると言った面もそうですが、このウイルスの最も度し難い面は、人と人とのつながりを断ってしまうことなのではないでしょうか。
そして、人と人とのつながりが断たれたときにその影響を最も受けてしまうのが、高齢者や障碍者なんだろうと思います。

 

今、私たちに求められていることは、そのような人々を守るためにあえて会わないようにするという、とてもややこしいことなんだと思うのです。

その人のことが大切であればあるほど、あえて距離をとるしかない……このような矛盾に私たちの気持ちは戸惑ってしまっているのでしょう。

 

 

『コロナ時代の僕ら』あとがきに続いてー欧州の介護現場からも忘れたくないこと―

 

こんにちは。
本日は、大学の先輩で、大学の教員(社会学)をされている方が、フェイスブックでシェアをされていたweb記事をご紹介します。コロナウィルスの感染の爆発で混乱するイタリアから緊急刊行されるエッセイがあるそうですね。

以前とまったく同じ世界を再現したいのか?

そのweb記事のタイトルがこちらで、強い関心を持ちました。

【全文公開】「すべてが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」『コロナの時代の僕ら』著者あとがき

出典:早川書房の書籍&雑誌コンテンツを紹介するHayakawa Books & Magazinesβ)の202047日付のnoteから

 

すべてが終わった時、以前とまったく同じ世界を再現したいのか…。
新型コロナウィルスの感染が人間社会のなかを無差別に拡大していくのを目の当たりにし、社会全体で外出自粛、テレワークなどの行動変容が強く要請されて、12か月前には想像もしていなかった、自分自身や周囲の生活上での甚大な変化を実感させられたならば、認識は変わらざるを得ないだろうと思います。「以前とまったく同じ世界」になるとはもはや思うことは出来ないのではないでしょうか。

『コロナ時代の僕ら』

『コロナの時代の僕ら』はイタリアを代表する小説家であり、物理学博士でもあるパオロ・ジョルダーノによるエッセイです。

noteによれば、イタリアでコロナウイルスの感染が広がり、死者が急激に増えていった本年2月下旬から3月下旬に綴られました。

 

 

日本語に翻訳された書籍版(amazon)が4月24日に発売予定です。先行して4月10日にネット上にて期間限定で本文全体が公開され、現時点(4月18日)ではあとがきのみが公開されている状況です。

「まさかの事態」

才能ある優秀な人がイタリアで何を思ったのでしょうか?

 

「まさかの事態」がイタリアに及び、自分自身に及んだ状況について、次のように書かれています。

 

振り返ってみれば、あっという間に接近されたような気がする。「六次のへだたり」理論が本当かどうか、僕は知らない。知りあいのつてをたどっていくと、驚くほどわずかな人数を介しただけで世界の誰とでもつながってしまうという、あの話だ。でも今度のウイルスは、まるで網の目をたどる昆虫のように、そんなひとの縁(えん)の連鎖によじ登り、僕たちのもとにたどり着いた。中国にいたはずの感染症が次はイタリアに来て、僕らの町に来て、やがて誰か著名人に陽性反応が出て、僕らの友だちのひとりが感染して、僕らの住んでいるアパートの住民が入院した。その間、わずか30日。そうしたステップのひとつひとつを目撃するたび――確率的には妥当で、ごく当たり前なはずの出来事なのに――僕らは目をみはった。信じられなかったのだ。「まさかの事態」の領域で動き回ることこそ、始めから今度のウイルスの強みだった。僕らは「まさか」をこれでもかと繰り返した末に、自宅に閉じこめられ、買い物に行くために警察に見せる外出理由証明書をプリントアウトする羽目となった。

 

中国にいたはずの感染症は、APPBB Newsの記事によれば、20日4時現在、193の国・地域で236万人の感染が確認されるまでになり、死者は16万人に及んでいます。

注:WHOのぺージでは19日18時時点で、224万人の感染、死者は15万人となっています。

 

