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介護施設でのコロナ感染による死亡率の国際比較ーイギリス、ドイツ、日本の比較―

Pandemic Covid-19 text outbreak with world map on dark blue background. Virus hazard, pandemic, health risk concept vector illustration.

 

 

Googleは検索キーワードを入れなくても、Web検索の履歴などのデータをもとに、ユーザーの興味に合わせたWebコンテンツを自動的に表示してくれる機能(“Google Discover”)があり、私の場合、海外の介護施設の情報(“care home”、“nursing home”、“lomg term care facility”等が見出しに入っている記事)が表示される。カフェストの記事執筆のため海外の動向の情報収集をすることもあるためであろう。
海外の介護施設の動向に関して、最近、目に留まったニュースについてご紹介したい。

イギリスの新聞紙上で話題にーイギリスの介護施設でのコロナ感染による死亡率の高さー

先日、イギリスの介護施設のコロナ感染による死者数の割合がドイツより13倍高いというセンセーショナルなタイトルの記事が表示され、目を通した。
こちらである。

Britain has Europe’s worst Covid-19 care home death toll and its fatality rate is 13 TIMES higher than Germany’s, analysis reveals|daily Mail online 2020.06.29

 

ウィキペディアによれば、この記事を掲載しているディリーメイル(daily Mail)はイギリスの大衆紙(タブロイド紙)。

 

イギリスの高級紙のガーディアン(The Guardian)でも、次の見出しの記事が書かれている。

Covid-19: risk of death in UK care homes 13 times higher than in GermanyThe Guardian 2020.06.28

 

いずれも(介護施設でのコロナ感染による死亡率が)イギリスではドイツより13倍高いという点を強調した見出しになっている。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスがまとめたデータ

何の調査データに基づく話題かと言えば、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが、各国で発表されている公的な統計情報に基づき、6月中旬時点でまとめあげた、ヨーロッパを中心とする各国の介護施設の居住者のコロナ感染による死亡率のデータである。

 

 

出典:Comas-Herrera A, Zalakaín J, Litwin C, Hsu AT, Lemmon E, Henderson D and Fernández J-L (2020) Mortality associated with COVID-19 outbreaks in care homes: early international evidence. Article in LTCcovid.org, International Long-Term Care Policy Network, CPEC-LSE, 26 June 2020

注:上記出典記事内の表(table2)より一部転記。各国の介護施設居住者数は10の位を四捨五入した。ただし、アイルランドの介護施設居住者は当該の表(table2)の数字ではなく、コロナで死亡した人の割合(3.2%)を計算する際に使用している(出典記事内の)本文中の数字を採用した。

イギリスとドイツの比較

介護施設居住者数

・イギリスは41万1千人に対し、ドイツは81万8千人とドイツにおいて約2倍。

注:上記のデータ集計で介護施設は、急性期の状態にある人ではなく、長期的な介護のニーズがある人たちが居住する住宅・施設と定義されており、当然、介護施設居住者数は、この定義に合致する住宅・施設に居住する人たちの合計の数字を指している。

 

(このうち)コロナ感染で死亡した人の割合

・イギリスは5.3%(41万のうち5%と概算して、20,500人)

・ドイツは0.4%(82万のうち0.4%と概算して、3,280人)

・イギリスの介護施設におけるコロナ感染で死亡した人の割合は、ドイツの13倍(5.3 / 0.4 = 13.25)

 

(ちなみに)人口100万あたりのコロナでの死亡者数

・イギリスは635名で、ドイツは107名。6倍ほどの差がある。

 

上記結果の原因と考察されていること

ガーディアンの記事より原因として考察されている点を、以下5つに整理した(注:カフェスト編集者側での整理)

 

・ドイツでは患者を病院から退院させて介護施設に入居させる場合に、検査をして、14日間の検疫を課した。

・ドイツは追跡システムの導入により、介護施設のどの入居者及びスタッフが誰と接触していたかについての把握が進んでいた。

・4月に行われたロンドンの介護施設での調査によれば、複数の施設を転々と働いた、臨時に雇い入れた職員が、感染源となっていた。

・イギリスでは介護施設のスタッフと居住者(利用者)を検査する体制が整っていない。

 

