認知症の人がヤマト運輸の配送の仕事を行うのは「COOL CHOICE」

 

 

こんにちは。認知症Cafést編集スタッフのSです。

ヒーリングフード協会のイベントに参加 

大学のときに入っていたゼミのメンバーが、現在一般社団法人ヒーリングフード協会の代表理事を務めています。

先日お誘いを受けて、920日、学士会館へ行き、この協会が主催するイベント「子供たちの未来をつくるエコ・フード・フォーラム」に参加してきました。講演を聞き、美味しいランチを頂いてきました。

エコ・フード・フォーラムの趣旨

その人と私が入っていたゼミは環境問題を考えるゼミでしたが、そこでの問題意識はこのフォーラムの趣旨に連なっています。

 

健康で美しい地球のもとで、自然の恵みをたっぷり受けて生命力あふれる食事を感謝して美味しくいただく食卓を、自分たちも楽しむ一方で、未来の子供たちにもちゃんと継承していきたいと思いませんか?

 

エコ・フード・フォーラムは、そんなエコグルメな大人が集い、環境問題について考え、行動の輪を広げていくきっかけにつなげる食事つきの会合です。

 

「環境問題を考える」や「自分たちも楽しむ」という視点が「エコグルメ」という言葉に集約されていますね。

海洋プラスチック問題

 

この日のテーマは海洋プラスチック問題でした。(注:このフォーラムでは「プラスティック」と表現されておりました。当サイトでは若干簡略化して「プラスチック」と書きます。)

 

7月からプラスチック製レジ袋が有料化しましたね。
レジ袋をはじめとするプラスチック製品を無駄に使い捨てていないかを見直すきっかけにしてもらうのが狙いであったと聞きます。
背景にあるのは環境問題の深刻化で、朝日新聞デジタルの記事では、次のように書かれています。

海洋プラスチックごみの問題も深刻です。適切に処理されなかったプラスチックごみは、世界で年800万トンが海に流れ込んでいると推計されています。プラスチックは自然の中で分解されにくく、海の生き物が誤ってのみこむ、体に絡まるなど、生態系に悪影響を及ぼします。50年には海のプラスチックごみが魚の重量を上回るという試算もあります。

出典:レジ袋有料化から考える ゴミ袋の売れ行きが伸びる矛盾(著者は水戸部六美、中島嘉克、 根岸拓朗の3氏)|朝日新聞デジタル 2020年9月13日

講演を聞いてのメモ①、②

フォラームでのスピーカーであった、環境省の飯野暁氏の講演「暮らしの中の海洋プラスチック問題」を聞いてのメモを3点記します。

メモ① 海のゴミの約8割は川・街からやってきている

「街から…」と言われるとショックですよね。実感がわかないですね。
ポイ捨てや屋外で放置されたプラスチックゴミが雨や風によって排水溝や川に流れて、最終的に海に行き着いているということです。

 

関連URL(YouTube)

海のゴミの約8割は、川・街からやってくるって知ってますか?|海さくらチャンネル 2020/04/18

ポイ捨てごみはどこへ行く?~海を漂うプラスチック~|CityOfYokohama 2019/05/07

メモ② 『大阪・ブルーオーシャン・ビジョン』

日本からの政策の動きと思い、心に残った点です。

 

2019年6月に大阪で行われた20か国・地域首脳会議(G20)において、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す『大阪・ブルーオーシャン・ビジョン』が掲げられました。

 

そして、2019年12月、スペイン・マドリードで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)で、『大阪・ブルーオーシャン・ビジョン』のラウンドテーブルを実施し、このビジョンを共有する国・地域の範囲を拡大しました。

 

飯野氏の「気候変動を扱う会議の場とは言え、海洋プラスチック問題を取り上げてもいいではないか?」という発言に担当の役人としての気概を感じました。その発言を聞いて、環境問題に関心のある一個人の立場からすれば、一人ひとりの暮らしをどう変えれば温室効果ガスが減り、海洋プラスチックゴミを減らすことができるかは、当然いずれも知りたいことだと思いました。

講演を聞いてのメモ③

メモ③ 「COOL CHOICE」

そして、今回の飯野氏の講演で一番びびっときたのが「COOL CHOICE」の話です。

 

「COOL CHOICE」は、環境省のサイトの関連ページによれば、2030年度に温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減するという目標達成のため、脱炭素社会づくりに貢献する製品への買換え・サービスの利用・ライフスタイルの選択など、地球温暖化対策に資する『賢い選択』をしていこうという取組のことです。