感染分布の世界地図を見ていると、グローバル社会での人々の自由な動きの履歴ないし渡航先での足跡が色付けされて積み重なり、濃くなっていったという感覚を覚えます。

忘れたくない物事のリストーもとに戻ってほしくないこと―

パオロ・ジョルダーノは、誰もが忘れたくない物事のリストをつくり、平穏なときが戻ってきたら互いのリストを見比べたらどうかと言っています。
そして、それは元に戻ってほしくないことを考えることだと言ってます。

 

そして、彼自身も忘れたくない物事を幾つか例示しています。

 

でも僕は忘れたくない。最初の数週間に、初期の一連の控えめな対策に対して、人々が口々に「頭は大丈夫か」と嘲(あざけ)り笑ったことを。長年にわたるあらゆる権威の剥奪(はくだつ)により、さまざまな分野の専門家に対する脊髄(せきずい)反射的な不信が広まり、それがとうとうあの、「頭は大丈夫か」という短い言葉として顕現したのだった。不信は遅れを呼んだ。そして遅れは犠牲をもたらした。

 

僕は忘れたくない。結局ぎりぎりになっても僕が飛行機のチケットを1枚、キャンセルしなかったことを。どう考えてもその便には乗れないと明らかになっても、とにかく出発したい、その思いだけが理由であきらめられなかった、この自己中心的で愚鈍な自分を。

 

このように社会や人々のあり方、自分自身のあり方に対する忘れたくないこと、元に戻ってほしくないことが次々と記されています。

欧州の介護現場からも忘れたくないこと

彼の忘れたくないことのリストには、あとがきを読んだ限りではありますが、介護現場のことは含まれていませんでした。

しかし、イタリアや欧州の介護現場からは凄惨な状況が次々と報告されています。

 

・イタリアのミラノの老人ホーム(入所者数は1,000人余り)で3月以降、190人もの死者が発生したため、警察が業務上過失致死の疑いで捜査を開始した。死者のうち、新型コロナウィルス感染症に関する事例がどれほどかは確認されていないが、集団感染の可能性が疑われている。従業員はマスクや防護服を支給されないまま介護にあたり、従業員の3分の1に相当する約200人に新型コロナウィルス感染が疑われる症状が出ている。

 

・イタリアでは老人ホームが新型コロナウイルス感染症の感染管理の死角地帯(=対象外)のまま長く放置されたという懸念が高まっている。老人ホームで亡くなる高齢者の多くが新型コロナウイルス感染症の事後検査から排除されてしまっている。検査のキャパシティーに限界があり、検査を受けられずに亡くなる場合もある。なかには、コロナウィルス感染症が疑われる事例もあるが、公式統計に反映されず、コロナウィルスによる「隠れ死者」の増加が疑われている。

 

・スペインでは、新型コロナウィルスによる感染症の対策支援に当たっている軍が立ち入った介護施設で高齢者が置き去りにされ、ベッドで亡くなっていた方もいた。別の施設では感染がわかったあとに、職員が現場を放棄してしまった例もあった。

 

・英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究グループがイタリア、スペイン、アイルランド、ベルギー、フランスの老人ホームを調査したところ、新型コロナウイルスによる死亡の4257%が高齢者入所施設に集中していたことが分かった。(注:この研究結果では、イタリアの高齢者入所施設でのコロナによる死者数は、4月6日現在、9,509名。スペインの高齢者入所施設での死者数では、4月8日現在、9,756名)

 

医療現場からも忘れたくないこと

医療現場からの報告もあります。

 

・感染者の増加が続くイタリア北部の医療現場では、人的・物的に医療資源が限られているため、回復する可能性が高い患者の治療を優先する措置が取られている。重症の肺炎患者の治療には人工呼吸器が不可欠だが、必要な患者すべてに行き渡らない状態が続く。年齢を判断基準の一つとする方針は現場で採用されており、目安を80歳から75歳に引き下げた病院もあるという。

 

・収容能力も限界を超えている。緊急でない手術は延期され、手術室は一時的な集中治療室として使われ、廊下や受付にも人工呼吸器をつけた患者のベッドが置かれている医療機関もある。

