記憶とにおいの関係ープルースト効果は裏付けられること?ー

 

写真はiStockから

 

プルースト効果とは?

紅茶に浸したマドレーヌの香りによって、幼い頃の記憶が呼び起こされる。

 

マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』(← Amazonへのリンク)では、主人公が紅茶に浸してやわらかくなったひと切れのマドレーヌを食べたことをきっかけに、過去の記憶が蘇る場面があります。

このマドレーヌの一節をもとに、嗅覚や味覚から過去の記憶が鮮明に蘇る心理現象は「プルースト効果」と呼ばれるようになりました。

 

特に今回、注目したいのが、記憶とにおいの関係です。

プルースト効果は裏付けられること?

プルースト効果は裏付けられることなのでしょうか?
そうかもしれないというのが回答になります。
そのお話をしてみます。

それを解く鍵(1) 記憶とにおいに対応する脳の部位

それを解く鍵の1つ目は、記憶とにおいに対応する脳の部位を確認することです。

 

記憶を司る脳の部位は海馬(かいば)で、
におい(嗅覚)を司る脳の部位は嗅球(きゅうきゅう)です。

それを解く鍵(2) アセチルコリン(記憶や学習に関係する神経伝達物質)

それを解く鍵の2つ目はアセチルコリンという記憶や学習に関係する神経伝達物質です。
現段階ではまだ伏線の情報なのですが…。

 

脳の神経回路ではニューロンとニューロンが情報のやりとりをしています。ニューロンとニューロンの間は隙間(シナプス間隙と言われます)があって、密着しているわけではありません。
ニューロンとニューロンの接続部分で、片方のニューロンから神経伝達物質を放出して、もう片方のニューロンでそれを受け取るということをして情報を伝達しています。

 

その神経伝達物質(50種類くらいあるそうです)の1つであるアセチルコリンは記憶や学習に関係すると言われています。
認知症との関連で付け加えると、アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンを作る細胞が減少していると言われています。

それを解く鍵(3)脳の中のアセチルコリンの流れ

それを解く鍵の3つ目は脳の中のアセチルコリンの流れです。

 

模式図にしてみました。
カフェスト編集スタッフが以前参加した講演会(後注)での講義資料を参考にして作成しました。
前脳基底部という場所から嗅球、海馬、新皮質という場所へアセチルコリンは流れています。

 

記憶を司る海馬と、においを司る嗅球は、共通の根っこ(前脳基底部)からアセチルコリンを受け取っているというわけです。
なお、新皮質は認知を司る脳の部位です。

 

嗅覚機能の低下はアルツハイマー病の初期症状の一つ

アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンが減少するのでした。模式図で示唆されるように、記憶を司る海馬でも、においを司る嗅球でもアセチルコリンが減少するということになります。

 

記憶が低下し、嗅覚機能も低下するということの関連性が浮かび上がってきますね。(これらの因果や関連を科学的に厳密に確定するというのは、簡単ではないようなのですが…)

終わりに

ということで、プルースト効果について裏付けられる「かもしれない」と言いましたが、ちょっと“におい”ますね。
記憶とにおいの抜き差しならない関係性が…(笑)。

 

(文:星野 周也)

 

 

<後注>

「脳の中のアセチルコリンの流れという模式図」は令和2年(2020年)1月25日に参加した認知症講演会での資料を参考にして作成しました。
講演会のチラシは残ってましたので撮影しました。

 

 

 

マサイ族の塩分とは“無縁”な暮らし

 

こんにちは。
認知症Cafést編集スタッフのSです。

塩分とは“無縁”…

塩分とは“無縁”…“無塩”…

 

ダジャレの書き出しになってしまいました。
無塩というのは言い過ぎなのですが、アフリカのマサイ族(東アフリカのケニアからタンザニアにかけて住んでいる)は少ない塩分で暮らしているという記事を読みましたので、ご紹介します。