上記4点は細かい点についての指摘であるが、残り1点の指摘は包括的な指摘である。

 

・イギリスは、介護施設内にとどまらず、そもそも社会全体で感染拡大を抑えることができていなかった。

 

病院から介護施設への退院者についての上記1点目の指摘に関連し、デイリーメールの記事では、コロナ感染拡大のピーク時の3月17日から4月15日までの間に、25,000人が病院から介護施設へ、検査を受けることなく退院(転居)していたという数字が示されている。

 

コメント―データを取ることについて―

研究の限界

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのレポートでは、コロナ感染による介護施設居住者の死亡数について、多くの国で、オフィシャルな数字としては示されていないと言う。

 

また、入手した数字についても、検査数、死亡の記録法、介護施設(”care home”)の定義は、国によってそれぞれ異なるので、国と国の間の比較は難しいと限界が述べられている。

データが示されるからこそ見えること

そういう限界があるなかでも、オフィシャルな数字として各国が提示しているものをかき集めて、示してくれることで、イギリスの新聞紙面上にて自国のあり方を見直す考察が引き起こされるのではないかと思う。
そして、次の研究や分析につながる問い、課題がもたらされるのだと考える。

日本の場合

では、我が日本の場合はどうかと言えば、安部晋三首相が、5月12日の衆院本会議で、介護施設で新型コロナウィルスに感染して亡くなった高齢者の人数や死者全体に占める割合について、「現在、明確に述べることは困難」との認識を示している。

 

これでは、国際統計からそもそも外されてしまうと言えないだろうか。

日本の介護施設居住者総数のうち、コロナ感染で亡くなった人は、0.01%に満たない!?

国が数字を示さないなかで、共同通信が自治体に調査した結果として、5月8日時点で日本の介護施設で亡くなった入所者を79名と伝えている。

 

79名という数字だけでは何%かという割合の計算は成り立たず、介護施設居住者数の全体の数字が必要になる。
1つの参考の数字になるが、社保審ー介護給付費分科会第143回(H29.7.19)の資料によれば、定員ベース(平成28年時点)で、介護施設のうち、特養(約58万)、有料老人ホーム(約46万)の2つで100万を超えている。

 

ある記事で、施設にいる高齢者のうち何%がコロナで亡くなったかという数値に換算すると、ドイツが0.4%、スウェーデンが2.8%、イギリスが5.3%、スペインが6.1%であるのに対し、日本は0.01%にも満たないと書かれていた。

 

ここに示されている数字の内、ドイツ、スウェーデン、イギリス、スペインの数字は、本記事の冒頭で紹介し、表としてもお示しした、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの調査結果から得た数字であることが分かるだろう。

 

日本については、計算式の分子にあたる介護施設での死者数として使用されている数字は、前後の文章を読めば、共同通信が調査して得た79名である。分母(介護施設居住者の総数)については特に示されていないが、仮に100万とすれば、計算結果は0.008%であり、確かに0.01%に満たないという結果になる。

介護施設でのコロナ感染による死亡率の抑制は世界的に見て日本が誇るべきことではないか?

「0.01%にも満たない」と計算したその記事では、日本の成功の大きなカギの1つは高齢者施設での感染拡大を抑制できたことだと考えると述べられている。

注:成功とは、その記事では、日本を含む東アジアにおいて、欧米に比べてコロナ死亡者数が格段に少ないことを指している。

 

国が公式の統計として示さなくても、計算して示してくれている人たちがいる。もしかしたら、誤りがあったり、精度が高くなかったりということはあるかもしれない。
しかし、こういう計算がなければ、介護施設でのコロナ感染による死亡率の抑制は世界的に見て日本が誇るべきことではないかという主張(仮説)を打ち出すこともできないと言える。

 

国の公式な統計としても示されることを期待したい。

 

(文:星野 周也)

 

 

 

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