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企業における認知症サポーターの活用と展開

 

ここ数年、企業が認知症対策に本腰を入れてきています。その一環として、社員に認知症サポーターの資格を取得させるといった動きが、徐々に広がりを見せています。

日本企業での認知症サポーターの活用の事例

①みずほ信託の事例

こちらの記事「みずほ信託、全社員の3分の1・1200人が認知症サポーターに 」(日経ビジネス 2019年9月13日付)からの紹介です。

 

これによれば、みずほ信託銀行の全社員の3分の1にあたる約1200人が認知症サポーター養成講座を受講したそうです。この1200人には、全役員も含まれていると言います。同行は今年の9月3日には「認知症サポート信託」―病院から「認知症」と診断書が出されるまでは顧客本人が自由に預金を管理できるが、認知症の診断が出た後、あらかじめ手続き代理人に指定していた家族らが介護などに必要な資金を引き出せるように切り替わるのが特徴―の販売も開始しています。

 

社員の3分の1が認知症サポーターとなったことについて、同行の飯盛徹夫社長の考えも記事では示されています。

 

認知症患者が保有する金融資産は2030年に215兆円となり、家計金融資産全体の約1割に及ぶとの試算もある。巨額の預金が凍結されることになりかねず、認知症への対応にどう取り組むかが、我が国の大きな課題だ。我々としても商品を売るだけでなく、顧客に本気で寄り添いたいと考えた。

 

②イオンやイトーヨーカド堂の事例

こちらの記事『認知症対策、イオン、ヨーカ堂が育てた「大規模サポーター」の効果』(日経ビジネス2019年9月24日付)からの紹介です。

 

この記事によれば、イオンは2007年から店舗で認知症対策に乗り出し、7万5000人以上に認知症サポーター養成講座を実施してきました。(注:しかし、記事からは、7万5000人が従業員のみの数字なのか、地域の人を含むのかは厳密には定かではない。
イトーヨーカ堂も2015年から資格取得のため社内研修を実施し、8500人を超える従業員が認知症サポーターになっている(≒認知症サポーター養成講座を受講した)とのことです。

 

背景にあるのは、言うまでもないことかもしれませんが、多くの高齢者が毎日、スーパーマーケットを訪れることにあります。

 

この記事では、次の事例が紹介されています。

 

認知症サポーターの資格を持つスーパーの店員が、買い物のときにトラブルを起こしてしまう高齢のお客様をみて認知症を疑い、地域の包括支援センターに連絡したことで、お客様が無事に介護保険のサービスを受けられるようになった。

 

この記事では、イオンが認知症対策に取り組む狙いについて以下のようにまとめられています。

 

イオンは高齢者が買い物をできるだけ長く続けられるようにし、家族も安心するような安全な空間を提供したいという。認知症を知り、サポートできる従業員をその要と位置付けている。CSR(企業の社会的責任)の観点からの取り組みだが、地域の課題で頼られる存在になれば、ビジネスにもプラスに働くはずだ。

 

③大京の事例

これから紹介する大京の事例の出典はこちらです。平成31年3月8日(金)に行われた第1回認知症バリアフリーに関する懇談会の資料になります。

 

資料8 株式会社大京ご提出資料|厚生労働省のホームページ(ホーム>政策について>審議会・研究会等>老健局が実施する検討会等>第1回「認知症バリアフリーに関する懇談会 資料)

 

大京グループは、「不動産開発事業」、「不動産管理事業」、「不動産流通事業」を展開しています。
2007年からマンションに勤務する全管理員の認知症サポーター養成講座受講をスタートし、現在ではほぼすべての管理員・社員が認知症サポーター(2019年現在累計約13,000人)になっているとのことです。

 

導入の背景は以下のように記されています。

 

 

・社会全体の高齢化に比例し、マンション居住者の高齢化も進展。

・マンションに勤務する管理員から、認知症を患われた方への対応について多くの事例や相談を受けるようになり、認知症サポーター養成の取り組みに参画。

・大京グループの取り組みがきっかけとなり、マンション業界でも受講が普及(2018年12月31日現在で、業界全体サポーター数 約74,000人)

 

さきほど、認知症サポーターであるスーパーの店員が認知症の疑いのあるお客様に気づいたという事例を紹介しましたが、同様に、大京グループでも認知症サポーターの管理員が、高齢のマンション住民で、「物を盗られたなどの訴え(が見られる)」、「郵便受けが溢れている」、「自宅を間違える」など異常を察知したら、警察や家族に連絡し、解決へつなげる取り組みを行っています。

認知症サポーターとは

そもそも、認知症サポーターとはどのような資格でしょうか。
今更感もありますが、おさらいしてみましょう。

認知症サポーターとは

認知症サポーターは、地域の中で、認知症の正しい理解と普及、見守りや手助けなどを目的とした資格です。90分ほどの講座を受講するだけで、幅広い人が取得できます。
講座を受講して認知症サポーターになると、その目印としてオレンジリングというブレスレットをもらえます。
講座は各自治体や企業で実施しています。受講希望の場合は、各自治体へお問い合わせください。

認知症サポーターの取り組みは、世界的にも評価されている

認知症サポーターの取り組みは、世界的にも高く評価されています。

 

以下は、認知症サポーターキャラバンのサイトからの引用です。

国際アルツハイマー病協会(ADI)の2012年版 報告書 (64ページ) において認知症への偏見をなくす日本の国家的な取り組みとして「認知症サポーターキャラバン」事業が高く評価されました。

 

英国では、日本を手本としdementia friendsと名付けた英国版・認知症サポーター制度を開始しています。

 

コメント①ー企業と認知症―

認知症とともに生きられる方々に対しては、保護や隔離から共生へと流れが変わってきています。しかし同時に、振り込め詐欺、下車駅がわからなくなるなど、認知症とともに生きられる方々が直面するトラブルも多くなりました。

 

また、企業にとってもこのようなトラブルの防止は、企業が受ける損害の事前回避という意味でとても重要なはずです。購入代金の不払い、電車の通常運行の妨げなど、企業として回避すべきリスクは無数にあるはずです。
特にGMS(総合スーパー)、金融機関、公共交通機関と言った分野の企業にとって、認知症とともに生きる方々への対応は、重要な課題となっているわけです。

コメント②―認知症サポーターは架け橋となるような存在―

いかがでしたでしょうか。
認知症サポーターは、認知症とともに生きる方々にとっても企業にとっても、重要な役割を担ていえるといえるのではないでしょうか。

 

ダイバーシティ(多様性)がますます重要視されている昨今、認知症に限らず、外国人や障碍者など、多様な人々と接する機会はますます増えることでしょう。
認知症サポーターのように、このような人たちとの架け橋となるような存在が、今の社会に求められていると強く感じています。
(文:マツ&S)

 

 

 

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