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認知症の人に「歯磨きは気持ちがいい!」と感じていただくために

 

こんにちは。
先日、こちらの記事で、簡易認知機能検査サービスの「あたまの健康チェック®」の尾張旭市での7年間の受検データに基づく分析結果をお伝えしました。
「どのような人で認知機能が維持・改善しているか?」、「どのような人でMCIの判別割合が高くなるか?(=MCIの疑いありと判定されるか)」について検討した結果です。

 

どのような人で認知機能が維持・改善しているか?(例)

・認知機能の定期チェックを行っている人

自歯が20本以上残存している人

・地域活動や予防活動に積極的に参加している人

 

どのような人でMCIの判別割合が高くなっているか?(例)

・夫婦だけで生活している男性

自歯が20本以上残存しない人

・運動習慣のない女性

 

以上の結果から今回、着目するのが、自歯の残存本数についての結果です。
自歯の残存本数が、認知機能が低下せず、維持できていることと関連性を示していました。それと同じことですが、MCI疑いありと判定されることとの関連性も示しておりました。
歯が認知機能のバロメーターとなっている(仮説)と感じさせる結果でした。

歯の本数と認知症の発症リスクや健康寿命との関係(by S)

別の研究で、自歯の残存本数が、将来の認知症の発症リスクや健康寿命に影響を与えていることを示す結果が出ております。
以下に示しますが、すべて日本での研究の結果です。

 

・65 歳以上の健常者 4425 名を対象にした 4 年間の追跡調査の結果、認知症を伴い、要介護認定を受けた人は 220 名であった。このデータで統計解析をすると、20 歯以上の人に対して歯がほとんどなく義歯未使用の人の認知症発症リスクは 1.9 倍であった。

出典:山本龍生/神奈川歯科大学/歯を失って義歯を使わなければ認知症のリスクが最大 1.9 倍に~厚労省研究班が健康な高齢者 4425 名を追跡して明らかに~/JAGESプレスリリースNO. 12-033

 

・60歳以上の一般住民1566名を5年程度追跡調査した結果、180名が認知症発症をした。このデータで統計解析をすると、歯の数が少ないほど認知症発症リスクが高いという有意な関連が認められた。

出典:残存歯数が少ない人ほど認知症の発症リスクが高い(久山町研究)|循環器疫学サイトepic-c.jp

 

・65歳以上高齢者の77,397名を3年間追跡したデータで統計解析をすると、歯が多いと、単に寿命が長いだけではなく、健康寿命が長く、一方、要介護でいる期間が短いということが明らかになった。例えば、 85 歳以上の場合、歯が 20 本以上ある人は、0 本の人にくらべて健康寿命が男性で+92 日、女性で+70日;寿命が男性で+57 日、女性で+15 日;要介護でいる期間が男性で-35 日、女性で-55 日の差があることが分かった。

出典:自分の歯が多く保たれている高齢者は健康寿命長く、要介護日数短い(東北大学 松山祐輔氏)|東北大学 プレスリリース・研究成果 2017年6月28日付 

 

この結果を踏まえれば、歯が認知機能のバロメーターと言いましたが、さらに、将来の認知機能の低下や発症を予測する可能性があることが確認できます。

認知症高齢者への口腔ケアの効果を検討した研究報告(by S)

以上、紹介してきたのは、スタート時点で、認知症でない人や要介護認定を受けていない人を対象として何年か追跡するというデザインでの研究の結果でした。

 

一方、介護施設を利用する認知症高齢者への口腔ケアの効果を検討した研究報告(出典:後注1もあります。(注:MMSEという検査で10~23点が対象者選定の基準と研究報告では書かれています。英語で書かれており、23点未満だったのか、23点以下だったのかという細かい点は読み取れません。なお、MMSEで23点以下で認知症疑いありとの判定になりますので、この検査で認知症疑いありの人を研究の対象者としたとは考えてよいと思います)

研究の方法と結果

・介護施設を利用する認知症高齢者を口腔ケアを受けるグループと、受けないグループに分けた。2003年9月から1年間の追跡ができた口腔ケアを受けるグループの90名と、口腔ケアを受けないグループの99名の比較を行った。

 

・口腔ケアを受けた場合のその内容:毎食後、5分間、介護職や看護職により歯ブラシで歯磨きを行う。歯を磨くだけではなく、口腔内の粘膜部分や舌の表面も磨く。また、必要に応じて週に1度、歯科医や歯科衛生士により歯垢を取り除くなどの専門的なケアを行う。
(口腔ケアを行わないグループの内容:自身で歯磨きを行ってもらう。依頼があれば、介護職が歯磨きをする。)