 

クールビズという言葉がありますが、「COOL CHOICE」という言葉もあるのですね。
「COOL CHOICE」の具体的なキャンペンとして、「5つ星家電買い替えキャンペーン」、「できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」、「エコ住キャンペーン」、「エコカーキャンペーン」がそのページでは掲げられています。

「できるだけ1回で受け取りませんか」と認知症の人に配送の仕事を担ってもらう取り組み

なぜびびっときたかと言いますと、「COOL COICE」の中に「できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」があります。
宅配便の再配達という無駄を削減するためのキャンペーンですが、これと、福岡県大牟田市で、認知症の人にヤマト運輸の配送の仕事を担ってもらう取り組みが結びつきました。

福岡県大牟田市の取り組み

大牟田市のその取り組みは、認知症の人を<守る対象>(支援の対象)としてのみ捉えるのではなく、ときには地域のためにはたらき、貢献する<まちの一員>として捉えていこうという考えに基づいています。

 

それを受けて、大牟田市のヤマト運輸では、昨年から配送の仕事を、介護事業所を利用する認知症の人に委託を始めたのですが、これはさまざまな狙いを有しており、不在配送の再配達という無駄や、宅配業者、配達員にかかる負担の削減も1つの狙いになっています。

 

宅配業者の悩みのひとつは、日中に荷物を配送した際に不在で、何度か配送をしなくてはならないことです。この委託では、荷物をあらかじめ、地域の介護事業所に届け、そこから先は、介護事業所のスタッフと認知症の人がペアになり、徒歩で荷物を届けます。仕事は、有償のボランティアとして、謝礼も支払われます。認知症の人本人にとっては、他の人のために役立つことがしたいという思いを叶えることができます。また、介護事業所としても、利用されている方や事業所のことを、地域の人に知ってもらい、顔馴染みの関係をつくることができます。宅配業者としても人手確保が課題となる中で、互いにメリットのある活動となっているのです。

参考:守る対象からまちの一員へ 大牟田氏(福岡県)(著者は徳田雄人氏)|認知症共創ハブ 2020.09.04

再び「できるだけ1回で受け取りませんか」ー地球環境への負荷を削減するー

宅配便の再配達のトラックから排出されるCO2の量は年間でおよそ42万トン(2015年度国交省調査)と推計されております。
できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」は地球環境への負荷を削減する取り組みになります。

終わりに

海洋プラスチック問題から、「環境問題」を接点に、気候変動の問題につながり、気候変動の問題に対するアプローチである「(温室効果ガスの削減のための)COOL CHOICE」を接点に、認知症の人にヤマト運輸の配送の仕事を担ってもらうことへつながりました。それは認知症の人に役割を担ってもらう活動であり、配達員、トラックドライバーが不足しているという社会課題へのアプローチでもありました。
介護事業所の職員としても、認知症の人に役割を担ってもらうこと、そして、そのことを通して地域と接点でき、地域に役立つことができるというのはやりがいのあることではないかと思います。

 

海洋プラスチックごみや温室効果ガスの削減は、取り除けるなら取り除いた方が良いという話でしょう。宅配便の再配達という無駄も取り除けるなら取り除いた方がよいことでしょう。
これらの着想にならって言うならば、工夫をすれば地域に貢献することができるにもかかわらず、認知症の人に役割がなく、何もすることがなくなってしまっている状態もまた、(取り除いた方が良い)社会的に無駄なことと言えるのではないでしょうか。

(終)

 

 

 

【特集】尾張旭市での「あたまの健康チェック®」の利活用と7年間のデータから見えてきたこと①

 

こんにちは、「あたまの健康チェック®」の普及担当スタッフのムッシュです。

(2019年2月22日の「今日は猫の日…」というコラム記事以来の登場です)

「あたまの健康チェック®」は全国の自治体で利活用されている

簡易認知機能検査サービスの「あたまの健康チェック®」は、幸いなことに北海道から沖縄まで全国の約60の自治体にて、認知症予防・介護予防の事業で利活用されています。

今回は、2013年度より全国自治体で初めて「あたまの健康チェック®」(以下、®を外して「あたまの健康チェック」と記す場合もあります)を採用した愛知県尾張旭市の取り組みを紹介します。
そして、約7年間のデータから見えてきたことも紹介します。

