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スマホを用いた業務効率化―メディカルケアステーションとケアコラボを事例に―

 

1116日(土)、東京都中央区の区役所で行われた在宅療養シンポジウムに、情報収集の一環で参加しました。
そこで、医師会立中央区訪問看護ステーションによるスマホを用いた業務効率化の事例を聞きましたので、ご紹介したいと思います。こちらの訪問看護ステーションが使っていたのが、医療や介護用のSNSである「メディカルケアステーション(MCS)」(注:エンブレース株式会社が運営している)でした。最近、耳にしていたSNSであり、どういうものか関心を持ちました。

 

注1:弊社の本社が東京中央区にありますが、本社近くの立て看板でチラシを見つけました。上記の画像はそのチラシの一部になります。
注2:このシンポジウムのプログラムは、第一部は聖路加国際病院の木村哲也先生の講演、第二部は在宅療養に関するパネルディスカッションでした。

メディカルケアステーションの活用事例

メディカルケアステーションは、コミュニケーションアプリのLINE(ライン)を使われる方なら、LINEのイメージで考えてくださると良いと思います。
下の画像も参考にしてください。

 

注:画像は(リンク先の)メディカルケアステーションの紹介ページから入手しました。

 

医師会立中央区訪問看護ステーションによる事例紹介のプレゼンでは、

 

 

・利用者さまごとにトークルームを開いている。

・メール感覚で書類を送ることができ、画像や動画も送ることができる。

 

 

と紹介されていました。
そのトークルームに、利用者や家族も含め、医師、看護師、ケアマネなどの関係者が加わり、参加者間でトークを重ねて、情報共有や連携をしているようです。参加者はスマホから発信できます。

質問コーナーでの質疑応答

質問コーナーがあったので、挙手して、認知症Cafést編集スタッフとしての視点も加味して、質問をしてみました。

 

Q.何割の利用者で利用されていますか?

 

「全体の一割程度。ご家族の了承が得られた場合に利用をしている。一方、情報漏洩のリスクを懸念されるご家族の方もいる。」

 

「ある使用事例では、ご家族がフランスにいらっしゃり、(その遠方の)ご家族との連絡手段に活用している。」

 

Q.利用者に認知症がある場合にはどうしていますか?

 

「トークをするグループとして、本人を入れたグループを設ける場合と、本人を除いたグループを設ける場合がある。(使い分けをしている。)」

 

注:ある利用者の場合には本人を入れてグループを設けるが、別の利用者の場合は本人を入れないということなのか、一人の認知症の人に、2つのグループを設け、使い分けをしているということなのかは、(聞き手としては、どちらの可能性もありうると思えたため)このやりとりからは定かではありませんでした。

ケアコラボの活用事例

メディカルケアステーションの活用事例を聞きながら、類似の特徴があるものとして思い出したのが、「ケアコラボ」(ケアコラボ株式会社が提供している)という介護記録のアプリです。(注:こちらのアプリは、2018年5月30日に開催された「未来をつくるkaigoカフェ×介護ロボットオンライン」というイベントにて、話を聞きました。)

 

以下2つの記事をもとに、このアプリの特徴を描いてみます。

 

1. すべての記録をケアコラボに移行!杜の家やしおの新しい介護記録の形とは?|介護ロボットONLINE

2.スマホ使って業務の効率UP 職員間連絡やケア記録もアプリで(福祉楽団)|福祉新聞web

「ケアコラボ」の特徴

これらの記事等を踏まえますと、
「ケアコラボ」は、

 

・利用者ごとにフェイスブックのページがあるイメージ。そのページにタイムライン(時系列)で記録していく。

・スマホで記録できる。

・日々の記録を文章以外に、写真、動画でも残すことができる。

・利用者の家族への「共有機能」がある。(家族が参加でき、閲覧でき、コメントを打てる。)

 

という特徴があります。「利用者ごとのページ」、「スマホで完結しうる」、「写真、動画を残せる」、「家族も参加できる」などはメディカルケアステーションとの共通点と思います。

 

ITの導入と介護サービス業で働く人の満足度との関係

ある調査―「介護サービス業で働く人の満足度調査」―の結果では、「ロボットやITの導入が進んでいる施設で働いていると、介護職員の仕事に対する満足度は高くなる」と報告されています。このようなデータは、スマホを用いた業務効率化のような取り組みが、職員の仕事に対する満足度を高めることにつながるという期待を持たせてくれます。

