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【特集】尾張旭市での「あたまの健康チェック®」の利活用と7年間のデータから見えてきたこと②

 

こんにちは。
先日、簡易認知機能検査サービスの「あたまの健康チェック®」を全国自治体で初めて採用した尾張旭市の取り組みと、2013年から今年7月末までの7年間の受検データをグラフで可視化した結果についてご紹介しました。

 

【特集】尾張旭市での「あたまの健康チェック®」の利活用と7年間のデータから見えてきたこと①

 

本日はその続編になります。

 

7年間のデータ(受検回数4383回)をグラフで可視化

7年間のデータ(受検回数4383回)をグラフで可視化した結果を再掲します。

 

受検時の年齢(40~90歳)を横軸、そして、認知機能指数(MPI)を縦軸にして4383回の受検データをグラフ上に分布させたものです。

 

グラフにも書き入れてますが、年齢区分ごとのMCI判別割合は下の表のとおりです。

なお、4383回の全体(≒40~90歳の全体)では、24.1%でした。

年齢区分 MCI判別割合
40~64歳 2.1%
65~74歳 7.8%
75~90歳 50.4%
40~90歳(全体) 24.1%

 

認知機能指数(MPI)について

認知機能指数(MPI)は、「あたまの健康チェック®」の受検により算定される対象者の認知機能を示す指数で、0~100の数値で表記されます。
この指数で49.8以下のとき、「MCI(軽度認知障害)の疑いあり」と判定されます。ですから、上のグラフや表でMCI判別割合は、MPIスコアが49.8以下であった人の割合です。

 

MPIスコアと判定の対応

MPIスコア 判定
50.2≦MPI≦100 問題なし
49.8<MPI<50.2 ボーダーライン
0≦MPI≦49.8 MCIの疑いあり

参考:FAQ(ページの下の方にMPIスコアに関するQ&Aがあります)|簡易認知機能スケール あたまの健康チェック®のサイト

どのような人で認知機能が維持・改善しているか?/どのような人でMCIの判別割合が高くなるか?

尾張旭市では、この「あたまの健康チェック®」の受検のときに、生活習慣等についてもアンケートで尋ねており、認知機能指数(MPI)との関連についても検討をしてきました。

 

その結果、「どのような人で認知機能が維持・改善しているか?」、「どのような人でMCIの判別割合が高くなるか?(=MCIの疑いありと判定されるか)」についても明らかになってきたとして報告をしています。
現時点で報告をされているものにつきご紹介します。

 

参考:過去7年間の自治体認知機能データ 傾向実態を初公表 認知機能スケール「あたまの健康チェック®」が見える化 |株式会社ミレニア 2020年10月8日

どのような人で認知機能が維持・改善しているか?(例)

・認知機能の定期チェックを行っている人

・自歯が20本以上残存している人

・地域活動や予防活動に積極的に参加している人

 

どのような人でMCIの判別割合が高くなっているか?(例)

・夫婦だけで生活している男性

・自歯が20本以上残存しない人

・運動習慣のない女性

 

コメント

現状、結果として開示されているのは、ここまでになります。
この結果は例として提示されています。ですから、分析が進めば今後さらに明らかになることがあるのではないかと期待できます。

 

また、自歯が20本以上残存している人が、「40~64歳」、「65~74歳」、「75~90歳」の各年代別で何人いて、そのうち(つまり、各年代別の自歯が20本以上残存している人のうち)何%の人でMCIの疑いありと判別されたのかなどの詳しい情報も知りたいと思いますので、そのような点の詳報も今後期待したいと思います。

 

いろいろ申し上げましたが、自治体側が、「あたまの健康チェック®」を導入し、市民に受検をしてもらうのみに留まらず、生活習慣等についてのアンケートとセットで行ったからこそ、上記の知見が得られたと思います。
「あたまの健康チェック®」の有意義な活用事例と言えるでしょう。

自治体での活用①ー受検回数4383回分のデータのグラフに対する別の観点からの検討ー

もう1度、7年間で、受検回数4383回分のデータをグラフで可視化した結果を見てみましょう。

注:上で示したグラフから年代別で囲った枠を取り除いたものです。

 

一人の人が20年、30年、40年と継続して「あたまの健康チェック®」を受検したと仮定

このグラフは、この期間(2013~2020年)に、40~90歳の年齢(測定時)の受検者の4383回の認知機能指数(MPIスコア)をプロットしたものです。複数回、受検した人の結果も含まれているかとは思いますが、基本的には別々の人のデータをプロットしたものです。

 