愛知県尾張旭市の取り組みー『あたまの元気まる事業』ー

対象者

尾張旭氏の『あたまの元気まる事業』は、市内在住で40歳以上かつ要介護認定を受けていない方を対象としています。

 

取り組みの概要

・市の福祉部健康課が中心となり、あたまの健康チェックを実施
(週3日の予約制の体制で、出張チェックも行っている)

・結果はご家族や関係者に情報の提供をしたうえで、保健指導や健康増進事業につなげている

・医師会、歯科医師会、薬剤師会と連携し、地域全体で一次予防の取り組みをしている

 

補足:一次予防、二次予防、三次予防

一次予防という言葉が出てきましたので、補足をしておきます。

 

健康づくりに関する議論で、一次予防、二次予防、三次予防と対比的に使われます。
下表でご確認ください。

一次予防 生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等を予防すること
二次予防 健康診査等による早期発見・早期治療
三次予防 疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図ること

 

一次予防は健康との関係では積極的な考え方ですね。
発症した後の対応(三次予防)ではなくて、発症する前からのアプローチ(一次予防)ですから。
また、健康に良いとされていることに日頃から取り組んでいくことを促す(一次予防)というのは、検査を受けて早期発見に努める(二次予防)こと以上に、前向きで、積極的と言えるでしょう。

補足を踏まえてー『あたまの元気まる事業』の位置づけー

尾張旭市の『あたまの元気まる事業』は、40歳以上で要介護認定を受けていない方に、簡易認知機能サービスの「あたまの健康チェック」を受けてもらい、受検した人をはじめとする地域全体の健康増進活動に結びつけていくということで、積極的な取り組み(一次予防)と言えます。

 

7年間のデータから見えてきたこと

この7年間で4383回(今年7月末時点)の受検がなされました。
データが蓄積されて見えてきたことがありますので、紹介したいと思います。

受検時の年齢と認知機能指数(MPI)との関係

まずは、4383回の受検データについて、下のグラフをご確認ください。
受検時の年齢(40~90歳)を横軸、そして、認知機能指数(MPI)を縦軸にしてグラフ上に分布させたものです。グラフ上の各点(プロット)が1回分のデータです。このグラフ上に4383個の点があると思ってください。

 

グラフ①  受検時の年齢と認知機能指数(MPI)の関係

グラフから読み取れること

年齢が増えるごとに、認知機能指数(MPI)の得点の分布が下にずれていくことが分かります。
年齢ごとに認知機能指数(MPI)の平均値が下がっていくというデータなのだと思います。

 

また、軽度認知障害であるMCIの疑いありと判定される割合(MPIの得点が49.8以下)が年齢とともに増えていくことが分かります。

補足:認知機能指数(MPI)について

・簡易認知機能検査サービス「あたまの健康チェック®」の受検により算定される対象者の認知機能を示す指数
・0-100の数値で表記される

 

表1 MPIスコアと判定の対応

MPIスコア 判定
50.2≦MPI≦100 問題なし
49.8<MPI<50.2 ボーダーライン
0≦MPI≦49.8 MCIの疑いあり

参考:FAQ(ページの下の方にMPIスコアに関するQ&Aがあります)|簡易認知機能スケール あたまの健康チェック®のサイト

 

年齢区分ごとに「MCIの疑いあり」と判定される割合の違い

グラフに、年齢区分ごとの「MCIの疑いあり」と判定される人の割合の情報を追加してみました。

 

グラフ②  年齢区分ごとに「MCIの疑いあり」と判定される割合の違い

注:このグラフでMCI判別割合とは、受検の結果、MPIスコアが49.8以下で、「MCIの疑いあり」と判定された人の割合です。

 

このグラフ②を表にもしてみました。

↓↓ ↓↓

表2 年齢区分ごとのMCI判別割合(MPIスコアが49.8以下の人の割合)

年齢区分 MCI判別割合
40~64歳 2.1%
65~74歳 7.8%
75~90歳 50.4%

 

グラフ・表から読み取れること

40~64歳に比べて、65~74歳(前期高齢者)、75~90歳(後期高齢者)において、「MCIの疑いあり」と判定される人の割合は増えます。
特に75~90歳では半数の人が「MCIの疑いあり」と判定されるという結果でした。

