においが分からない!? 「嗅覚低下」の原因と予防法

 

先月、こちらの記事「記憶とにおいの関係ープルースト効果は裏付けられること?ー」で、記憶とにおいの抜き差しならない関係性について述べました。

記憶とにおいの関係の振り返り

振り返りをしてみましょう。

 

・脳の中で、記憶を司る海馬と、においを司る嗅球は、共通の根っこ(前脳基底部)から、アセチルコリンという記憶や学習に関係する神経伝達物質を受け取っている

・アルツハイマー型認知症では、記憶を司る海馬でも、においを司る嗅球でもアセチルコリンが減少する

 

 

認知症の早期発見の手がかりに

ですので、嗅覚の低下は認知症の早期発見の手がかりとなる場合もあると言えます。

嗅覚低下の原因

嗅覚低下の原因として知られていることを以下に列挙します。

 

慢性鼻腔炎(いわゆる「蓄のう症」)や、ダニや花粉などによるアレルギー性鼻炎などの鼻の病気

・ウイルス感染(例として、かぜウィルスインフルエンザウィルス新型コロナウィルス感染症

・加齢

・認知症

・顔や頭をぶつけた後(例として、スキーやスノーボードでの転倒、交通事故)

 

一部補足します。

加齢

嗅覚の低下は、一般に男性では60歳代から女性では70歳代から目立つようになります。

新型コロナウィルス感染症

一般的なかぜの場合は、鼻水や鼻づまりがありますが、新型コロナウィルス感染症の場合は、鼻水や鼻づまりがなくても、突然、嗅覚障害が起こることが多いのが特徴です。

嗅覚低下とサルコペニア(筋力低下や身体機能の低下)の関連性も報告されている

最近では、嗅覚の低下と運動機能の低下の関連性を示す研究結果も出ています。

 

サルコペニアとは筋肉量が減り、筋力が落ちて、歩行速度などの身体能力が低下した状態のことですが、ある研究では、運動機能が正常の人と比べて、運動機能が低下しているサルコペニアの人の方で嗅覚低下の割合が高いという結果でした。

 

嗅覚トレーニング

ドイツでは嗅覚低下を回復させるためのトレーニングがあり、治療にも使われているそうです。
その方法は、朝と晩の2回、レモン、ユーカリ、バラなどのにおいのエキスを数十秒ずつ嗅ぐというものです。それが嗅覚に関わる細胞の再生を促すという立場で行われています。

 

嗅覚トレーニングは認知機能の改善効果も!

効果は嗅覚だけではない可能性があります。
先月の記事で言及し、冒頭で復習した記憶とにおいの関係性を思い起こしてみましょう。

 

動物試験では、ペパーミントのにおいを嗅がせたところ、海馬と新皮質のアセチルコリンの増加が観察されました。海馬は記憶を司る脳の部位でした。

 

鳥取大学の研究では、介護老人保健施設の高齢者を対象に、28日間アロマテラピーを実施したところ、軽度~中等度のアルツハイマー病患者で、認知機能のうち自己に関する見当識の改善がみられたという報告があります。
自己に関する見当識とは自分が何者であるか、どこにいるのか、今はいつなのかなど自分の置かれている状況について把握することです。

終わりにー日常生活の中で出来る“嗅覚トレーニング”ー

関連記事では、日常生活の中で出来る“嗅覚トレーニング”についても言及されていました。

 

意識してにおいを嗅ぐことが、嗅覚トレーニングになります。嗅ぐにおいは何でもかまいませんが、食品や料理などのにおいを何となく嗅ぐのではなく、「調理をするときに、にんにくのにおいを嗅ぐ」「カレーのにおいを嗅いでから食べる」「お風呂につかるときに入浴剤のにおいを楽しむ」など、日常生活の中で意識してにおいを嗅ぐようにしましょう。

出典:病気のサイン!? 味覚・嗅覚の異常 においが分からない(三輪高喜氏)|NHKきょうの健康 2021年3月(←amazonへのリンク)pp.58-61

 

まるで、生き急ぐなかれと言われているようです。
においを味わって生きよ、立ち止まってにおいを確かめてから前に進めーそんなことを言われている気持ちになりますね。

 

(文:星野 周也)

 

嫁と姑ー橋田寿賀子さんが描いた家族ー

 

こんにちは、認知症Cafést編集スタッフのSです。

橋田寿賀子さんに取材した切り抜き記事

脚本家の橋田寿賀子さんが4月に亡くなりました。
橋田寿賀子さんに取材した新聞記事を切り抜いてずっと持っておりましたので、その記事に関して少し書きたいと思います。

 