観点を変えて、一人の人が40~50歳のときから、20年、30年、40年と継続して、「あたまの健康チェック®」で、認知機能指数を測定した状況を仮定してみましょう。

急に「MCI疑いあり」になるのか?(「MCI疑いあり」か「疑いなし」かのみに着目した場合)

判定結果に着目すれば、「問題なし」、「ボーダーライン」、「MCIの疑いあり」の3つの結果が出ます。
このうち、最初の2つは、3つ目の「MCIの疑いあり」との区別で言えば、「MCIの疑いあり、ではなかった」と言い換えられます(以下、「MCI疑いあり」、「MCI疑いなし」と簡略化して示します)

 

気になることは突き詰めれば、「MCI疑いあり」か「MCI疑いなし」かなのではないでしょうか。

 

この2つのどちらか否かのみに着目して、「あたまの健康チェック®」の受検を継続していけば、加齢を重ねて、ある時点で、昨年まではMCIの「疑いなし」であったのに、今年から「疑いあり」になったという変化は起こりうることでしょう。(下図参照)

 

これは急に「MCI疑いあり」になったということなのでしょうか。
確かに日常の会話で、「(あの人が最近)急に老けた」などの言い方を耳にしないわけではないですが、それは上図に示したようにがくんと落ちているということなのでしょうか。

徐々に認知機能指数(MPIスコア)が落ちてきて、ある時点で、基準値を越えて、「MCI疑いあり」になるのではないか?(MPIスコアを定期的に測定した場合)

結果として気になることは、「MCI疑いあり」か「MCI疑いなし」か、かもしれません。1回しか受検しないということであればなおさらそうかもしれません。

 

しかし、年に1回と決めて、定期的に受検した場合は、MPIスコアが継時的に変化していくことが確認できます。その変化は、4383回分のデータでのグラフが示すようなものになる可能性があるのではないかと思います。つまり、1人の人間の時系列変化としても、加齢を重ねて、MPIスコアが徐々に落ちていき、あるときスコアが49.8以下になるというものなのではないかということです。

いろいろな変化パタンがあるのではないか?(仮説)

このような点の検討は、すなわち、「徐々に落ちている」のか、「がくんと急に落ちる」のかは、同じ人で定期的にデータを取るというデザインで、「あたまの健康チェック®」を用いれば、検証可能です。

 

おそらくは、前者のパタンも後者のパタンもあるのだろうと思います。データが集まれば、さまざまな変化パタンがあることが見えてくるのではないかと思います(仮説)。

「MCI疑いなし」にも「MCI疑いあり」にも幅があるという見方とその可能性

「あたまの健康チェック®」の受検データが私たちに新たに気付かせてくれるのは、「MCI疑いなし」にも「MCI疑いあり」にも幅があるということです。
認知機能指数(MPIスコア)で49.8以下のとき「MCI疑いあり」という判定になりますが、「MCI疑いあり」もスコアで見れば0まで下がる可能性があります。それ(=49.8)より上を見ても100点まで上がりうる可能性があります。

 

この幅がスコアとして可視化されることで、例えば、「MCI疑いあり」には該当せずとも(≒「MCI疑いなし」の幅に留まっていても)、急速な低下傾向が確認できた場合は要注意などの見方が出来るのではないでしょうか。

自治体での活用②-認知症ケアパスでの活用ー

「MCI疑いなし」にも「MCI疑いあり」にも幅があるという見方は、認知症施策の議論での、「認知症ケアパス」の視点と親和性が高いと考えられます。

認知症ケアパスとは?

認知症ケアパスは、認知症発症予防から人生の最終段階まで、認知症の容態に応じ、相談先や、いつ、どこで、どのような医療・介護サービスを受ければいいのか、これらの流れをあらかじめ標準的に示したものです。

出典:厚生労働省のサイト内の認知症施策のページからリンクが貼られている認知症ケアパスについての資料(PDF)

認知症ケアパスのポイント①ー認知症の症状の段階を設定しているー

認知症ケアパスでは「症状の段階を設定している」というのが1つのポイントです。
この点が「あたまの健康チェック®」での判定において、「MCI疑いなし」にも「MCI疑いあり」にも幅があるという点と親和性があると考えられる点です。
認知症ケアパスでは、「認知症の症状が徐々に進行していく」という視点に立っており、「あたまの健康チェック®」では「健常な状態から、徐々に認知機能指数が落ちていき、MCI(軽度認知障害)の疑いありの状態に移行する」という視点に立っています。(個人差はあるとのただし書きはつきます)

認知症ケアパスの症状の段階の部分を模式化

尾張旭市で作成されている認知症ケアパス(尾張旭市では「認知症おたすけパス」と呼称されている)をもとに、症状の段階の部分を模式化したのが下図になります。

参考:認知症おたすけパス|尾張旭市 2020年8月19日更新

 