終わりに

あたまの健康チェックは単純化して言えば、10個の単語をその場で覚えてもらうという検査です。加齢とともに短期記憶の力が弱まるというのは広く知られていることと思います。
今回紹介した、約4400回分の受検のデータで、視覚的に示すことが出来ています。

 

今回はここまでになります。
尾張旭市では、さらに、分析を進めて、認知機能が維持・改善したりする人の特徴や、MCIの疑いありと判定される人の特徴についても報告をしております。
それは改めてお伝えします。

(終)

 

 

 

 

部屋の片づけと認知症予防

 

こんにちは。認知症Cafést編集スタッフのマツです。
前回の記事「自粛生活に自炊はいかが?うつ病や認知症の予防効果も…」では認知症と自炊について取り上げましたが、今回もそのシリーズで、部屋の片づけを取り上げます。

片付けられない私の現状

私は正直言って片付け下手です。むしろ散らかっています!!(きっぱり)
バッグやら楽器やらを雑然と床に置いてしまっていて、何かをするにもそれらを動かしてからでないと始められないというありさまです。
自然と何かを始めることが億劫になり、また散らかしたままにしてしまうという負のスパイラルに陥ってしまっています。

 

やったこと その1:モノの定位置を決める

そこで重い腰を上げて、とにもかくにも片づけをしようと思い、まずは整理のためにキャスター付きの3段の整理棚を買いました。
床に物を置いてしまうのは、その置き場所が決まっていないか置き場所がないからだと思い立ち、それらを分類してその棚に収納してみました。すると、恥ずかしながらも部屋の中がぐっと歩きやすくなり、家事なども以前よりこまめに行うようになりました。
参考記事にもあるように、部屋が散らかっていると無意識のうちにストレスを感じていて、心身の不活性につながったり、認知症やうつ病の原因にもなったりするのだろうということを、経験として実感しました。

やったこと その2:溜まる前に片付ける

また、片付けを面倒だと感じるのは限界まで溜めてしまうからだ、限界まで溜めてしまうのは過去の経験から「片付けは大変だ」と学習してしまっているからだということに思い至り、現在では次の目標として、溜まる前にやるを心がけています。
モノが溜まる前に片付けをしてみると、片付けというのは意外と大変ではなく、すんなり片付くものです。
部屋が片付いていると「何かを始めよう」という気持ちになりやすく、これも心身の不活性化予防になると感じました。

まとめ

以前聞いた話で、部屋をきれいに保つ秘訣は定期的に誰かを招くことだというものがあります。
この点を考えても、コロナ禍の昨今、部屋は散らかりがちになるのだろうと思います。

 

夏休みの宿題は最終日にまとめてやる派だった私ですが、これからはこまめに動いて認知症予防&ダイエットに励みます(笑)。

 

 

 

 

 

☆☆イベント情報☆☆ てんのうだいおれんじカフェ(10/28、我孫子)

 

こんにちは、認知症Cafést Online編集スタッフのSです。

10月28日に久々に『てんのうだいおれんじカフェ』が開催予定

今月28日に、千葉県我孫子での『てんのうだいおれんじカフェ』が久々に開催される予定です。
今年の1月22日に開催されて以来になります。

 

担当者が市役所と連携しながら準備を進めてきました。
時短での開催です。
ただし、新型コロナ感染増加など状況によっては中止になります。

 

てんのうだいおれんじカフェ(10/28、我孫子)

 

開催日
令和2年 10月28日(水) 17時~18時
プログラム 17時15分~18時00分
食事 今月は食事はありません。
場所
セントケア我孫子デイサービス(千葉県我孫子市天王台4-5-1 シャトー天王台1F)
内容
「ロコモシンドロームを予防しよう」~いつまでも元気で生活するために~
講師
轟 幸治氏(匠マッサージ 鍼灸あんまマッサージ師)
料金
なし
持ち物
上履き/飲み物(ペットボトル&水筒)/マスク着用

お願い!!
必ず検温し、体調の悪い方は、参加をお控えください!