「介護サービス業で働く人の満足度調査」について

上記の「介護サービス業で働く人の満足度調査」は、株式会社リクルートキャリアが『HELPMAN JAPAN』というプロジェクトの中で、2018年8月に行った調査です。プレスリリースによれば、『HELPMAN JAPAN』は、日本の介護サービス業の就業人口を増やすことを目的としているとのことです。

 

この調査の概要は下記のとおりです。

 

・web調査で18~59歳の全国の男女1,500名に回答をしていただいている。

・このうち、1,000名が、「現在、介護職に従事している」、あるいは、現在は介護職に従事していないが、今までに介護職を経験したことがある。(注:「介護職に従事している」と、見出しに掲げている「介護サービス業で働く」は、同じ意味です。)

 

この満足度調査の結果の一部紹介

以下、紹介するのは、この1,000名分のデータ、つまり、現在、あるいは、過去に介護職従事者であった方々の回答データになります。
1000名の内訳は、750名が現在の介護職従事者で、250名が過去の介護職従事者です。

働く施設に対する満足度に対する設問の回答

「あなたは現在お勤めの介護施設での仕事に、どの程度満足していますか。」という設問に対する回答です。(注:過去に介護職従事者であった場合には、最後にお勤めになっていた介護施設のことについての回答とのことです。)

 

1,000名(現在あるいは過去の介護職従事者)の回答の分布は下表のとおりです。

 

1 とても満足 4.2%

満足・計
49.5%

2 満足 11.6%
3 ある程度満足 33.7%
4 どちらともいえない 20.6%
5 あまり満足していない 14.0% 不満・計
29.9%
6 満足していない 6.8%
7 まったく満足していない 9.1%

 

1,000名全体では、勤務先に対して、満足していると回答した(「満足・計」 )割合は49.5%、どちらともいえないは20.6%、満足していないと回答した(「不満・計」)割合は29.9%でした。

勤務先におけるITの導入状況と介護職従事者の満足度との関係

この1,000名全体での満足度の分布が、勤務先におけるITの導入状況により変わるかどうかを示したのが下表です。

 

IT導入ありと回答した場合(508名)と未導入の場合(492名)では介護職従事者の満足度の分布に差が見られました。IT導入ありの場合、「満足・計」は55.1%、「不満・計」は25.4%、未導入の場合、「満足・計」は43.8%、「不満・計」は34.5%で、IT導入ありの場合に、満足と回答する人の割合が増え、不満と回答する人の割合が減るという結果でした。

 

導入あり
508名
未導入
492名
満足・計 55.1% 43.8%
どちらとも
いえない
19.5% 21.7%
不満・計 25.4% 34.5%
100.0% 100.0%

 

注1:「IT導入あり」の集計にあたっては、以下の設問項目群(注2)に対して、「導入あり」か否かを尋ねており、これらの回答に基づき集計をしていると予想されます。例えば、1個でも導入ありであれば「IT導入あり」で、1個も導入がなければ「未導入」と判別してカウントするなど予想されます。

注2:設問項目群(17個)は以下の通り。①「介護記録の保存を紙ではなく、WEBで行っている」、②「一人一人の職員が施設のメールアドレスを保有している」、③「電子カルテを導入している」、④「タブレット・スマホなどで、介護記録の入力ができる」、⑤「WEBシステムにより、常に利用者・入居者の情報が共有できる」、⑥「WEBシステムにより、職員のシフト管理、入力ができる」、⑦「事務処理や経営補助のため、介護業界専用のITシステムを導入している」、⑧「施設の天井や壁にカメラ・センサーがある」、⑨「WEBシステムを利用し、スタッフ間での情報共有、情報発信ができる」、⑩「自施設だけでなく、医療機関や自治体などと情報共有ができるITネットワークがある」、⑪「介護技術の勉強や共有をタブレット・スマホでできる独自のシステムがある」、⑫「一人一人の職員にタブレット・スマホが支給されている」 、⑬「インカムを装着し、どこにいても施設内の状況把握を耳で行うことが可能になっている」、⑭「本人に生まれ育ったところや若いときに働いた職場などの動画や写真で見せることのできる仕組み」、⑮「家族に伝達・尋ねることなどをお知らせする仕組み」、⑯「利用者、及び入居者の位置が分かるGPSシステムを導入している」、⑰「本人と家族などがテレビ電話できる仕組み」

