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バギースメソッド② バギース先生の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」での講演録

 

先週(2020/01/14)、「歩行からの認知症のリスク判定」に関する、アルベルト・アインシュタイン医学校(アメリカ)のバギース先生の研究を紹介しました。

(記事へのリンク → 「バギースメソッド① MCRとは何か?―認知症のリスクを捉えるのはMCIだけではない―」

 

このバギース先生が、2017年12月に日本の渋谷で「Health 2.0 Asia – Japan 2017」というイベントで講演されております。このときの先生の講演のご様子に関する情報(以下、講演録と略)を入手しましたので、今回ご紹介したいと思います。

講演録入手の経緯

この「Health 2.0 Asia – Japan 2017」のサイトには、このカンファレンスはメドピア株式会社が米国の“Health 2.0 LLC”とのパートナーシップのもと運営していますと記されています。

 

ここに記載されているメドピア株式会社(東京都中央区)が開設されていたメディアのサイトにて、このときのバギース先生の講演の講演録が紹介されていました。それを印刷(PDF化)して手元に持っておりました。

 

私たちの記事においても参考サイトとしてご紹介させていただきたいと思っていたところ、このサイトが閉じられており、その記事にアクセスできないことに気づいたため、メドピア株式会社に問い合わせをしました。
そこで、記事(画像2枚を含む)の転載の許諾を得ました。

 

これまで、私たち(Cafést編集スタッフ側)は、アルベルト・アインシュタイン医学校のサイトや、先生が関わる研究論文にアクセスして、先生の議論の理解を進めてきましたが、2017年の渋谷での講演は、研究者以外のビジネスパーソンや起業家、学生に向けたものであり、アカデミックな議論が一般向けの言葉に翻訳されて、分かりやすく伝えられていると感じて、貴重と思いました。

 

文面の転載及び画像の提供(利用)のお願いを受諾していただき、ありがとうございました。

転載部分の出典

メドピア株式会社より提供

 

Health 2.0 Asia – Japan 2017
2017年12月5日keynote(→プログラムへのリンク)より

プログラム掲載の演題:「認知症のリスクを予測する:科学・医療・技術」(Joe Verghese)

 

講演のご様子を伝えるもともとの記事のタイトルは、『世界の認知症研究からみる、「認知症予防」の最新トレンド―ジョー・バギース医学博士』でした。(Text By 梶川奈津子 / Edit By オバラミツフミ / Photos By 松平伊織 と記名されています。)

注:もともとの記事には松平さまにもリンクがついていましたが、現在、該当のページがなかったため、ここではリンクを外しています。

バギース先生の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」での講演録(以下、転載部分)

注:バギース先生の当日のお写真です。メドピア株式会社より画像利用の許諾を得ました。

 

2017年12⽉5⽇から6⽇にかけて渋⾕ヒカリエで⾏われた、世界最⼤規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。

 

本記事では、ニューヨークの医科⼤学で20年間、認知症をはじめとした⽼齢学を研究するJoe Verghese⽒を迎えたキーノート「認知症のリスクを予測する:科学・医療・技術」をダイジェストでお届けします。

 

70歳以上人口において、2番目に多数を占める障害疾患といわれる「認知症」。超高齢社会の日本では、今後も患者がますます増えることが予想されます。認知症は、数年をかけて徐々に発症に⾄るケースがほとんど。Joe⽒は、だからこそ「⽇頃から⾝体の⼩さな変化を捉え、発症リスクを特定しておくことが⼤事だ」といいます。

 

20年にわたり世界の症例と向き合ってきたJoe Verghese⽒が、最新の研究結果を踏まえながら、認知症の効果的な予防法を語ります。

患者の教養を問わない“万国共通”の認知症検査法「PMIS」

Joe Verghese(以下、Joe): 私は、ニューヨークの医科⼤学で20年間「⽼齢学」の研究をしています。主に⾼齢者の多岐にわたる問題をテーマに、たとえば認知症やフレイル(虚弱、⽼衰)、転倒の問題などを扱ってきました。また、研究で得た知⾒を医療現場に活かし、認知症を特定する検査法などを開発しています。

 

私は検査法を開発するときに、⼤事にしていることが3つあります。まず、すべての患者に適⽤できるよう費⽤を安価に抑えること。そして、トレーニングを受けた⼈でさえあれば、たとえ医師でなくとも誰もが実施できること。最後に、患者の教育レベル(⾔語・数学能⼒)を問わず、誰もが受診可能であること。

 

こうした考えに⾄った経緯には、私が数年前にインドで認知症の研究を始めた頃があります。当時出会った患者は、教育機会に恵まれない⽅がほとんどでした。彼らの識字⼒を前提条件とした検査法を考案する必要があったのです。そこで開発したのが、「画像記銘⼒障害スクリーニング(Picture Memory Impairment Screen、以下PMIS)」という写真を使⽤した検査法です。

 

事前にさまざまな写真を⽤意し、患者には、お題に従って該当する写真を選んでもらいます。たとえば「交通⼿段はどれですか︖」と質問をし、該当する写真を指してもらう。そして数分後に、「先ほど⾒た写真を思い出せるかどうか」を確認します。