『てんのうだいおれんじカフェ』について

「みんなで地域を支え合える住みよいまち作り」がこのおれんじカフェのコンセプトです。
2015年12月に第1回を開始し、以降毎月第4水曜日に開催してきました。(経緯の詳細はこのページの下にありますインタビュー記事を参照してください)

問い合わせ先

田中直通/090-3427-7466
セントケア我孫子デイサービス/04-7181-7580

 

 

 

 

認知症のリスク要因2020年版―3つの要因が追加されて計12個に―

 

過去にカフェストのコラム記事(後述)で取り上げたことがありますが、3年前の2017年、Lancetという海外の医学雑誌に、9つの認知症のリスク要因が発表されました。

 

3つの要因が追加されて計12個に

同雑誌の2020年8月8日付けの記事では新たに3つが追加され、計12個のリスク要因のモデルになったと述べられています。

 

全部で34ページある記事ですが、まず冒頭の数ページを読みました。
冒頭の数ページは主に「要約」の部分で、この記事の“key messages”を確認できます。
その段階ではありますが、(必要に応じて、記事本文の関連箇所にも目を通しながら)ご紹介できることをしていきたいと思います。

9つの要因と新たに追加された3つの要因

3年前のLancet(以下、Lancet2017と呼ぶ)と、今回のLancet(以下、Lancet2020と呼ぶ)で発表された要因を表にまとめました。

 

 

この表で確認していただけますとおり、新たに追加された3つの要因は、「外傷性脳損傷」「過度のアルコール摂取」「大気汚染」です。

リスク要因のモデルーライフコースモデルー

認知症の要因が人生全般にわたる(各年齢区分ごとに配置している)ということ

さきほど、「新たに3つが追加され、計12個のリスク要因のモデルになった」と申し上げました。「モデル」という言葉を無視しても、意味は通じるかと思いますが、英語では“life-course model”(以下、ライフコースモデルと呼ぶ)という書き方もされています。ですから、「モデル」とは、この12個の要因を、多数の先行研究をもとに、「45歳未満」、「45歳以上65歳以下」、「65歳より上」という年齢区分ごとに配置していることを踏まえたものと思います。
これによれば、認知症の要因は人生全般にわたっているという見方になります。

ライフコースモデルであることの政策的含意

これらの12個の要因が、遺伝など先天的要因ではなく、変えられる可能性がある要因だという点も大事なところです。

 

ライフコースモデルの見方に立てば、認知症予防のための政策も各年齢区分ごとに行うべきだということになります。例えば、子供のときの教育機会の保障のような政策がマスで見れば何%かの認知症予防(あるいは遅らせること)につながるという立場です。
ですから、変えられる要因というのは、単に個人の努力で「肥満を防ぐ」、「糖尿病を予防する」ということのみを促しているのではなく、社会的に環境整備をすることで、社会全体で「肥満」や「糖尿病」が起こりにくくなるようにしたらどうかという政策的含意も含んでいます。

新たに追加された3つの要因について

それでは、これからは、今回Lancet2020にて追加された認知症の3つの要因について言及したいと思います。

大気汚染と認知症の関係

3つの要因のうち、大気汚染と認知症の関係については、カフェストの記事にて、ある論文を詳しく紹介したことがあります。

こちらです。

新型コロナの流行がもたらしたクリーンな空ー大気汚染と認知症の関係ー(2020/05/29)

 

Lancet2020で「大気汚染」が12の要因の1つとして言及されたということは、カフェストで紹介した論文に限られず、研究の知見の蓄積があるということでしょう。

 

(カフェスト編集者のコメントです→)65歳を過ぎたら、空気がきれいなところで住みたいと思わされますね。

外傷性脳損傷と認知症の関係

■外傷性脳損傷とは?

本記事では、外傷性脳損傷に軽度、重度の区分がされています。

 

・軽度の外傷性脳損傷…脳しんとう

・重度の外傷性脳損傷…頭蓋骨骨折、脳浮腫、脳損傷、脳内出血

 

 

■外傷性脳損傷の原因

本記事では、以下の原因が列挙されています。

 

・車、オートバイ、自転車での損傷

・従軍時の被害

・ボクシング、乗馬、その他のスポーツ

・銃器

・転倒

 

 

■外傷性脳損傷と認知症の関係(いくつかの研究の知見)

 

・外傷性脳損傷は1年後の認知症リスクを高めていた。30年間の長期の期間で見ても、(1年後ほどではないが)認知症リスクを高めている結果であった。(スウェーデンで50歳以上の300万人を対象とした研究において)

・軽度の1つの外傷性脳損傷でも認知症のリスクを高めていたが、重度である場合や、複数の外傷性脳損傷の場合は、そのリスクがより高まった(同上のスウェーデンでの研究において)

