地中海食と腸内細菌の関係について述べているハーバードメディカルスクールのブログ記事がフェイスブックでシェアされていました。
こちらのブログ記事(注、以降、ハーバードブログ記事と略する。)で、
“Mediterranean diet linked to lower inflammation, healthy aging”
「地中海食を食べれば、炎症が抑えられ、健康的に年を重ねていくことができる」というタイトルです。
ご紹介したいと思います。
地中海食について(復習+α)
地中海食の定義(復習)
以前のカフェストの記事(「地中海食のおかげでスペインが世界最長寿国になる!?」)での地中海食の定義を再掲します。
1993年に開催された「地中海食に関する国際会議」で定められたものです。
□植物性食品(果物、野菜、パン、その他の穀物製品、豆類、種実類)が豊富
□加工度を最小限にとどめた、季節折々のその地域で育てられた新鮮な食品を使う
□典型的なデザートとして新鮮な果物を食べる
ただし、お祭りの日にはナッツ類、オリーブオイル、精製した砂糖または蜂蜜でできた菓子類を食べる
□油脂類の主たる摂取源としてオリーブオイルを用いる
□少々か適量の乳製品(おもにチーズとヨーグルト)を食べる
□卵の使用は週に4個未満
□赤身肉の使用はまれであり、少量
□少々か適量のワインを普通は食事とともに飲む
ハーバードブログ記事で示される地中海食の特徴
今回、紹介する上記のハーバードブログ記事では、地中海食の特徴を「果物、野菜、ナッツ、豆類、オリーブオイル、魚が豊富、一方、赤身の肉、飽和脂肪酸は少ない」と記しています。
地中海食の健康効果(復習+α)
以前の記事(「地中海食のおかげでスペインが世界最長寿国になる!?」)では、地中海食の健康効果として、「脳卒中・心筋梗塞の発症率・死亡率を減らす」、「糖尿病の発症率を減らす」、「がんの発症率・死亡率を減らす」を挙げました。
ハーバードブログ記事では、「がん、脂肪肝、その他の疾病の発症率を減らす、インスリン抵抗性の割合を減らす」と書かれています。
脂肪肝は肝臓に脂肪が多くたまった状態で、肝炎や肝硬変に進行することがあります。
インスリン抵抗性は、インスリンという糖の吸収を促す働きを有するホルモンが効きにくくなっている状態です。インスリン抵抗性があると、血糖値が下がりにくくなり、Ⅱ型糖尿病の要因と考えられています。
腸内細菌について
大腸に生息している無数の腸内細菌たち
私たちの体には数多くの細菌が生息しています。大腸に生息している細菌の集団を「腸内細菌叢(そう)」といいます。別名として「腸内フローラ」もよく使用されます。
注:科学論文では「microbiota」、「microbiome」が使用されています。
大腸の腸内細菌叢は100種類~1000種類の細菌から構成されていて、総数は約100兆~1000兆個と言われています(注:種類や数は諸説あります)。
腸内細菌と健康の関係
ハーバードブログ記事では、「腸内細菌の遺伝子が健康に影響を与えていることが過去20年の研究で分かってきた」と述べられています。
具体的な健康との関連として、「腸内細菌叢の状態が変化することで、体内の炎症が抑えられ、慢性疾患の治療に役立つ」、「腸内細菌叢の状態の違いで、がん、インスリン抵抗性、脂肪肝、細胞の損傷の発生・発症割合が変わる(腸内細菌叢の状態によりがん等の発生・発症割合が抑制される)」と記されています。
腸内細菌叢の状態というのが少し不明確なのですが、他の記事などを参照していると、腸内に生息する細菌の種類、細菌の組み合わせ、細菌の数や割合の多寡などのことを指しているようです。
地中海食と腸内細菌の関係について
以上を踏まえたうえで、ハーバードブログ記事にて紹介されている、地中海食と腸内細菌の関係を探求している研究を見てみましょう。今年2月に発表された研究とのことです。
この研究のデザイン
・65歳から79歳の約600人の成人を対象
・この600人を地中海食を食べる群と、そうでない通常の食事を食べる群に2分割し、腸内の細菌(腸内細菌叢)を比較
この研究にある問い
・地中海食でがんなどの発症率が抑えられるのは腸内細菌叢が変化した結果ではないか?
この研究の結果
・地中海食を食べた群で、炎症の減少が見られた
・地中海食を食べた群で、腸内細菌の変化が見られた。がんや脂肪肝などが抑制される腸内細菌の状態に変化した
コメント
腸内細菌が地中海食と健康効果をつないでいる可能性―研究結果から示唆されること―
この研究では、地中海食を食べている人たちとそうでない人たちを比較して、地中海食を食べている人で炎症が抑制され、腸内細菌の変化も確認されたという結果を得ました。これは、腸内細菌が「地中海食が有しているさまざまな健康効果」をもたらす1つの要因になっている可能性を示しています。
腸内細菌は人間の細胞の数より多い
腸内細菌も調べると奥深いです。
人間の細胞の数は一説では60兆(注:数十兆と理解すればよいとおもいます。)と言われておりますので、人間の細胞の数より多い数(100兆~1000兆)の腸内細菌が腸内に住んでいることになります。
腸内細菌叢は、年代で異なり、国によって異なり、健康状態によって異なる
近年、腸内細菌の大量の遺伝子情報を解析する技術が進み、腸内細菌の実態が解明されつつあります。
腸内細菌叢における細菌の構成は年代によって異なり、国によって異なるそうです。また、同じ日本人の間でも多様性が認められるとのことです。
そして、このカフェスト記事を通して確認できるのは、健康状態によっても腸内細菌叢に変化が見られるという点であります。
腸内細菌叢は認知症や軽度認知障害(MCI)の有無によっても異なる
日本では、国立⻑寿医療研究センターの佐治直樹もの忘れセンター副センター⻑らが、東北⼤学、久留⽶⼤学、株式会社テクノスルガ・ラボと協⼒して、腸内細菌叢と認知症や軽度認知障害(MCI)との関連の研究を進めています。
この研究チームは、昨年の2月に、認知症のある人とない人とで腸内細菌の組成に違いが見られることを発表し、昨年の12月には、認知症の前段階である軽度認知障害のある人と認知機能が正常な人とでも腸内細菌の組成に違いがあることを発表しました。
・もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らが、軽度認知障害という認知症の前段階においても、腸内細菌は認知機能低下に関連することを見出しました|同上(2019年12月18日付)
腸内細菌と地中海食や認知症との関係から成り立つ仮説
カフェストの読者の皆様には何度もご紹介してきましたが、地中海食とDASH(アメリカ発高血圧改善のための食事法)を組み合わたマインド食(MIND食)がアルツハイマー病の発症率を低下させるという研究結果が出ています。
地中海食と腸内細菌の関係、認知症と腸内細菌との関係の知見を踏まえますと、マインド食とアルツハイマー病との関係についても腸内細菌が介在していると仮説が立つのではないかと思います。
今後さらに知見の動向に注目してまいります。
(文:星野 周也)
<認知症Cafést内関連記事>(本文中で示したもの以外)
<参考>(本文中で示したもの以外)
2. 不飽和脂肪酸|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)
3. NAFLD / NASH 患者さんとご家族のためのガイド|日本消火器病学会ガイドライン
4. インスリン抵抗性|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)
5. 腸に住む無数の腸内細菌たち|腸内フローララボ(生酵素サプリメントのOM-Xサイト)
10. 腸内細菌と健康|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)
11. 医療を変える「マイクロバイオーム」|シスメックス学術セミナー