注:私が持っていた切り抜き記事の一部を撮影しました。

 

この切り抜き記事は朝日新聞2018年1月12日29面の記事です。
デジタル版もあります。

(家族って:9)自立し合う親子、互いのため 脚本家・橋田寿賀子さん(有料会員記事)|朝日新聞デジタル 2018年1月12日

 

さらに、この記事は動画にもなっていて、そこでは橋田さんの生の声を聞くこともできます。

動画:橋田寿賀子さんが語る「家族の形」|朝日新聞社 2018/01/12(YouTube)

嫁姑問題

 

この記事や動画でまず興味深いと思うのが、ご自身の結婚生活で「お姑さん(の存在)がすごく新鮮だった」というご経験から、創作意欲をお持ちになられて、嫁姑問題を題材に「となりの芝生」(1976年)というホームドラマを書かれたという点です。

 

私がおかずを作ると、義母は「こんな水くさいもの食べさせて」と怒る。「塩分控えめにしないといけないんで」と言うと、家族に「口答えするんだで、今度の嫁は」って。弁解すると口答えになっちゃうのがショックでしたね。でも、この出会いがなければ、『となりの芝生』も『おしん』も生まれなかったかもしれない

出典:上記の朝日新聞デジタル記事(2018年1月12日)

『おしん』

『おしん』(1983年4月から放映が始まったNHKの連続テレビ小説)も生まれなかったかもとは…。

 

『おしん』は日本だけでなく、世界60か国でヒットしたと言います。
私は生まれていましたけれど、まだ小さかったので『おしん』の記憶はありません。
それゆえ、世界でヒットしたという状況は「史実」のように感じられますが、社会現象・文化現象として大変興味深いことです。

 

20世紀初頭の日本の貧しい田舎で育つおしんを、多くの人が愛した。おしんはさまざまな悲劇に見舞われながらも生き延び、スーパーマーケット・チェーンの経営者として成功する。

出典:ドラマ「おしん」が世界を魅了、そのわけは 文化や言葉にも影響|BBCニュース(2021年6月5日)

 

『おしん』については、橋田さんは上記の朝日新聞デジタル記事で、次のように言われています。

 

おしんは昭和天皇と同い年。その世代の女を通して昭和を描きたかった。義母も同い年で、「自分はおしんだ」と思ってたから、助かりました。義母にはすごく理屈があるんですよ。世代の違いで価値観が違うだけで、どっちも正しい。だから、正しい者同士の話が食い違っていくのを描きたかった

 

『おしん』の嫁いびり

『おしん』がテレビ放映された当時、佐賀ではちょっとした騒ぎになったそうです。

 

ヒロインが佐賀にある夫の実家に身を寄せた際に、姑(しゅうとめ)から嫁いびりを受けるという内容だったので、当時の副知事が「これでは佐賀に嫁が来なくなる」とNHKに抗議したのだとか。

義理の親を介護して模範嫁と表彰された時代

“昭和”の嫁姑問題に関して、カフェストのテーマである“介護”からも共有してみたいことがあります。

 

かつて多くの自治体で、嫁として長年義父母を介護した女性を表彰する制度を設けていたそうです。義理の親を介護して模範嫁と表彰された時代がありました。

 

高知県で行われていた家族介護者表彰制度についてこちらの記事では次のように書かれています。

 

表彰は70年にスタート。資格は、30歳以上なら5年以上、30歳未満なら1年以上、「寝たきり老人」の介護をしている嫁と孫嫁で、「常に強固な意志と信念を持って明るく誠実な生活を営み、人格円満で寝たきり老人の介護に心身共につくしている模範的な嫁」とされた。86年から対象を「模範嫁」から「優良介護家族」に変え、93年まで続いたという。

出典:義母の介護41年で「模範嫁」に 自治体が表彰した時代(著者は田中聡子氏)|朝日新聞デジタル 2020年5月6日

 

記事にある年数を年号に変換すれば、70年は昭和45年、86年は昭和61年、93年は平成5年になります。
2000年(平成12年)に介護保険がスタートしますから、昭和の後半から平成の前半にかけた介護保険前夜の時期と言えますでしょうか。

終わりに

昭和の後半から平成の前半にかけたこの時期に、私も生まれ落ち、小学、中学、高校と過ごしました。
実家では小学生のときに、父方の祖父母と同居するようになり、長男(父)の嫁である母が義父母の身の回りの世話をする姿を見て育ちました。

 

そのことが今現在、介護の仕事に関わっていることとつながってはいます。
令和の時代に介護をめぐり家族のありかたはどう変容していくでしょうか…。
(終)