・外傷性脳損傷は他の身体部位の骨折よりも認知症のリスクが高かった。(デンマークで50歳以上の300万人を対象とした研究において)

 

 

■スポーツによる頭部外傷(慢性外傷性脳症)と認知症の関係

スポーツによる頭部外傷(慢性外傷性脳症)はまだ十分には特徴が把握されてはいないようですが、次の研究結果が出ています。

 

・スコットランドの昔のサッカー選手において、死亡診断書においてアルツハイマー病と死因が特定されている割合、及び、認知症関連の薬が処方されていた割合(注:薬の処方については治療上の記録に基づくものではないとのただし書きはあります)が有意に高かった。

 

過度のアルコール摂取と認知症の関係

■アルコール摂取(飲酒)に関する“key message”の確認

Lancet2020の冒頭の“key message”にて、アルコール摂取についてどう書かれているかをまず確認しましょう。大筋のまとめのメッセージと見て良い部分でありましょう。

 

アルコールの使用障害及びアルコール摂取が1週間に21ユニットより多い場合に、認知症のリスクが高まると書かれています。

 

 

■補足:1ユニットは純アルコール8gの量

この記事では1ユニットは純アルコール8gの量です。
1週間に21ユニットということは1日あたりでは3ユニットで、純アルコール24gの量です。

 

1日分弱に相当する純アルコール20gがどれくらいかを示します。

ビール(5%) ロング缶1本 500ml
日本酒 1合 180ml
ウィスキー ダブル1杯 60ml
焼酎 グラス1 / 2杯 100ml
ワイン グラス2杯弱 200ml
チューハイ(7%) 缶1本 350ml

出典:適量ってどのくらい?|SUNTORY

 

認知症のリスクを減らすという立場からは、この表に示された「ビールロング缶1本分あるいは日本酒1合あるいは(以下略)」が1日の適量と言い換えて良いでしょう。

 

 

■過度のアルコール摂取と認知症の関係(いくつかの研究の知見)

 

・週に14ユニット未満の飲酒と比較して、週に21ユニットより多く飲酒すること及びまったくお酒を飲まないことは、認知症のリスクを有意に高めていた(イギリスの9087人を対象とした、23年間の追跡期間を有する研究において)

・(大酒飲みとまったくお酒を飲まない人を分析対象から外した解析にて)週に21ユニットより少ない飲酒は、認知症のリスクが有意に低かった。(イギリスの13342人を対象とした、5年間の追跡期間を有する研究において)

・アルコール依存などアルコール使用障害は65歳未満での認知症発症のリスクを高めていた。(フランスの3100万人を対象とした研究において)

 

(カフェスト編集者のコメントです→)“key message”は、「週に21ユニットより多く飲酒することが認知症のリスクを高める」でありました。一方、個々の研究では「まったくお酒を飲まない場合に認知症のリスクが高まる」という結果も出ているのですね。
まずは、“key message”で掲げられた見解を頭に入れておくのが良いと思います。

終わりに

Lancet2020にて新たに追加された3つの要因を紹介させていただきました。
その中で特に、「外傷性脳損傷」と「過度のアルコール摂取」につきまして、どの程度の脳損傷なのかや、どの程度のアルコール摂取なのかが個人的にも気になりました。そこで、記事本文の該当箇所を読み込み、ネットの情報も参考にして、読者の皆様に少しでも具体的にイメージを持っていただけることを目指して、紹介させていただきました。

 

Lancet2020は315本の先行の研究論文を参考にした34ページの記事です。本サイトにとっても、皆様にとっても有用な情報がたくさんあると思います。今後もさまざまな観点でご紹介していければと思います。

 

(文:星野 周也)

 

<認知症Cafést内関連記事①>(Lancet2017について)

認知症予防は若いころから

予防できる認知症、9つの要因

<認知症Cafést内関連記事②>(その他)

アルコール性認知症

激しいスポーツと認知症の関係

<参考>

1. Gill Livingston et al.(計26名の著者)Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report the Lancet Commission, Lancet; 396: 413-446

2. About us|The Lancet(医学雑誌Lancetのwebサイトでの自己紹介ぺージ)

3. Bridget M. Kuehn, Nearly Half of Dementia Cases Could Be Prevented or Delayed, JAMA September 15, 2020, 324(11):1025

4. 高血圧と糖尿病はどっちが高リスク? 認知症を避ける専門医の切り札 第240代、50代から認知症のリスクが上がる? やるべき対策は?(著者は二村高史氏)|日経Gooday 2020/06/23

