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和田行男さんと注文をまちがえる料理店

A group of young adults are sitting in a university classroom. A woman watching the lecture while a man types on his laptop.

 

こんにちは、認知症Cafést編集スタッフの星野 周也です。

 

つい先日、和田行男さんの講演会に行ってきました。
和田さんは30年以上介護の世界に関わり、『大逆転の痴呆ケア』などの本も出されています。
フェイスブックで講演の情報が流れていて、キャッチしました。

注:イベントの情報は広報すぎなみNo.2248 平成31年2月15日付で確認できます。講師名の「和田行男」、テーマ名の「認知症になる僕たちへ」で検索してみてください。

認知症予防の2つの段階

和田さんはユーモアを交えながら、「自分は認知症になりたい」、「認知症になるためにはどうすればよいか?」という視点で語り始められ、会場の雰囲気を和らげてから、改めて、認知症の定義について説明されました。

 

「認知症の原因疾患は多数ある。認知症とは原因となる疾患により引き起こされる生活の支障などの状態だ。」

 

聞きなれた定義ではありますが、和田さんはここから認知症予防には2つの段階があることを導かれました。

①病気にかからないこと(原因となる疾患にかからないこと)
②病気にかかっても生活に支障がこないようにすること

 

この予防の説明にはハッとさせられましたね。

認知症は病気か?状態か?

政府広報オンライン「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」を見てみると、1番目の見出しが『1.「認知症」ってどんな病気?』と書かれています。
したがって、ここでは認知症は病気と捉えられています。つまり、アルツハイマー病、レビー小体病、脳梗塞などの疾病(神経細胞が死んだり、働きが悪くなったりする)と、それにより引き起こされる状態(日常生活や社会生活の支障)を分解せずに、病気と丸めて理解をする言い方と思います。こういう言い方や見方は確かにあります。

 

一方、病気と病気によって引き起こされる状態とを区別して理解する見方も習ってきました。もっとも、和田さんが提示された②の視点について、具体的には、記憶障害、見当識障害(時間や季節感の感覚の障害)、理解・判断力の障害の程度が重くても、生活に障害がなければ認知症でないとどこまで言い切れるか、そしてそのことを認知症予防と言ってよいのかについて、教科書的な正解はすぐには確認できませんでした。しかし、介護の仕事をしてきた人間として②の視点―病気にかかっても生活に支障がない―は忘れてはならないだろうと思います。

ナン・スタディ

「認知症は病気か?状態か?」について、和田さんは、長谷川和夫先生からこういう話を聞いたと紹介をされたのですが、ナン・スタディのことと思い当たりました。

注:長谷川和夫先生についてはこちらのツイート記事「長谷川和夫先生から引き継がれているもの」を参照してください。

 

ナン・スタディとは、アメリカの修道女678名を対象とした研究で、修道女が亡くなった時に脳を解剖させていただき、アルツハイマー病を発病していたか、認知機能はどうだったのかについて検討をしています。

 

岩田淳(東京大学医学部附属病院 神経内科医師)先生がある記事で、ナン・スタディについて次のように解説をされています(注1)。

アルツハイマー病の病理学的所見が非常に強くても、大して認知機能に異常がなかったという人はたくさんいたし、アルツハイマー病の病理学的所見がほとんどなくても、結構認知機能が低下している人がいるのです。

 

この結果からは、和田さんのご説明のとおり、病気(脳の病理)と状態とが区別できることが示唆されます。

認知症予防は疾患にならないことか?生活に支障をきたさないことか?

先日、開催された認知症Cafést生誕一年記念オフ会・交流会で、「記事が予防に寄り過ぎていないか?」とのご意見を頂いたことを思い出しました。ここでの予防は①の意味での予防、すなわち、病気にならないことです。しかし、病気にかかった後の視点、具体的には、脳の病気にかかり認知機能の障害が現れ始めてもそれ以上の進行を予防するという視点や、認知機能の障害があっても安心に暮らせる(日常生活や社会生活に支障がない)という視点についてはあまり書かれていないのではないかというのがご意見の趣旨でした。

 

それゆえ、和田さんの整理がストンと響いたのだと思います。宿題(いわゆる「予防」―病気にかからないという意味での予防―に寄るのか否かなどのスタンスを明確にする)を課されたと思っています。

注文をまちがえる料理店

和田行男さんは「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトの実行委員長をされておりまして、このお店についても講演の後半でお話しされていました。注文をまちがえる料理店は、ホールで働くスタッフが全員認知症である「注文を間違えてもお客さんが笑って受け入れてくれる」をコンセプトとするレストランです。

 

このコンセプトの料理店が、2019年3月4日、5日に厚生労働省で、臨時にオープンしたというニュース『「注文をまちがえる料理店」厚労省に 認知症スタッフ元気よく」』(毎日新聞。各地に広がるこの動きのきっかけをつくったのが、和田さんが実行委員長を務めるプロジェクトであったと思います。(注2)(注3)

「一生懸命やった上での失敗は受け入れられる。」

ホールで働くスタッフが認知症の方ならば注文を間違えたりなどの失敗もあるかもしれない。その上で和田さんは「一生懸命やった上での失敗は受け入れられる」と言われました。素敵な言葉だと思いました。
和田さんの言葉で言えば、「一生懸命やっていることを一生懸命支える」のが「注文を間違える料理店」プロジェクトです。

 

このように、失敗をしてくれても受け入れてくれる寛容な社会であるならば、認知機能に障害がある人であっても、日常生活や社会生活に支障がない―認知症が予防された―社会、すなわち、認知症ではない社会、認知症にならない社会と言えるかもしれません。

さいごに

ここから何を学ぶべきか。ズレないに越したことはないけれども、(私自身が)ズレていても本気で生きたい、一生懸命生きたいものだと思います。そうでなければ一生懸命を生きている人を支えるとは簡単に言えないのではないかと私個人は思います。

和田行男さんの情報(おススメのページです!)

「人間はめっちゃおもろい! 和田行男」 (大起エンゼルヘルプ採用サイト)

注:和田さんは現在(株)大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイ・認知症デイ・ショートステイ・特定施設・小規模多機能型居宅介護を統括されています。

<参考>

 

 

 

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