 

高血圧予防のため、塩分の摂りすぎには日々気をつけていますので、
少ない塩分の暮らしというのは関心があります。

 

記事はこちらです。
現代人は「塩中毒」!? 人間が塩のとりこになる驚きの理由|NHK(2019年12月13日)

マサイ族の食事は1日2リットルのミルク

この記事では

彼らの食生活を見てみると、朝ご飯は搾りたての牛乳だけで、他には何も食べていない。そして夕飯も、搾ったヤギの乳。なんど、1日2リットルも飲むミルクが、彼らの主食なのだ。

 

と書かれています。

2グラムの塩で暮らしている

そして、1日に飲む2リットルのミルクにはわずか2グラムほどの塩が含まれているので、2グラムの塩で暮らしているということになるのだそうです。(注:ちなみに、日本人の食塩摂取量の平均値は令和元年で1日10.1グラム)

 

2リットルのミルクでの暮らし―放牧、ヨーグルト、生き血―

別の記事
野菜を食べないマサイ族の食の秘密(著者は江部康二氏)|毎日新聞(2016年9月10日)

 

では、2リットルのミルクでの暮らしがどのようなものかについて少し詳しく書かれています。

 

マサイ族の主食は現在でも牛乳とヨーグルトです。牛乳、ヨーグルト合わせて1日に2〜3Lも摂取します。毎日、牛の放牧をしながら何kmも歩き、その間、牛乳を入れた「キブユ」というひょうたんを腰にぶら下げ続けているので、数日間で牛乳は自然発酵し、ヨーグルトになります。長時間歩いていますから、主に摂取するのは新鮮な牛乳より、搾乳してから2〜3日が経過したものや、さらに時間がたってヨーグルトになったものの方が主となります。この主食だけで不足する鉄分は、牛の生き血を週に数回、牛乳に混ぜて飲むことで補います。

 

牛を放牧して、牛の乳を持ち歩いて牛乳やヨーグルトを食事として、牛の血で鉄分も補っていると聞くと、うまく成り立っているものだと思いますね。

「血はほしくなったとき飲む」

1980年代にマサイ族の食事や健康状態について調査をした家森幸男氏は、栄養学の知識を持ち合わせているわけではないマサイ族が、ときどき牛の首を矢で一突きし、ほとぼしり出る血をミルクに混ぜて飲む行為をすることに関して、次のような感想を述べています。

 

「血はほしくなったとき飲む」という説明を聞いて感心しました。私たち文明人が失ってしまった「不足している栄養素を求める感性」を彼らは備えているのです。

出典:家森幸男『ついに突きとめた 究極の長寿食』(洋泉社, 2011年)

 

知識からではなく、感性から必要な栄養素を欲するというあり方には、ある意味、羨望の念を抱きます。

塩分と高血圧の関係

もとの記事ー現代人は「塩中毒」!? 人間が塩のとりこになる驚きの理由ーに戻って、塩分のとりすぎの弊害について書かれている箇所を確認しましょう。

塩分とりすぎの状態が続くと、血液中に増えた塩分を薄めるために水分(血液の量)が増えて血管を圧迫し、「高血圧」を招く。さらに、そのような状態が長期間続くと、血管が傷つき動脈硬化になったり、脳の血管が破裂して脳卒中を起こしたりする危険が高まるのだ。

 

家森幸男氏の著書(『ついに突きとめた 究極の長寿食』)では、

塩分(ナトリウム)は摂り過ぎると血管壁の細胞の中にとどまってしまいます。すると、その塩分の濃度を薄めるために細胞内に水分が集まり、細胞は膨張して血管の壁が厚くなります。そのため、血液の通り道は狭くなり、血液が流れにくくなり、体中に血液を送らなければと心臓は圧力を高くしていき、高血圧になっていくのです。

と書かれています。

 