5. 認知症のリスク因子について|特定医療法人恵和会 石東病院 2020年9月10日

6. 12の危険因子を意識した認知症予防@世界アルツハイマー月間(著者は下畑享良氏)|Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文 2020923

7. 頭部外傷|医療法人啓清会関東脳神経外科病院

8. スポーツによる頭部外傷|はしぐち脳神経クリニック

9. オッズ比(疫学用語の基礎知識)|一般社団法人日本疫学会

10. Military Exposures|U.S. Department of Veterans Affairs

11. 慢性外傷性脳症(CTEChronic Traumatic Encephalopathy )|MSD マニュアルプロフェッショナル版

12. アルコール依存症の診断基準|特定非営利活動法人アスク

13. アルコール使用障害とリハビリテーション|MSDマニュアルプロフェッショナル版

14. アルコール依存症の基礎知識|那須こころの医院

 

 

 

リモートワークに感謝

 

こんにちは、認知症Cafést Online編集スタッフのUです。

 

リモートワークを続ける中で、日々運動不足を実感しています。
かと言って街中を歩き回るのはまだまだ気が引けます。

ハイキングへ

そこで、ハイキングならばと、六国峠(ろっこくとうげ)ハイキングコースへ行ってきました。昨年は台風の影響で通行止め区間がありましたが、現在は通行可能のようです。

 

いくつかルートがありますが、今回は金沢文庫駅から金沢自然公園、天園、建長寺、北鎌倉までの、おそらく一番長いルートを選択してしまいました。(途中で激しく後悔)

やらかしてしまいました・・・

リモートワークに感謝

自分の身体の鈍り具合をなめていました⤵⤵⤵

その後三日間、歩くことすらままならず、むしろリモートワークで助かりました。

 

 

脳に良いとされている食材についてー『主治医の見つかる診療所』からー

 

 

本日は認知症Cafést Online編集スタッフのKが、Editor‘s Tweetをお届けします!

蛭子さんの認知症改善プロジェクト

昨日放送された『主治医の見つかる診療所』(テレビ東京)で、脳を活性化するためのポイントが紹介されていました。認知症と診断されたタレントの蛭子能収さんが認知症の進行を緩やかにする為に、様々な体験をしていくものでした。

関連URL

認知症と診断された蛭子能収「いつまでも働いてお金を稼ぎたい…」進行を抑えて症状を改善するべく<認知症改善プロジェクト>がスタート!|テレ東プラス 2020.9.30

脳を活性化させるポイント

非日常的な体験をすることで、脳が活性化される(ドーパミンが出て良い刺激となる)ことや、料理をすることで脳をフル活用することなど。

料理は調理工程を考えたり、味付けを行ったり、盛り付けを考えたりと様々な工程が混じっているため、脳にとって刺激となるようです。

脳に良いとされている食材について

また、脳に良いとされている食材も紹介されていました。

鶏肉やホタテ

鶏肉やホタテはプラズマローゲンが含まれており、記憶力の一部を維持できるとの研究もあります。このプラズマローゲンはアルツハイマー型認知症の原因の一つであるアミロイドβタンパク質の蓄積を抑制する作用があるとされています。
ホタテにはEPADHAも入っているとのことで、亜麻仁オイルなどで調理するのも良いですね!

ホタテや亜麻仁オイルについての補足(オメガ3脂肪酸)

ちなみに、EPAやDHAオメガ3脂肪酸に分類されます。亜麻仁オイルはα-リノレン酸という別のオメガ3脂肪酸が多く含まれています。

パプリカ、カボチャ、ナス

その他にも、パプリカ(ベータカロテン)カボチャ(ビタミンE)も良いとされています。

番組では、ナスもコリンエステルを含んで認知症予防効果が期待できる食材として紹介されています。現段階ではナスの認知症予防効果のエビデンスとしては弱いですが、これから研究が進み、予防効果につながると期待します。

日々の微細な変化に気付いていくことが重要

このように、日常生活での認知症予防に向けた食材などがたくさん紹介されていますが、やはり(認知機能の)日々の微細な変化に気づいていくことが重要ですね。

 

カフェストの記事でも何度か紹介しております、あたまの健康チェック®では、認知機能の変化を簡単にかつ高精度に確認することができるものとなっているので、気になる方は併せて見てみてください!