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認知症予防の推進と認知機能検査の普及の提言―多摩大学 ルール形成戦略研究所のレポートから―

baby girl works out her equations whilst mum is oblivious

 

本日は、今年(2018年)7月に出された、多摩大学ルール形成戦略研究所「認知症の発症遅延策の有効性と普及を加速するために必要なルール形成 提言レポート」を紹介します。
認知症予防の推進と認知機能検査の導入を提言しています。

認知症の発症を5年遅らせることができた場合の試算

このレポートで肝となっているのが、認知症の発症を5年遅らせることができた場合の試算です。
現在の認知症有病率(表1)と、認知症発症が5年遅らせることができた場合の有病率(表2)について図のような仮定を置いています。

 

 

表を見ればわかるように65-69歳の有病率(表1)の水準が、5年遅れの場合では70-74歳の有病率(表2)の水準になるというような仮定を置いていることが分かります。

 

認知症の有病率が5年遅れた場合(表1から表2へと変わった場合)に、

・2025年に認知症高齢者は670万人程度から400万人程度に減少
・これに伴い2兆円分の医療費・介護費が削減

という試算結果を算出しています。

 

この試算に基づき、認知症発症を遅延させることは多くの社会的問題の解決に貢献し得るので、認知症予防に向けて、政府や自治体は認知機能検査を広めていくべきと提言しています。

 

認知症発症の遅延や予防ができるのかということですが、以下の朝日新聞の記事では、軽度認知障害を意味するMCIと診断を受けた方の一定の割合が正常な認知機能を取り戻すことができること、有酸素運動や良質な睡眠など適切な予防に取り組むことでMCIから認知症へのリスクを低減することができると書かれています。

軽度認知症障害での予防策、認知症への移行リスク減に(朝日新聞デジタル 2018年12月1日付)

 

多摩大学の提言レポートでの主張―「50歳ごろからの認知機能の検査を広めていくべき」―も、上記に紹介したような社会的に確立されてきた知見を踏まえたものと理解することができます。

多摩大学ルール形成戦略研究所の提言レポートの全文

こちらをクリック(多摩大学ルール形成戦略研究所のページ)してください。

 

厚労省の試算

関連して、厚生労働省から出されている試算の数字についても紹介します。
厚生労働省の科学研究費補助金に基づいて行われた「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(研究代表者二宮利治教授)にて試算されており、多摩大学の提言レポートもこちらの研究を参考にしています。

注:この研究(研究年度は平成26年度)の報告の詳細はこちらをクリック(厚生労働科学研究成果データベースのページ)してください。

 

この研究では認知症有病率に関連する要因として、以下の結果が得られました。

  • 年齢(年齢が上がるほど有病率が増す)
  • 性別(女性の方が有病率が増す)
  • 糖尿病の頻度(頻度が高まると有病率が増す)

 

そして、年齢、性別、糖尿病の頻度に基づき、認知症有病率を算出しています。
表3は2012年時点の認知症有病率、表4は2012年から糖尿病の頻度が増加した(糖尿病にかかった人の割合が増えた)との仮定に基づく認知症有病率です。表3、表4からは糖尿病の頻度が増加した場合に有病率が高まることを読み取ることができます。

注:実際は「1.4%-2.6%の間に収まる。その中で1.9%」というように幅をもった数字(信頼区間)の中で上記の数字が計算されています。

 

この数字に基づき、認知症有病率が2012年以降一定であると仮定した場合(表3)の認知症高齢者は675万人、糖尿病にかかっている人の割合が増えると仮定した場合(表4)は730万人(表3の場合からは55万増)と推定されています。

 

多摩大学の提言レポートの試算でも、年齢が高まるほど有病率が増すことや、女性で概ね有病率が高いなどが確認され、基本的には同じ視点が踏襲されていると言えます。

 

ただし、多摩大学の提言レポートの試算では、糖尿病にかかっている人の頻度については言及がありません。
また、多摩大学の提言レポートでは発症を遅らせるという有病率を減らす試算ですが、厚労省の試算では糖尿病の人が増えることで有病率が増える試算の数字となっています。

 

しかし、この厚労省の試算でも、報告書で示されている結果―「糖尿病の頻度が5%上昇するごとに有病率が高まる」―を踏まえると、糖尿病の頻度を減少させることができるならば、有病率を減らすことができると逆に読み解くことも可能であると思われます。

 

糖尿病については、日本人を対象とした疫学研究にて、加齢、家族歴、肥満、身体的活動の低下(運動不足)、耐糖能異常(血糖値の上昇)、高血圧、高脂血症が危険因子であるとする知見があります。
これらの危険因子のうち、加齢と家族歴は改善が不可能ですが、肥満、食事(過食や脂肪の過剰摂取是正)、運動量の不足は改善できることであります。
つまり、生活習慣の改善により、糖尿病の発症率の低下を介して(間接的に)、認知症の発症率が低下することが期待できます。

注:糖尿病の危険因子に関する知見は こちらをクリック(厚生労働省のホームページ)してください。

 

認知症の危険因子についての知見(危険因子を取り除けば認知症発症のリスクが減る)、認知症への移行を防ぎ、認知症にならずに済む保護因子(保護因子を取り入れれば認知症発症のリスクが減る)についての知見が(まだまだエビデンスのレベルは高くないかもしれないですが)知られるようになりました。それらを踏まえれば、定期的に認知機能の検査をすべきというメッセージに重みが増してくると感じられます。

 

 

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