厳密には分からないところもありますが、塩分を薄めるために血管に水分が集まり、その結果として、高血圧を招くということは学校でも習ってきたことと思います。

 

さいごに

マサイ族の暮らしは大変興味深いものの、今すぐ真似ることができるというようなものではありません。

 

私たちは、私たちなりに、「塩分の摂りすぎは高血圧を招く」という知識から、あるいは、「薄味に慣れる」という感覚(感性)から、より少ない塩分の生活の実現に向けて取り組んでいきましょう。

 

 

 

 

【令和3年度介護報酬改定】無資格者への認知症介護基礎研修が義務化

 

こんにちは、認知症Cafést編集スタッフのSです。

 

令和3年度介護報酬改定

令和3年度介護報酬改定(本年4月からスタート)では、認知症というキーワードでも新たに追加された事項があります。

無資格者への認知症介護基礎研修受講義務づけ

その1つが、無資格者への認知症介護基礎研修受講義務づけというものです。
以下のスライドは、厚生労働省のホームぺージに掲載されている資料から1枚画像化したものです。

 

出典:令和3年度介護報酬改定の主な事項|厚生労働省 令和3年度介護報酬改定について

 

無資格とは?

無資格は介護福祉士、介護支援専門員、看護師等の資格保有者以外という狭い意味ではありません。例えば、福祉系高校で認知症について学んだ者や、介護職員初任者研修など何らかの研修で認知症について学んだ者は、ここでの無資格者には該当せず、認知症介護基礎研修受講の必要はありません。

認知症サポーター養成講座の修了者は受講義務の対象外とならない

ただし、認知症サポーター養成講座の修了者は認知症介護基礎研修の受講義務の対象外とならない(つまり、研修受講の必要あり)ようです。

 

厚労省が出しているQA集によれば

 

認知症サポーター等養成講座は、認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守り、支援する応援者を養成するものであるが、一方で、認知症介護基礎研修は認知症介護に携わる者が認知症の人や家族の視点を重視しながら、本人主体の介護を実施する上での、基礎的な知識・技術及び理念を身につけるための研修であり、その目的・内容が異なるため、認知症サポーター等養成講座修了者は、義務付けの対象外とはならない。

出典:介護保険最新情報Vol.952 令和3年3月26日「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)(令和3年3月 26 日)」|厚生労働省

 

 

地域で認知症の人や家族を見守るサポーターと、仕事として実際に認知症介護に従事する者を区別して考えているということがうかがえます。一般の人、市民の人向けである認知症サポーターと、仕事として介護をする人の区別と思います。

介護の事業者側の対応

これを受けて、弊社でもそういう状況なのですが、介護の事業者は無資格者を把握して、認知症介護基礎研修を受講させる“責任”が生じており、その対応の検討をしています。

 

ただ、あくまでこの研修の実施主体は自治体なので、介護の事業者側は、自治体の研修の情報をキャッチして、無資格者に受講をさせるという取り組みになります。

eラーニングの活用も

 

認知症介護研究・研修仙台センターが開発した認知症介護基礎研修 eラーニングシステムは、厚生労働省公認ということで、注目をしています。

認知症介護基礎研修 eラーニングシステム

このeラーニングシステムのサイトはこちらです。

認知症介護基礎研修 e-ラーニングシステム|認知症介護研究・研修仙台センター

 

ただし、このeラーングについても、あくまで運用法を決めるのは自治体側です。
2021年5月1日時点の情報にはなりますが、介護の事業者側が自由に登録して、従業員を受講させることが可能というものではないようです。

コロナ禍での研修の形

コロナ禍ですから、研修の形も、1つの会場に受講者を集めて講義をする“集合研修”は見直しを迫られています。

 

無資格者への研修受講が義務づけされたとは言え、認知症介護基礎研修の社会的な運用は、まだまだ試行錯誤が続いているという状況のようです。
eラーニング等を活用し、無資格者の研修受講がしやすい環境が整うことを期待します。