 

コメント

年齢で一律に制限をかけることについて

人工呼吸器の優先順位を決めるにあたり、年齢を判断基準の一つとしたと言われるとぞっとします。

関連して、ある記事で社会学者の大澤真幸さんが、「メンタル面の崩壊」の懸念を指摘されていた部分を引用します。

 

各国の医療現場で人工呼吸器の絶対数が不足し、高齢の重症患者と若い重症患者、どちらに呼吸器を優先的に装着するか、という選択を迫られる事態が多発しています。人工呼吸器を若者に回さざるを得ないとの判断。それは苦渋の決断で、社会を維持していく優先順位では、ある意味で正しいとも言える。しかし、その決断は『最も弱い立場にある人こそ、最優先で救済する』という、人間倫理の根幹をないがしろにしてしまうおそれがあります。

 

そういう判断を重ねることで、倫理的なベースが侵され、『弱い人を見捨てても仕方ない』という感覚が広がり定着してしまう可能性がある。

 

『最も弱い立場にある人こそ、最優先で救済する』が人間倫理の根幹だと書かれています。
それに付け加えさせていただくならば、年齢で人を決めつけることをエイジズムと言い、それに対して、同じ年齢でも個人差があるので、一律に年齢で人を判断しないというのが、人間社会が達成してきた倫理の感覚ではないかと思います。

 

非常時や緊急時の基準や感覚で物事を考えることで、このあたりが麻痺してしまったり、ブレてしまったりしてはいけません。
高齢者、要介護者、認知症の方、病気や障害を持った方と関わる仕事をしている私たちが、このあたりの価値の揺るぎない防波堤を築いていかなければならないと思います。

それぞれの忘れたくないことのリスト

様々な公衆衛生の課題を乗り越え、高齢社会を達成してきたと思っていましたが、まだまだだったと気づかされております。
私の忘れたくないことを幾つか挙げましたが、それ以外にもあります。「働く職員が自宅待機となってしまったため、誰も現場におらず、入居者に食事なしを2日間強いた」、「医療機器不足の病院に高齢者施設からの救急搬送を拒否された」などです。とても書き切れないと感じます。

 

介護や、福祉や、保健や、医療の視点でまだまだ忘れたくないことはあるでしょう。
社会の状況が落ち着きましたら、それぞれの忘れたくないことを持ち寄って、そういう状態が再び起こることがないような社会づくりを進めていきましょう。

 

(文:星野 周也)

 

<参考>ー本文中に示したもの以外―

1. 高齢者の大量死を防げ「介護崩壊」と「医療崩壊」老人ホームと病院はなぜ新型コロナに弱いのか(著者は木村 正人氏)|YAHOOJAPANニュース 2020.4.18

2. 「マスクもないのに納体袋を十分準備せよと政府は言った」欧州の老人ホームでコロナ死相次ぐ(著者は木村 正人氏)|YAHOOJAPANニュース 2020.4.4

3. 伊検察、集団感染を捜査 業過致死容疑 100人死亡の介護施設…現地報道(著者は笹子 美奈子氏)|読売新聞オンライン 2020.4.9付(読者会員限定)

4. 「110人の大量死」イタリアの老人ホームに隠蔽疑惑…死因は単純肺炎?|中央日報日本語版 2020.4.10

5. アングル:イタリアでコロナ「隠れ死者」増加、高齢者施設の実態|朝日新聞GLOBE+ 2020.3.27

6. 介護施設に高齢者置き去り、ベッドに遺体も 新型ウイルスで混乱のスペイン|BBC NEWS JAPAN 2020.3.24

7. <新型コロナ>老人ホーム 職務放棄疑いも スペインの3施設で計39人死亡|東京新聞 2020.3.26

8. 新型コロナ スペイン 死者4割、施設の高齢者 防護服足りず職員から感染か|毎日新聞2020.4.5

9. 新型コロナ 世界100万人感染 命に線引き イタリア、回復しやすい患者優先 スペイン、高齢者見捨てた施設も|毎日新聞2020.4.4 

10. 苦境の今こそ、人類の好機 大澤真幸さんが見つめる岐路(聞き手は太田 啓之氏)|朝日新聞デジタル 2020.4.8付(有料会員限定)

