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高齢の趣味仲間の支え合い(互助)事例及びそれを受けての小論ー地域包括ケアシステムの構築に向けてー

初出:2020年8月31日|最終更新:2020年9月3日

 

 

高齢者同士の支え合いの模範事例と感じられた記事を紹介したい。

 

その記事は、読売新聞202046日(月)8面(webへのリンクはなし)に掲載された、新潟県の無職85歳からの投書である。
「異変に気付き救った命」と見出しがついている。

互助の事例ーご近所の高齢者同士(趣味仲間)の支え合いー

この投書の書き出し近所の高齢者同士で健康マージャンを楽しんでいるに、まず引きつけられた。
自分の身近で、高齢になり、人付きあいを避けて、出不精気味になってしまった人を見てきたからだ。

 

そして、今年2月に、ゲーム中に仲間の90歳の男性の様子がおかしいことに気がついたという。

 

指先が小刻みに震えているので、ゲームを中止し、男性が入居しているホームに車で送った。ホームの看護師の指示で、かかりつけの医者に連れて行くと、救急車で地域の基幹病院に搬送された。脳梗塞と診断され入院したが、10日間で無事に退院できた。

 

85歳の健康マージャンの仲間による気づきと行動が、介護予防ないし救命になったということで、心に残った。

自助・互助・共助・公助

地域包括ケアシステムに関する議論で、「自助・互助・共助・公助」という言い方がされる。

 

  • 自助…自分のことは自分でする(例 → 介護予防行動、セルフケア、市場サービスの購入など)
  • 互助…住民同士の自発的な支え合い、ボランティア活動
  • 共助…保険料(介護保険制度、社会保険制度)に基づくサービス
  • 公助…税金に基づく(行政機関による)公的サービス

 

この中で互助が一番分かりにくいと感じるけれども、
今回紹介した、ご近所の高齢者同士(趣味仲間)の支え合いの事例は互助の事例と言えるだろう。

 

緊急事態宣言を出す方針が表明された日

この投書が掲載された4月6日は緊急事態宣言を出す方針が表明された日だ。翌7日には緊急事態宣言が出された。この時期、東京や大阪など都市部で新型コロナウィルス感染者の急増が見られていた。

サッカーのカズ選手のメッセージー高齢者同士の互助と重なりあうー

この互助の事例とともに、日本経済新聞(web)に4月10日付けで掲載された、サッカーの三浦和良選手(カズ選手)のコラム記事「日本の力を見せるとき」でのメッセージが心に残った。高齢者同士の互助の事例と重なりあって、自分には伝わった。

「え、行くの?」。ある同僚は奥さんにとがめられつつ練習へ出ていた。4月初旬、1カ月先にリーグが再開する予定の一方で、感染への危機感が増していた時期のことだ。一部屋に40人近くが集まるミーティングのさなか、僕も声を上げた。「緊急事態宣言も出そうなときに、こうして集まって、練習していていいの?」。選手の大半が同じ思いだったという。自らをリスクにさらしてでも、命や社会機能を守るべく奮闘する方々がいる。休みたくても、休めない人がいる。でも選手は、そうじゃない。

 

他に強制されるわけではなく、自発的にお互いを注意しあうのは、地域包括ケアシステムの議論でいえば「互助」ということになるだろう。

 

そして、世界の舞台で戦ってきて、「日本人」の特性を感じてきたカズ選手の言葉にはリアリティがあり、重みが感じられる。

すべての行動が制限されるわけでない緊急事態宣言は「緩い」という声がある。でもそれは、日本人の力を信じているからだと僕は信じたい。きつく強制しなくても、一人ひとりのモラルで動いてくれると信頼されたのだと受け止めたい。

戦争や災害で苦しいとき、隣の人へ手を差し伸べ助け合ってきた。暴動ではなく協調があった。日本にはそんな例がたくさんある。世界でも有数の生真面目さ、規律の高さ。それをサッカーの代表でも日常のピッチでもみてきた。

 