 

・MMSEという検査で認知機能を評価したところ、6か月後、1年後のそれぞれで、口腔ケアを受けたグループは、口腔ケアを受けなかったグループと比べて、認知機能の低下が抑制されていた。統計的に有意差があった。一方、ADL(≒身体的自立度)の変化では、二つのグループに差が見られなかった。

 

特養での障害の程度が重度の高齢者の介護では、口周りや口の中がきれいであるかは介護職や看護職にかかっていた

この研究結果は、科学的な手続きで、認知症の人への歯のケアが大事なことを示していると言えます。
もっともこういう理屈を経ずとも、口腔ケアをすれば口臭もなくなりますし、我々の生活実感からして、衛生的なことは言うまでもないことかと思います。

 

私自身(S)、特養で勤務経験があり、障害の程度が重度の高齢者の介護に関わっていたことがありますが、この方々の口周りや口の中がきれいであるかは、我々介護職や看護職にかかっている状況でした。

実践編:歯磨きを拒否される方への対応について(by K)

以下、認知症の人への口腔ケアの実践編です。

 

 

認知症の人で(あるいは認知機能が低下してきた人で)、歯磨きを促しても、あるいは、介護職による口腔ケアを行おうとしても、拒否される方がいます。そのような方への対応を検討してみます。

 

キーワードは、「歯磨きは気持ちいいものだ!」と感じていただくこと。
これは、拒否のない人にとっても、お口の健康を維持し、認知機能の低下を防ぐうえで大事な点でしょう。

認知症になると、どうして歯磨きを嫌がるの??

「歯磨きをしましょう」と誘っても嫌がる理由は様々ですが、多くの方は「歯磨き」という言葉と、実際に「歯磨きを行う」動作が結びつかないために、何をされるか理解できず警戒してしまいます。また、「歯ブラシ」をすぐに理解できず、口の中に異物が入る恐怖心から嫌がる方も多いです。

「歯磨きは気持ちがいい!」と感じてもらうために

歯磨き前に、警戒心や恐怖心を取り除いて頂くことがポイントです。

 

手順① 視線を合わせ、「歯磨き」以外の会話をします。
目を合わせて、「今日もすっきりしたお顔をされていますね」、「昼食のお味はいかがでしたか?」など話しかけてみましょう。

 

手順② 会話をしながら、体を支持しつつ、身体に触れます。
安心感を感じていただき、状況も認識していただくためには、言葉のみならず、感覚に働きかけることが有効な場合があります。その目的で「触れる」という関わりが選択肢になります。

 

とは言え、突然顔の周辺を触られることは不快や恐怖を感じます。
まずは体を支えることも兼ねて、顔から遠い場所に触れて、だんだん顔に近づきます。(背中⇒肩⇒腕⇒手⇒顔まわり)
そして、口の中に歯ブラシを入れるという関わりにつなげていきます。

 

手順③ 歯ブラシを見せながら、してみせながら、歯磨きを促します。
こちらが何を望んでいるか伝えるためには、「歯ブラシ」というモノを見せたり、「歯ブラシ」で歯を磨くという動作を見せたりというのも有効です。現地の言葉が不慣れな海外で、ボディランゲージで伝えるということと同じですね。
言葉以外で何かを伝えるというのは、認知症ケアの醍醐味です。

終わりに

手順②で、「(相手の)身体に触れます」と書くと、書いている私たち(カフェスト編集スタッフ)もドキッとしてしまいます。しかし、手順①、②と合わせてみれば、この手法が、認知症ケアの技法であるユマニチュードの考え方と同じであることも分かります。
ユマニチュードのケアの4本柱は、『見る』、『話しかける』、『触れる』『立つ』でした。ケアする側と、される側の間に絆をつくるためのコミュニケーション技術でした。

 

このようにしても歯磨きを嫌がる場合は、お口の中に傷や炎症などによる痛みを感じているかもしれません。私(S)の経験でも、食事が進まず、歯磨きもしたがらなかった方で、口の中に口内炎が出来ていたということがありました。「言葉以外で何かを伝える」ことに付け加えて、「相手側の言葉では伝えることができない傷や痛みに気づく」ことも認知症ケアの醍醐味と言えることでしょう。(終)

 

(文:K&S)

 

 

 

 

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