腎臓の機能の指標―アルブミン尿と認知症の関係―

2020/02/26
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昨日、会社で健康診断を受けました。
朝、採尿をして本社へ向かいました。
今回は、尿たんぱく、なかでも、尿内のアルブミンというたんぱく質の量と認知症発症の関係について、記したく思います。

腎臓の機能と尿検査

尿たんぱくは腎臓の機能に関係しています。
以下、詳しくみてみましょう。

アルブミン

アルブミンは血液の中に多く含まれているたんぱく質です。通常は尿には漏れ出ないのですが、腎臓の機能が低下してくると、尿に漏れ出すようになります(下図参照)。

 

腎臓の状態 アルブミンの尿への漏出
正常の腎臓 尿に漏れ出ない
機能が低下した腎臓 尿に漏れ出す

 

クレアチニン

クレアチニンは筋肉内で産生される老廃物です。
クレアチニンは血管内で腎臓まで運ばれ、腎臓で濾過され、腎臓から尿に排出されます。
腎臓の機能が低下すると、尿中に捨てられる量が減り、血液中の濃度が上がります。
よって、尿中のクレアチン量は腎臓の濾過機能の指標となります

アルブミン/クレアチニン―アルブミンの量をクレアチニンの量で割った値―

尿中のアルブミンの量(mg)を尿中のクレアチニンの量(g)で割った値、すなわち、尿中のクレアチニン1gあたり、どのくらいのアルブミンの量(mg)があるかという値が、尿たんぱくの指標として精度が良いようです。

アルブミン尿と認知症発症の関係

尿中のアルブミン量と認知症発症の関連を検討した研究データがあります。
ここで使われている指標が「アルブミン/クレアチニン(mg/g)」です。

方法

・2002年の福岡県久山町の高齢者健診を受診した60歳以上の住民のうち、認知症のない1519人を10年間追跡調査

 

結果

 

・10年の追跡期間中に347人(22.8%)が認知症を発症

・データに基づき、2002年(調査開始時点)の尿中の「アルブミン/クレアチニン」(アルブミン尿量)の大小と、統計的に算出した認知症発症率(対1000人年)は以下の通り。

 

 

 

アルブミン尿量(mg/g) 認知症発症率
<=6.9 19.8
7.0-12.7 20.7
12.8-20.9 30.3
>=30.0 32.5

 

認知症発症率については、一例を挙げて説明しますが、アルブミン尿量が「<=6.9」、すなわち、「(尿中において)クレアチニン1gあたりアルブミンが6.9mg以下」のとき(1000人年あたり)19.8でした。
このことは、この程度(「<=6.9」)のアルブミン尿量である1000人の対象者を1年追跡できれば19.8人発症する程度の発症率と言い換えられます。また、この程度のアルブミン尿量の500人の対象者を2年追跡できれば19.8人発症、同アルブミン尿量の250人の対象者を4年追跡できれば19.8人発症する程度の発症率というように言い換えられます。

 

上記の表より、アルブミン尿量が多ければ、認知症発症率が増すことが確認できます。

データの出典

上記は日本腎臓学会誌に掲載された以下の記事からの引用でした。

高江啓太,永田雅治,小原知之,秦淳,鶴屋和彦,北園孝成,清原裕,二宮利治. 一般住民におけるアルブミン尿と認知症発症の関係:久山町研究. 日本腎臓学会誌583, 263, 2016

慢性腎臓病(CKD)と認知症の関係

アルブミン尿量が多いというのは、腎臓の機能低下を示すと考えられます。

 

157回老年学・老年医学公開講座「腎臓を守って、認知症を予防!めざせ、健康長寿!」講演集では、慢性腎臓病があると心房細動になりやすく、心房細動があると脳梗塞や認知症が起こりやすいという一連の流れがある注:文中のCKDを同義の慢性腎臓病と言い換えました。と述べられています。

 

このことは、腎臓の機能低下や腎臓病と認知症とのつながりを示す一例と言えるのではないかと思います。

 

なお、慢性腎臓病(CKD)の幾つかある定義のうち1つは、「尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、アルブミン尿量が30mg以上(クレアチニン1gに対して)である状態が3か月以上継続していること」というものです。

コメント

健康診断の結果で分かるのは、尿たんぱく(蛋白)が「-(陰性)」か「+(陽性)」かということであり、詳しい値が明らかにされるわけではありません。
あまり考えたくないことではありますが、陽性という結果が出た場合は、詳細な検査を受け、前向きに今後の対策を考えていくことになろうかと思います。

 

(文:星野 周也)

 

 

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