阿波おどりと「ねたきりになら連」
2020/08/14
こんにちは。
認知症Cafést編集スタッフのSです。
一枚の葉書
ここに1枚の葉書があります。
阿波踊り(おどり)の中止を伝える葉書で、「ねたきりになら連」という踊りのグループが差し出し人です。
本来ならば、本日は、阿波おどりの開催期間中に当たりますが、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて、阿波おどりは全面中止になっています。
阿波おどりと私
夏の納涼祭で踊る
以前の記事(「志村けんさんからの学び―ドリフの笑いは介護現場でも通用した― 」)で書きましたとおり、
有料老人ホームの夏の納涼祭で、志村けんさん(ドリフ)の「東村山音頭」に感化され、自分たちのアレンジを加え、老人ホームの入居者、働くスタッフのみんなで阿波おどりを踊りました。
私はこの老人ホームで働く介護スタッフで、この納涼祭の実行委員長を務めました。
「全員集合、全員参加」を理念とし、
納涼祭を盛り上げてもらうために呼び、ダブルダッチ(注:二本の縄を使う縄跳びのパフォーマンス。向かい合った2人の縄の回し手が、右手のロープと左手のロープを半周ずらせて内側に回す中を、跳び手が色々な技を交えて跳ぶというもの) を披露してもらった日大の学生さんたちにも、この時間は、入居者やスタッフの阿波踊りの輪に加わってもらいました。
歩くことができる入居者はもちろん、車いすの入居者の方にも阿波おどりの輪に加わっていただきました。
入居している要介護・要支援の高齢者が祭りの主役であるべきという思いから、可能な限り、車いすの方、リクライニング車いすの方に浴衣を着ていただきました。浴衣は家族に持ってきてもらうようお願いしました。
座位保持も難しく、手の拘縮も強くなっている方に浴衣を着ていただくというところに、介護職としての介護技術の見せどころがあるだろうと考えたものです。
阿波おどりを見ることはプライベートでの趣味になった
私はこうして、老人ホームの現場での仕事で、阿波おどりの楽しさや深さを知ったわけですが、それがきっかけになり、実際の阿波おどりを見に行くことが、プライベートでの趣味になりました。
屋外での阿波踊りも見ましたし、屋内の舞台での阿波踊りも見ました。
注:2015年(平成27年)8月30日、高円寺にて。
注:2016年(平成28年)8月28日、座高円寺という舞台にて。
注:2019年(令和1年)7月27日、神楽坂にて。
阿波おどりの本場の徳島へも出向く
話が前後しますが、阿波おどりの本場の徳島へも出向きました。
本場を見てみたいと思っていたところ、「ねたきりになら連」という阿波おどりのグループがボランティア募集しているのを知り、飛びつきました。
今から6年前、2014年(平成26年)8月13日のことです。
注:2014年(平成26年)8月13日、徳島市市役所前演舞場にて。
ねたきりになら連とは/障害者や高齢者がこの場の主人公
ねたきりになら連は、
・脳血管障害などで手足の不自由な方も、私たちといっしょに「阿波おどり」を楽しみましょう
・家庭に閉じこもりがちな高齢者の方々に日本の代表的なお祭りである「阿波おどり」に参加してもらおう
という趣旨で活動する徳島生まれのボランティアグループです。
「徳島老人生活ケア研究会」の設立(1993年)により誕生しました。
私もボランティアという立場で「特権」を得て、徳島市市役所前演舞場に立つ
ねたきりになら連のサイトでの年表では、
1993年より毎年、阿波おどりへの参加者について、「車イス58名/ボランティア156名」など記されています。
ボランティアとして参加した2014年8月13日、白髪を美しく整えられた高齢女性が乗る車イスを押しながら演舞場を行進いたしました。つまり、本場徳島の阿波おどりを見る側として楽しんだだけではなく、演者側(見られる側)としても楽しみ、味わうことができたのです。
徳島市市役所前演舞場のあの観客席の前を、祭り特有の高揚した空気感の中、歩いたのですね。