規律を重んじることがコロナ感染による死者数の抑制につながった?ー歴史人口学者の議論からー

カズ選手は生真面目さ、規律の高さを日本人の特性と指摘した。
その日本人の特性ー規律を重んじることーが、コロナ感染による死者数の抑制につながったという議論がある。

 

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、
コロナ禍「重度」の国は個人主義、「軽度」は規律重視…歴史人口学者 ー という読売新聞の記事(注:web版は2020.06.07付け、紙面では2020年5月31日8面。紙面でのタイトルは「権威・規律が生んだ違い」)で、
コロナ禍が重い国、軽い国の違いについて次のように語っている。

軽重の違いは文化人類学的に説明できます。重度の国には個人主義とリベラルの文化的伝統がある。軽度の国は権威主義か規律重視の伝統です。中国もそうです。概して権威主義・規律重視の伝統の国が疾病の制御に成功しています。

 

なお、その記事の中で、トッド氏は6月1日時点のデータに基づき、コロナ禍が重い国として、ベルギー、スペイン、英国、イタリアを挙げ、軽い国として、韓国、日本、シンガポールを挙げている。

 

注:手元にある紙面版を撮影しました。写っているのがエマニュエル・トッド氏です。

少子高齢化が真の問題

コロナ禍の軽重に関する文化人類学的な説明は興味深いが、この歴史人口学者の次の指摘に、我々はさらに耳を傾けるべきだろう。

コロナ禍の特徴は高齢者の犠牲の多さです。フランスの場合、死者の8割は75歳以上。エイズの犠牲の多くが20歳前後だったのと対照的です。

冷酷のそしりを恐れずに歴史人口学者として指摘します。概してコロナ禍は高齢者の死期を早めたと言えます。ところで、重度の英米仏は適度な出生率を維持しています。一方で、軽度の日独韓中の出生率の低さは深刻です。長期的視野に立てば、コロナ禍ではなく、少子高齢化・人口減少こそが真に重大な国家的課題です。

 

コメント

トッド氏の議論から

歴史人口学者のトッド氏の議論に触れると、物事は多角的に見なくてはならないと思う。

コロナ禍 出生率
英米仏 重度 適度に維持
日独韓中 軽度 低くて深刻

 

この表についてはコロナ禍対応が目の前の(短期的な)課題で、出生率の維持が長期的な課題と時間軸の概念も付け加えることができよう。

介護事業会社として

①地域包括ケアシステムの構築

介護業界に身を置く私たちの事業活動は、国が目指す地域包括ケアシステムの構築の一端を担うものだ。
介護事業会社はその責任を負っていると言える。
したがって、「自助・互助・共助・公助」の概念を理解し、冒頭に例示した、高齢者同士がお互いの尊厳や自立生活のために自主的に支え合う「互助」が機能する環境づくりも担っていると考えるべきであろう。

 

②コロナ禍への対応

コロナ禍への対応については、
以前の記事「介護施設でのコロナ感染による死亡率の国際比較ーイギリス、ドイツ、日本の比較」において、公式の統計としての報告がないものの、利用できる限られたデータで試算をしてみると、日本の介護施設でのコロナ感染による死亡率が世界的に見て抑制されている可能性を指摘した。
日本の介護施設(介護の現場)は、コロナ禍を乗り越えて、介護施設(介護の現場)に合った、新しい生活様式を作りだし、それに適応していくことが出来るのではないか。

この時代を生きる者として

長期的な少子高齢化、人口減少に対してはどうか?
長期的に介護の働き手が減っていくことへの対策の1つとして、介護事業会社の弊社でもロボット活用、ICT活用が進められてはいる。

 

しかし、出生率を適度に維持していくことを目指すというのは、介護事業会社であるか否かを越えて、社会全体で取り組むべきこととなるだろう。
この人口減少時代の日本社会を生きる者として政策の動向等に関心を持ち、事業者の立場や個人の立場で出来ることに取り組んでいきたいと思う。

 

(文:星野 周也)

 

 

 

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