 

ビッグデータやITを駆使した台湾のコロナ対策

 

 

こんにちは。
フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどSNSでは「うちで過ごそう」、「stay home」というメッセージが飛び交っており、緊張の日々を過ごしております。
連帯感を持って一緒に乗り越えていければと思っています。

台湾のコロナ対策を評価するJAMA掲載の記事

3月3日付で、米国医師会が発行するJAMAという雑誌に、台湾のコロナ(新型コロナウィルス感染症)対策を評価する記事が発表されました。

Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing(著者はC. Jason Wang, Chun Y. Ng, Robert H. Brook3氏)

 

著者らは台湾の事例を危機に迅速に対応した例と考えています。

台湾と日本の新型コロナウィルスの感染の状況

台湾と日本の新型コロナウィルスの感染の状況は4月9日12時現在、下表の通りです。

感染者 死亡者
台湾 379 5
日本 4,768 85

 

台湾の人口は2,400万で、日本の人口は1億2,600万です。人口の5~6倍の差を考慮しても、台湾は日本と比較すると感染者、死者数が抑えこまれていることが確認できます。

注:数字は厚生労働省のサイトに基づきます。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者の状況は上の表の日本の数字とは別に集計されており、4月7日18時時点で感染者は712名、死者は11名です。

 

今回は冒頭に挙げたJAMA掲載の記事にて著者らに評価された台湾のコロナ対策についてご紹介します。
適宜、他のネット記事も参照しています。

迅速な対応―危機認識の速さ―

12月31日

WHO(世界保健機構)から中国の武漢市で原因不明の肺炎の報告があったのが昨年(2019年)の1231日です。
台湾は即日、武漢市からの帰国便に対して検疫官が機内に立ち入りし、乗客に対して発熱や肺炎の症状がないかの確認を開始しました。

1月5日

年が明けての1月5日、検疫の対象者の拡大の方針が発信され、過去14日間に、武漢市に渡航し、台湾入国時に発熱やかぜ症状(上気道感染の症状)が見られた人が対象者になりました。
感染が疑われる対象者には26種類のウィルス検査を実施しました。
発熱や咳の症状がある対象者は自宅での隔離対応になりました。

1月20日

1月20日にCECCという組織(注:Central Epidemic Command Centerの頭文字で、直訳すると中央感染症指揮センターという意味。)を本格稼働させ、省庁間が横断的に連携して伝染病対策に取り組む体制を整えました。日本の厚生労働大臣に相当する役職(衛生福利部部長)の陳時中氏がCECCの指揮官になりました。

注:20日、中国から、武漢市での感染が累計198名になったことに加え、北京市から2名、深セン市で1名の感染があったことが報告されました。(←参考記事へのリンク

ビッグデータの活用

台湾のCECCが行ったことの1つにビッグデータの活用があります。
具体的には健康保険カードに出入国に関するデータを組み入れました。また、飛行機での入国者の検疫電子システムを開発しました。

1月27日―武漢市(中国の湖北地区)への渡航歴情報の組み入れ―

1月27日に、健康保険カードに武漢市を含むエリアである中国の湖北地区への渡航歴情報の組み入れが行われました。これにより、この地区を訪れていた人が医療機関で健康保険カードを機器に挿入すると、その情報が表示されるようになり、医療機関側はこの人が湖北地区に行ったことをただちに確認できます。

1月30日―組み入れる渡航歴情報の範囲の拡大―

1月30日には、中国大陸、香港、マカオへの渡航歴の情報が健康保険カードで確認できるようになりました。

注:それ以降も対象地域を拡大しており、221日には韓国、日本の渡航歴も加えられました。

2月14日―入国者の検疫電子システムの開発に着手し、3日間で完成―

台湾は2月14日に空港(飛行機)での入国者の検疫電子システムの開発に着手し、3日間で完成させました。

 