ボランティアという立場で「特権」を得たようでした。
ノーマライゼーション
ねたきりになら連のサイトのコラムでは、
障害者福祉を考える上での基本理念としてノーマライゼーションについて語られています。
これは、ねたきりになら連の活動の支えとしてこのサイトでは示されているわけですが、
福祉社会の創造を目指す人や団体(弊社や当サイトを含む)が繰り返し立ち返るべき基本精神と思います。
「障害者を施設に収容するのではなく、障害者が健常者とともに地域社会の中で普通の暮らしが出来る社会こそが本来のあるべき姿であり、若者も老人も、健常者も障害者も、ともに助け合い同じ地域に住めるように社会全体で条件を整えていくべきである」という障害者福祉を考える上での基本理念。この考え方は、1981年の「国際障害者年」を契機にひろく定着しつつある。
「障害は社会によって作られる」とか「ねたきりはねかせきりからはじまる」と言われるように、手厚く保護されているようでも、それが隔離や排除思想の上に行われていたのでは、あたりまえの人間として生きたい人を支えることにはならない。
「いつかは私も」と、お互いが自分のこととして、お互いの自立を支え合うことが重要だ。そして自立した人間同士がみんなで連帯してネットワークを広げていけば、ノーマライゼーションに基づいた地域ぐるみでの福祉が実現するのではないだろうか。
圧巻の場面ー「ねたきりになられん」とみんなで叫ぶー
演舞場でのパフォーマンスで圧巻だと思ったのが、
無理のない範囲で、ボランティアの人に支えられながら、車イスの人に立ってもらって、かけ声をみんなで叫ぶところです。
「ねたきりになられん」は掛詞(かけことば)になっていて、「ねたきりになら連」というグループ名と、「寝たきりになってはいけませんよ」という意味の阿波(徳島)方言を指しています。
車イスの人に立ってもらって、「ねたきりになら連」でのかけ声をみんなで叫ぶのですね。
「ねたきりに」
「なられん なられん なられんよ」
などと。
これは私も気持ちが高まり、感激しました。
車イスに乗っている障害者や高齢者がこの場の主人公で、阿波おどりのパフォーマンスの主役として立ち上がってもらい、その人らしく振舞う(自己表現する)のを支えるーこれが介護の仕事だと思いました。
「ウイズコロナ時代」の新たな阿波おどりに期待
ねたきりになら連へのボランティアとしての参加は、この一度だけですが、以来、毎年お葉書を頂いております。そのお気持ちうれしく思っております。
コロナウィルス感染症の影響を受けて、今後、どういう形になるのか分からないですけども、また、参加させていただきたく思っています。
新たな阿波おどり、「ねたきりになら連」に期待します。
終わりにー ショートムービー ー
ねたきりになら連のサイトからは、
ねたきりになら連の考えや実際の阿波おどりの様子を紹介するショートムービーへのリンクもあります。
百聞は一見にしかずで、動画を見れば、私が今まで書いたことも「そういうことか」と納得していただけるのではないでしょうか?
阿波おどりや夏のお祭りの雰囲気を感じていただければ幸いです。
(終)
注:youtubeでの動画へのリンクを貼っています。この画像はこの動画のサムネイルをコピーしました。
<認知症Cafést内関連記事>
・認知症国会勉強会で「当事者を起点とした地域づくり」について話を聞くー障害福祉と比較しながらー
<参考>
1. “踊りのない夏”廃業検討の可能性 3割の衝撃(著者は宮原豪一、六田悠一、荻原芽生氏)|NHKニュース 2020年7月10日
2. 阿波おどり中止、損失2億円超…宿泊施設の3割が廃業検討(著者は福永正樹氏)|読売新聞オンライン 2020年8月12日
3. ダブルダッチとは?|特定非営利活動法人 日本ダブルダッチ協会
4. 新たな阿波踊り模索 戦後初の全面中止 主催・運営責任者に聞く|徳島新聞 2020.08.13
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