 

その検査を繰り返し、連続して3つ以上の写真を思い出せなかった場合は、認知症のリスクがあるといえます。検査の精度も⾼く、10⼈中9⼈は正しく症状を特定することができるのです。

 

ちなみに、PMIS以外の主な検査⽅法として、「ミニメンタルステート調査(MMSE)」が⼀般的に知られています。しかしMMSEは、図形描画や⽂章を書く作業が伴うため、患者の教育レベルが低い場合には症状を特定しづらい懸念があります。また、予測率が約60%と精度があまり⾼くありません。

「物忘れ」と「歩行速度の低下」が気になり始めたら、まずは認知症を疑ってみるべき

注:メドピア株式会社より画像利用の許諾を得ました。

 

Joe:認知症の⼤半は、数年単位の時間をかけ、徐々に発症に⾄るケースがほとんどです。なので、特に⾼齢者は⽇頃から⾝体の⼩さな変化を捉え、認知症のリスクを特定しておくことが⼤事です。

 

直近10~15年の研究では、認知症の前兆とされる症例が明らかになっています。たとえば、認知症の自覚症状がなく、日常生活に支障はない方の場合でも、「軽度認知障害(MCI)」になっている可能性があります。

 

また、認知症が発症していない⾼齢者の⽅でも、物忘れが激しく、かつ歩⾏速度が遅くなった場合には「運動認知リスク症候群(MCR)」であると考えられます。こちらは発症例が多く、以前17ヶ国・2万6,000⼈の成⼈を対象に⾏った調査では、10⼈のうち約1⼈がこの運動認知リスク症候群であることが判明しました。

 

また東京でも同様に、認知症リスクに関する研究を⾏ったことがあります。認知症患者の介護に1年以上携わった⽅(看護師やセラピストなど)を対象に、⾼齢者の転倒についてヒアリングをしました。そこで判明したことは、やはり「認知症を患う⾼齢者は、歩⾏中に転倒するリスクが⾼い」ということ。全員のケアをしていたら、莫⼤な費⽤がかかります。

 

しかし、認知症を患ったすべての⾼齢者が転倒するとは限りません。転倒リスクが⾼い患者のみをターゲットにし、かつ彼らの転倒を防⽌するコストを削減すれば、結果的に⼤幅な介護費⽤が節減できるということになります。こうした結果を受け、私は数ある認知症の前兆のなかで、特に⾼齢者の歩⾏機能の改善に着⽬するようになりました。

世界各国の研究結果にみる、多様な認知症予防法

Joe:先ほどの調査のように、歩⾏能⼒と認知機能には密接な関係があります。たとえば思考や情報処理といった認知の遂⾏能⼒が低下した場合、歩⾏能⼒に影響を及ぼすことが分かっています。

 

では逆説的に、認知機能を改善することで、たとえ運動せずとも歩⾏能⼒を改善することができるのではないか。そう考えた私は、実証実験を⾏いました。被験者は24⼈。12⼈には、ブレインゲームを週3回・3ヶ⽉間⾏い、継続的に脳を活性化させてもらう。残りの12⼈には、対照群として通常どおりの⽣活を⾏ってもらいました。

 

3ヶ⽉後に測定を⾏った結果、ブレインゲームで継続的に脳を活性化していた12⼈は、歩⾏スピードが約15%改善していました。⼀⽅、対照群の12⼈も若⼲の変化はあったものの、顕著ではありませんでした。⾮常に座りがちな⽣活を⾏う⼈でも、脳を活性化するだけで歩⾏機能を改善することができると判明したのです。

 

他にも、世界各国では様々な認知症予防策が研究されています。特に「社交性」は、直近12年ほど注⽬されているテーマであり、世界各国から実証結果が報告されています。

 

たとえば2000年にはスウェーデンから「⾼齢者のなかでも、特に社交的な⼈たちには認知症患者が少ない」という研究結果が出ました。それから、タイの研究では「特に友⼈と交流することで、より認知機能が維持される(家族との交流は、あまり効果がない)」という結果も出ています。

 

また、イギリスの研究では「性別によって、認知機能の維持に効果的な交流相⼿が異なる」とされており、「男性は配偶者、⼥性は友⼈とのインタラクションがあると認知機能が維持されやすい」との結果が出ています。

 

さらに、アメリカや⽇本の研究機関では「認知症予防の活動として、特にダンスが効果的である」という結果も出ています。このように、認知症予防においては、社交性がひとつのキーワードであり、エイジングケアの秘訣といえるでしょう。

 

(転載終了)

最後に―カフェスト編集スタッフのコメント―

このたび、メドピア株式会社から転載の許諾を得て、この2017年の日本の渋谷での講演をご紹介できたことは大変、幸運なことと思っています。

 

ここでの講演の内容は弊社プロジェクトでの学びと響き合っており、読み応えがありました。自分たちだけの学びでは曖昧に感じることがありましたが、この講演録を読み、視界が幾らか晴れて、学びの裏づけが得られたと思いました。
今後は、この講演内容を反映させて、バギース先生の研究からの私たちの学びをご紹介していきたいと思っています。

 

(文:星野 周也)

 

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