実際の認知症ケアパスは、これにさらに、症状の段階ごとの対応のポイント、総合的な相談窓口、医療面、介護面、生活支援面の各カテゴリでの利用できるサービス、制度等が記されています。

 

この図で、②~⑥の段階が、認知症の初期から徐々に進行して、重度化していくという部分です。「症状の段階ごとに、対応方法や利用できるサービスの標準を定める」という認知症ケアパスの説明にぴったりあてはまる箇所と言えるでしょう。

 

 

認知症ケアパスのポイント②ー認知症になる前の段階も設定されているー

続いて、認知症ケアパスのポイントとして、認知症になる前の段階も設定されている点が挙げられます(後注1)
図で言うと①の段階です。

 

尾張旭市の認知症ケアパス(認知症おたすけパス)では、①の段階に対して、②以降の「認知症の疑い」、「認知症を有するが日常生活は自立」等のように、名称は特につけておりません
「(前段階)」という名称はカフェスト編集者側で設けました。

 

認知症ケアパスでは、この①の段階、すなわち、認知症の初期よりさらに前の段階から、対応のポイント、利用できるサービス、制度が記されています。

「あたまの健康チェック®」(尾張旭市では「あたまの元気まる」と呼称)は認知症ケアパスのどこに位置づけられるか?

「あたまの健康チェック®」(尾張旭市では「あたまの元気まる」と呼称されている)は、この①の段階と、それに続く②の段階にかけて対応するサービスとして位置づけられています。

 

 

まとめー「あたまの健康チェック®」の自治体での活用ー

「あたまの健康チェック®」は厳密には「認知症の疑いあり」を判定するのではなく、「MCI(軽度認知障害)の疑いあり」を判定するものです。
この認知症ケアパスにMCIという言葉は明示されておりませんが、MCIという言葉が世に普及すれば、今後の改訂の中で、このケアパスの中にも登場するのではないかと思います。

 

ただし、少なくとも現状で、認知症になる前からの対処、予防という視点が、認知症ケアパスにおいて取り込まれていることは確認できます。そして、この観点で、「あたまの健康チェック®」は、尾張旭市での事例をはじめとして国内約60か所の自治体でさまざまな形で活用されております(後注2)

参考:利活用事例 地方自治体|簡易認知機能スケール あたまの健康チェック

 

終わりに
「あたまの健康チェック®」を個人受検してみたい方への案内

なお、本記事で「あたまの健康チェック®」が気になったけれど、近くに実施している自治体や機関がないな、と個人的に思われる方がいらっしゃいましたら、以下の問い合わせフォームから個人受検も可能であります。是非お問い合わせしてみてください。
担当より折り返しご案内致します。

 

「あたまの健康チェック®」個人受検お問い合わせフォーム(←リンクあり)

 

※団体・企業分類はプルダウンより「個人」をご選択ください。
※お問い合せ種別は「個人受検希望」をチェックボックスでご選択ください。
※個人で受検される場合は、受検費用が発生しますので、費用は担当にご相談ください。

 

(文:ムッシュ&S)

 

<後注>

後注1. 認知症ケアパスのポイントとして、本文中では、「認知症の症状の段階を設定している」と「認知症になる前の段階を設定している」の2点の指摘に留めました。その他、(徐々に認知症の症状が進行していく状況とは区別して)「急性憎悪期」という急に状態が悪化(特に自害・他害等の精神症状などが継続する)する段階を設けている点も、ポイントとして挙げておきます。

 

後注2. 認知症ケアパスは、認知症施策においても重要な位置を占めております。2012年(平成24年)9月15日に厚生労働省が公表したオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)での1つの柱として、「標準的な認知症ケアパスの作成・普及」が掲げられました。そして、2019年(令和元年)6月18日の認知症施策推進大綱では市町村における認知症ケアパス作成率を100%にするという目標が打ち立てられています。

<認知症Cafést内関連記事>

あたまの健康チェックの普及についてー営業推進を担う立場からー

あたまの健康チェックを受けてみました!

あたまの健康チェック(当サイト内での紹介ページ)

<参考>

1. 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)制定までの経緯と概要について(著者は石橋亮一氏, 川上由里子氏)|WAM NET

2. 第1章 序論2.オレンジプラン・新オレンジプランの現状と課題(著者は堀部賢太郎氏)|公益財団法人 長寿科学振興財団 2019年10月25日

3. 認知症施策|厚生労働省

4. 認知症施策推進大綱について|厚生労働省

 

 

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