台湾に戻る旅客は、自身のスマホで指定のQRコードからオンライン上の健康申告入力フォームの画面を出し、そこに渡航歴や健康状態を入力します。旅客の感染関連リスクによる振り分けをするためです。リスクが低いと判定された場合、スマホのSMS(電話番号宛てのショートメール)で、健康申告の認証のメッセージが届き、それを提示すれば、スムーズに入国することができます。

 

一方、新型コロナウィルスの感染が拡大している地域からの渡航者は、感染関連のリスクが高いため、自宅での検疫・隔離が義務付けられます。これらの対象者はスマホの位置情報機能などにより、きちんと(外出することなく)自宅に留まっていたかについて監視されました。

ITの活用①―マスクマップの事例―

マスクの流通の管理

台湾は資源分配においても積極的に手を打ちました。

 

1月20日には、外科で使用するサージカルマスク4,400万個、(微粒子を防ぐ)N95マスク190万個を備蓄していて、政府の管理化に置いていると発信をしました。また、政府の資金や軍人を投入してマスクの増産を進めました。

注:JAMAの記事での「資源分配」に関する記述としては以上です。以下、マスクマップについてはネット記事を参考にしました。

 

市販のマスクについては、2月初旬に市場経済を統制し、市民1枚がマスクを購入できる枚数や値段を指定しました。台湾国内で製造されたマスクを政府が買い取り、マスクの流通を政府の管理下に置きました。1月に市民が争ってマスクを買い求め、各地で売り切れとなり、値段のつりあげや転売が起こったという状況を踏まえての政策です。

 

また、マスクは健康保険カードを使い、指定薬局で販売する仕組みとしました。混雑を分散させるため個人番号が奇数の人は月水金に、偶数の人は火木土に薬局を訪れるよう定め、一度購入すると1週間は再度買えないという運用になっています。

 マスクマップ

それでも1つの日に購入者が集まってしまうと、その日の在庫が切れてしまい、薬局まで実際に足を運んでも、マスクを入手できないということがありえます。

 

そこでITを活用したマスクマップの取り組みが行われました。台湾のIT担当の閣僚で、天才的なプログラマーとして知られる唐鳳(オードリー・タン)氏が、政府側が保有するリアルタイムの各薬局のマスクの在庫データを公開し、民間の有志が地図データとリンクさせて、市民が閲覧できる仕組みを開発しました。
このマスクマップ(←リンクあり)(注:使用するブラウザによっては地図上の情報が表示されない場合があります。)により、在庫のある近くの薬局を検索でき、無駄足を踏まずに、マスク入手ができるようになりました。

ITの活用②―ダイヤモンド・プリンセス号乗客の立ち寄り先マップ―

JAMAの記事では、台湾の施策の課題を残した事例の1つとして、ダイヤモンド・プリンセス号が1月31日に台湾に寄港した際に、乗客の下船を認めたことが挙げられています。

 

ダイヤモンド・プリンセス号は1月20日に横浜を出港し、25日に香港に立ち寄りました。香港で下船した80歳の男性乗客から新型コロナウイルスによる肺炎が確認されたと2月1日深夜、香港政府が発表しました。
130日には香港からの飛行機での渡航歴に対してアラートを鳴らす体制にしていたことと比較すると、香港に立ち寄った後に台湾に立ち寄った船の乗客については台湾での朝から夕方までの観光を許可していたことになりますので、JAMAの記事での指摘につながったと思います。

 

その後、クルーズ船での多数感染が判明したことを受けて、台湾政府は2月7日に、ダイヤモンド・プリンセス号乗客が台湾に下船した際に、訪れた50か所ほどの場所を公表し、マップ(←リンクあり)に示しました。1月31日にこれらの場所を訪れ、乗客と接触したかもしれない人たちに対して、14日間の症状の確認と(必要があれば)自宅待機を求めました。

