Site icon 認知症 Cafést online

「介護食」開発秘話に学ぶ観察の力ー小田原市の特養「潤生園」の取り組みー

 

本日は、「介護福祉経営士」の情報誌
Sun 2019 秋 No.26より(発行日:2019年10月25日)より、
興味を持った話題をご紹介します。

(私は介護福祉経営士の資格保有者で、定期的にこの情報誌が届けられます)

 

注:カフェスト編集者が2021年4月11日に撮影

 

井口健一郎氏による連載記事
タイムトラベル―ケアの過去・現在・未来を探る旅
第3回食事の変遷―生活の場での食事のあり方

この記事の中で、介護食開発の秘話が書かれており、それを興味深く思いました。

(井口氏のこの記事上での肩書は社会福祉法人小田原福祉会 特別養護老人ホーム潤生園 施設長となっています)

 

注:記事のタイトル部分をカフェスト編集スタッフが2021年4月11日に撮影

 

介護食の発祥は潤生園(小田原市の特別養護老人ホーム)

介護食は、摂食や嚥下に困難がある人も食べやすい食事ということですが、
井口氏は、この介護食の発祥が神奈川県小田原市の特別養護老人ホーム(特養) 潤生園であると言います。

潤生園の取り組み

では、潤生園のどのような取り組みが、介護食の発祥(開発)につながったのでしょうか。

エピソードの要約

・1982年に何を食べても、水を飲んでもむせてしまう男性の利用者がいた
・そのことに心を痛めた当時の理事長・時田純氏は、さまざまな実践を調べ、文献に当たった
・「人は死ぬまで嚥下機能がある」という研究論文を唯一の手掛かりとした
・よだれにヒントを得て、介護食の原型「救命プリン」(ミルクのプリン)を完成させる

 

よだれにヒントを得て

よだれにヒントを得たというのが感動的な箇所だと思います。
半身不随の男性が車椅子で、うたた寝をしていた際に、床にまでよだれがたれていて、切れないでつながっていることにヒントを得たそうです。

 

この井口氏の記事では

 

その時ハッと気がつきました。「そうか、人はよだれに似た食物形態であればむせないのかもしれない」

 

と、時田純氏の気づきを伝えています。

 

このエピソードはネットで検索しても見つかり、
あるネット記事では

 

人は、たとえ食べ物や飲み物がのどを通らないときでさえ、口の中に常に分泌されているよだれ(唾液)は、無意識のうちに飲み込んでいます。つまり、人間が最も飲み込みやすいものは唾液であると気づいたのです。このことから、唾液の物性を研究し、唾液と同様な物性の食品を作ればよいのだと目標が定まりました。

 

と記されています。

 

よだれにヒントを得て生まれたという「救命プリン」は栄養価の高いミルクをゼラチンで固めたものです。

その後の展開ー「煮こごり」をヒントにー

その後も、「煮こごり」(魚や肉を煮たあと、冷えた煮汁がゼリーのように固まったもの)をヒントに、介護食のさまざまなバリエーションをつくりました。
これらの取り組みが、1987年9月14日、朝日新聞夕刊のコラムで取り上げられた際には、潤生園に問い合わせが殺到したそうです。

 

「介護食」開発秘話に学ぶ観察の力

何を食べてもむせてしまう1人の人を何とかしたいという思いから、「介護食」が誕生しました。
目の前の1人の人を何とかしたいという思いから、新しいものが開発されるというのは介護の仕事ならではと思えてなりません。

 

さまざまな実践を調べ、文献に当たったという取り組みも、何かを解決したいならばそうありたいと思います。
よだれを見て、ひらめくというのは、こういう行動の積み重ねがあって、下地になってこそと思います。

 

「そうか、人はよだれに似た食物形態であればむせないのかもしれない」
介護の仕事ではこういう気づき(仮説)を生む観察力を育まねばなりませんが、それは自分でいろいろ調べたり、試行錯誤してみたりという努力とセットで考えるべきものと思います。

 

(文:星野 周也)

 

 

 

Exit mobile version