 

勤務先におけるロボット導入状況と介護職従事者の満足度との関係

続いて、1,000名の介護職従事者の満足度の分布が、勤務先におけるロボットの導入状況により変わるかどうかを示したのが下表です。

 

IT導入ありと未導入の場合と同様に、ロボット導入あり(577名)と未導入(423名)の間 には差が見られました。
ロボット導入ありの場合、「満足・計」は52.3%、「不満・計」は30.5%、未導入の場合、「満足・計」は45.6%、「不満・計」29.1%でした。つまり、(ロボット導入ありの場合と未導入の場合との間に)不満の割合には差は見られなかったものの、ロボット導入ありの場合に、未導入の場合に比べて、満足と回答する人の割合が増えるという結果でした。

 

導入あり
577名
未導入
423名
満足・計 52.3% 45.6%
どちらとも
いえない
17.2% 25.3%
不満・計 30.5% 29.1%
100.0% 100.0%

 

注1:「IT導入あり」の集計と同様に、「ロボット導入あり」の集計にあたっては、以下の設問項目群(注2)に対して、「導入あり」か否かを尋ねており、これらの回答に基づき集計をしていると予想されます。

注2:導入状況を尋ねている設問項目群(8個)は以下の通り。①「見守り支援機器(介護施設型)」、②「入浴支援機器」、③「移動支援機器(屋内型)」、④「排泄支援機器」、⑤「移動支援機器(屋外型)」、⑥「移動介助機器(非装着型)」、⑦「移動介助機器(装着型)」、⑧「見守り支援機器(在宅介護型)」について導入状況を尋ねています。

注3:注2でのロボットの分類については、厚生労働省の関連ページや、介護ロボットポータルサイト(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)を参照してください。

コメント①―仕事満足度が勤務継続意向を支える―

データは割愛しますが、この調査では、勤務先での仕事について満足していると回答している人で、満足していないと回答している人に比べて、「働き続けたい」と回答する人の割合が高い結果も得られています。仕事への満足度が勤務継続意向を支えているのはごく自然な結果と言えるでしょう。

 

したがって、まとめの言い方になりますが、スマホを用いた業務効率化のような取り組みが、介護サービス業で働く人の仕事に対する満足度を高め、(満足度を介して)勤務継続意向を高めることが示唆されています。

コメント②―介護施設や現場に対するIT導入の効果―

介護現場へのITの導入状況についてですが、まず、私の経験で述べますと、2014~2016年に働いていた複数の介護現場(デイサービス、小規模多機能、特養、グループホーム、有料老人ホーム)では、概ね、記録は紙でしてましたし、申し送りも紙に書いていました。web化(電子化)が進んでいたとしても部分的で、例えば、利用者Aさんの記録がwebで行われていても、同じAさんの申し送りが紙でなされているというような状況でした。

 

今回の調査データで計算してみますと、一例になりますが、「介護記録の保存を紙ではなく、WEBで行っている」と回答した人は、1000名中151名(15.1%)で、2割にも満たない数でした。
また、「WEBシステムを利用し、スタッフ間での情報共有、情報発信ができる」と回答した人は69名(6.9%)、「自施設だけでなく、医療機関や自治体などと情報共有ができるITネットワークがある」と回答した人は57名(5.7%)でした。

 

したがって、現状は介護施設や現場にIT導入が進んでいるとは言い難く、IT導入のための積極投資は、業務効率化など職場環境を改善し、働く人の満足度を向上させる可能性があると考えられます。

(注:ロボット導入にしても概ね同様―ロボット導入により満足度を向上させる―と思うものの、データ上は、IT導入状況と介護サービス業で働く人の満足度との関係に比べると、少し弱いと思いましたので、結果を示すのみに留め、それ以上のコメントは避けました。IT導入状況と満足度との関係も含めて、さらなる分析や調査が望まれます。)

 

(文:星野 周也)

 

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