 

JAMAの記事で新しいテクノロジーの活用例として明確に取り上げられているのは、検疫の電子システムの箇所です。QRコードからの健康申告入力(検疫電子システム)、自宅隔離状況のスマホ位置情報での管理等について記した箇所です。
カフェストの今回の記事では、これらに加えて、(ネット記事も参照して)マスクマップ、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客立ち寄り先マップもテクノロジー(IT)を活用した事例として分類して、紹介させていただきました。

注:JAMAの記事ではマスクは資源の配分の話題のなかで取り上げられ、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の訪問場所の公表は起こってしまった課題に対する対応として取り上げられています。

注:上述のマップのサイトから画像を複写し、入手しました。

これらの迅速な対応の背景にあるSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験

今回の台湾の迅速な対応の背景にあるのが、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験です。中国からSARSの感染が広がり、台湾まで被害が拡大しました。ある記事によれば台湾では当時、SARSが原因で37人(関連死も含めると73人)が亡くなりました。

注:別の記事では台湾でのSARSの死者は84人となっています。

 

「1つの中国原則」という政治的理由で台湾がWHO(世界保健機構)に未加盟で、WHOから最新情報を得られなかったという事情もありました。

注:台湾は現在もWHO未加盟です。WHOは今年の122日に開いた新型コロナウィルス肺炎の対策を話し合う緊急会合で台湾を排除しました。その後、日本や米国、欧州各国などが台湾の参加を強く支持したことから、211日のWHOオンライン会合にようやく台湾も参加し、意見交換することができました。

 

JAMAの記事でも、その経験を踏まえ、「中国から発生する感染病に対して常時警戒し、迅速に対処できる準備をしてきた」、「次に発生する危機への迅速な対応を可能にする公衆衛生上の施策の仕組みを確立した」とまとめられています。

コメント

健康保険カード

健康保険カードに出入国の情報を紐づけ、病院等ですぐ確認できるようにすることや、この健康保険カードでマスク流通の管理をすることは合理的と思います。

 

台湾の健康保険カードには、ICチップが搭載され、氏名や生年月日、どこの病院で診療を受けたか、処方箋や薬物アレルギー、予防接種記録、女性の場合は妊娠や出産に関する記録も収められているそうです。
これも便利なことと思います。

 

自分を振り返ると、病院に行く頻度があまり高くないこともあるだろうと思いますが、お薬手帳が必要なときに手元になく何冊も発行してもらっているなど、管理が十分に出来ていないと思います。薬の情報が健康保険証に統合されるならば、私はありがたいし、助かると感じると思います。

マイナンバーカードと介護保険証を一本化する動き

日本でも行政のデジタル化を進める動きが見られます。
2023年度からマイナンバーカードと介護保険証を一本化すると言われており、先行して医療の健康保険証を20213⽉からマイナンバーカードで代⽤できるようにする予定です。医療、介護の保険証との一本化を通して、利用者の利便性向上や行政手続きの簡素化が目指されています。

参考:マイナンバーカード、介護・健康保険証と一本化へ|日本経済新聞 2020.01.12付

 

マイナンバーカードを持っておりますが、現時点で便利と感じるのは、役所に行かなくとも住民票がコンビニで取得できることくらいでしょうか。

 

薬の情報など健康管理での活用のほか、台湾の事例を踏まえれば、今後は感染症対策など社会の危機管理での活用という視点での検討も意義があるのではないでしょうか。

マスク

現状、都内に住む私の近隣の薬局は、毎日のようにマスクなどを買い求めて開店前に行列ができています。

 

コンビニや薬局などでもマスク、ハンドソープ、ウェットティッシュ、トイレットペーパーが売り切れになっていたり、販売していても「1家族1点まで」など掲示があったりします。消費者の行動を統制しなければ、ものが行き渡らない状況ということと思います。

 

