記憶とにおいの関係ープルースト効果は裏付けられること?ー

2021/05/24
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写真はiStockから

 

プルースト効果とは?

紅茶に浸したマドレーヌの香りによって、幼い頃の記憶が呼び起こされる。

 

マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』(← Amazonへのリンク)では、主人公が紅茶に浸してやわらかくなったひと切れのマドレーヌを食べたことをきっかけに、過去の記憶が蘇る場面があります。

このマドレーヌの一節をもとに、嗅覚や味覚から過去の記憶が鮮明に蘇る心理現象は「プルースト効果」と呼ばれるようになりました。

 

特に今回、注目したいのが、記憶とにおいの関係です。

プルースト効果は裏付けられること?

プルースト効果は裏付けられることなのでしょうか?
そうかもしれないというのが回答になります。
そのお話をしてみます。

それを解く鍵(1) 記憶とにおいに対応する脳の部位

それを解く鍵の1つ目は、記憶とにおいに対応する脳の部位を確認することです。

 

記憶を司る脳の部位は海馬(かいば)で、
におい(嗅覚)を司る脳の部位は嗅球(きゅうきゅう)です。

それを解く鍵(2) アセチルコリン(記憶や学習に関係する神経伝達物質)

それを解く鍵の2つ目はアセチルコリンという記憶や学習に関係する神経伝達物質です。
現段階ではまだ伏線の情報なのですが…。

 

脳の神経回路ではニューロンとニューロンが情報のやりとりをしています。ニューロンとニューロンの間は隙間(シナプス間隙と言われます)があって、密着しているわけではありません。
ニューロンとニューロンの接続部分で、片方のニューロンから神経伝達物質を放出して、もう片方のニューロンでそれを受け取るということをして情報を伝達しています。

 

その神経伝達物質(50種類くらいあるそうです)の1つであるアセチルコリンは記憶や学習に関係すると言われています。
認知症との関連で付け加えると、アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンを作る細胞が減少していると言われています。

それを解く鍵(3)脳の中のアセチルコリンの流れ

それを解く鍵の3つ目は脳の中のアセチルコリンの流れです。

 

模式図にしてみました。
カフェスト編集スタッフが以前参加した講演会(後注)での講義資料を参考にして作成しました。
前脳基底部という場所から嗅球、海馬、新皮質という場所へアセチルコリンは流れています。

 

記憶を司る海馬と、においを司る嗅球は、共通の根っこ(前脳基底部)からアセチルコリンを受け取っているというわけです。
なお、新皮質は認知を司る脳の部位です。

 

嗅覚機能の低下はアルツハイマー病の初期症状の一つ

アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンが減少するのでした。模式図で示唆されるように、記憶を司る海馬でも、においを司る嗅球でもアセチルコリンが減少するということになります。

 

記憶が低下し、嗅覚機能も低下するということの関連性が浮かび上がってきますね。(これらの因果や関連を科学的に厳密に確定するというのは、簡単ではないようなのですが…)

終わりに

ということで、プルースト効果について裏付けられる「かもしれない」と言いましたが、ちょっと“におい”ますね。
記憶とにおいの抜き差しならない関係性が…(笑)。

 

(文:星野 周也)

 

 

<後注>

「脳の中のアセチルコリンの流れという模式図」は令和2年(2020年)1月25日に参加した認知症講演会での資料を参考にして作成しました。
講演会のチラシは残ってましたので撮影しました。

 

 

 

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