日本政府が布マスクを全世帯に配布(郵送)すると報道がありました。確かに郵便を使えば、全世帯に届くと思います。台湾のICチップが搭載した健康保険カードでの流通管理という方法も選択肢の1つになると思います

監視と公益

スマホの位置情報で自宅待機を守っているかどうかを確認するなどの台湾の徹底したやり方に対して、人権やプライバシーの視点から怖さを感じたという記事も見ました。

 

今まさに日本でも緊急事態宣言が出されて、それによる私権の制限など、個人の権利と公益の適正なバランスのあり方が議論されている状況です。
このような議論を通して、新しいルールや仕組みが確立されていくと思います。社会が大きく変わるのではないかと感じています。しっかり適応していきたいと思います。

 

(文:星野 周也)

<認知症Cafést内関連記事>

新型コロナウィルス感染症の対応について―高齢者施設の感染管理―

<参考>(本文で示したもの以外)

1. 新型コロナ、台湾で感染者が少ない理由(著者は小路 浩史氏)Medical Tribune2020.03.13付(会員限定)

2. 「日本とは大違い」台湾の新型コロナ対応が爆速である理由(著者は藤 重太氏)President Online 2020.02.29付(会員限定)

3. 呼吸器の病気 > 感染性呼吸器疾患 > かぜ症候群 | 一般社団法人日本呼吸器学会

4. 新型コロナウィルスの感染拡大防止、注目される台湾の取り組みとは(著者は西岡 省二氏)|YAHOO!JAPAN ニュース 2020.3.12付

5. 健康保険カードに全ての海外渡航歴注記へ|Taiwan Today 2020.02.24付

6. 台湾の新型コロナ対策、米医療雑誌『JAMA』で紹介される|台北駐日経済文化代表処 2020.03.05

7. 台湾の新型コロナ対策が「善戦」しているワケ(著者は早川 友久氏)|WEDGE Infinity 2020.02.28付 

8. 3レベルの感染状況指揮センター設置で新型肺炎対策を強化TaiwanToday 2020.01.21

9. WHO「感染予防にマスクは不要」は本当か 専門家に聞いた(著者は牧野 宏美氏)| 毎日新聞2020.03.06

10. 新型コロナ“神対応”連発で支持率爆上げの台湾 IQ18038歳天才大臣の対策に世界が注目(著者は西岡 千史氏)AERA dot 2020.02.29

11. 大混乱を回避、台湾の知られざる「マスク事情」 政府が買い上げ、「マスクマップ」で在庫確認(著者は高橋 正成氏)|東洋経済online 2020.03.07

12. 〔のぞき見〕マスク販売状況を地図上で共有|NNA ASIAアジア経済ニュース 2020.02.04付(有料会員限定)

13. こんなに違う台湾コロナ対策  IT駆使、マスクも買える(著者は西本 秀氏)|朝日新聞デジタル2020.03.06付(有料会員限定)

14. 豪華客船ダイヤモンド・プリンセスとは? 16日間の「東南アジア大航海」で新型コロナウイルスに集団感染(著者は安藤 健二氏)|ハフポスト日本版2020.02.05

15. 〔新型コロナウィルス〕ダイヤモンドプリンセス乗客の台湾内立ち寄り先情報|香港ねこと台北暮らし(ライターネーム「mimi」さんのブログ)2020.02.22

16. 香港の80歳が新型肺炎 クルーズ船で横浜から帰国(著者は益満 雄一郎氏)|朝日新聞デジタル 2020.02.02付

17. 新型コロナウイルスで日台関係はどうなる? 対応の違いが生み出す亀裂とは(著者は田中 美帆氏)|Yahoo!JAPAN ニュース 2020.02.26付

18. ウィルスは国籍も人も選ばない 台湾が空白のWHOは不完全(著者は謝長廷氏)|毎日新聞2020.03.05付

19. 「マイナンバーカードでマスク購入を管理できる」ってホント? ICチップの活用可能性(税理士ドットコムによる配信, 著者は国分 瑠衣子氏)|Yahoo!Japan ニュース 2020.03.14付