Site icon 認知症 Cafést online

オランダの認知症村「ホフヴェイ」が保障する認知症の人の社会生活

 

はじめに―TEDでホフヴェイ―

オランダの認知症村「ホフヴェイ」に関する以下のカフェストの記事はよくアクセスされています。

 

オランダ・ホフヴェイ(Hogeweyk)に学ぶ、認知症ケア

TED

TED(←リンクあり)をご存知でしょうか。
「広める価値のあるアイデア」をシェアするという精神で、講演の動画を無料配信しています。1984年に米国で始まり、今は、世界中に、TEDの精神に基づく非営利のコミュニティが広がっています。

 

今年の3月に、1992年頃からプロジェクトリーダーとして、現在の「ホフヴェイ」を作り上げてきたイボンヌ(Yvonne van Amerongen)さんの講演がTEDより配信されました。(注:講演自体は2018年11月のもののようです。)

 

それをもとに、「ホフヴェイ」が保障する認知症の人の社会生活について紹介します。

TEDでのイボンヌさんの講演の配信

The “dementia village” that’s redifining elder care | TED

 

 

「ホフヴェイ」の復習―価値観の似た者同士で暮らすシェアハウスの集まり―

イボンヌさんによれば、「ホフヴェイ」には、27軒の家があり、それぞれの家には、6~7人の認知症が進んだ人が暮らしています。常時、介護や支援を必要としてる人たちです。

 

オランダ・ホフヴェイ(Hogeweyk)に学ぶ、認知症ケア」で紹介したとおり、オランダの認知症村「ホフヴェイ」の大きな特徴は、価値観の似た者同士で1つの家に住まうという点にあると思います。

 

イボンヌさんは、「ホフヴェイ」に暮らす認知症の人の家族に、「この方にとって大事なものは何ですか?」、「この方の生活はどのようなものですか?」など尋ねると言います。
そして、認知症の人を、価値観やライフスタイルが近い者同士のグループに分けます。

 

TEDでの講演では、あるライフスタイルのグループが次のように紹介されています。

 

他人との交流において礼儀を重視する。他人とは一定の距離を保つ。起きる時間も寝る時間も遅い。クラシック音楽がよく流れている。献立では伝統的なオランダ料理よりもフランス料理が多い。

 

また、別のライフタイルのグループとして、
「小さな手工業や農業に従事してきて、早寝早起きをするグループ」や、「旅行、人との交流、異文化、アートや音楽に興味があるグループ」が紹介されています。

 

よって、「ホフヴェイ」では、価値観の似た者同士6、7名で暮らすシェアハウスが27軒建っていると理解できます。

「ホフヴェイ」が保障する認知症の人の社会生活

「ホフヴェイ」が保障するものは、(これまで紹介してきた)価値観の似た者同士の共同生活にとどまらないとイボンヌさんは言います。
「人間は社会的動物であり、
社会生活(ソーシャルライフ)が必要」との考えに立ち、27軒の建物の外に、レストラン、スーパーマーケット、パブ、クラブルーム、街路、路地、劇場などを整えており、一つの街(“dementia village”)になっています。

 

イボンヌさんのお話では、認知症の人の社会生活や社交に関する幾つかの事例が紹介されています。

 

 

・毎日のように素敵な女性を探し求めて外出して、丁寧に口説き、パブで踊る「毎日がお祭り」の男性

・レストランで友人とワインを飲み、ランチやディナーを共にする人々

・公園を散歩し、日当たりの良いベンチに座る女性

 

 

また、イボンヌさんがオフィスの窓から見たという「ホフヴェイ」での光景が印象的です。イボンヌさんが会話を試みると、会話が成り立たないとそれぞれ感じられる、認知症の二人の女性なのですが、その二人が通りですれ違うときに、身振り手振りを交えて、楽しそうに会話をしていたと言われています。

 

私見ではありますが、介護施設と言われれば、介護が提供されている老人ホームなどの建物をイメージするのではないかと思います。それも棟の建物をイメージするのではないかと思います。それに対して、「ホフヴェイ」は27棟の建物(シェアハウス)とレストランやスーパーマーケットの商業施設等からなる1つのエリアです。このエリア全体が介護を提供している場であると考えてよいと思います。

 

そして、このように1つの街のようなつくりにすることで、認知症の人の社会生活を保障していると理解できます(注:ホフヴェイの広さは1.5ヘクタール。参考ですが、甲子園球場のグランド部分の広さが1.3ヘクタールなので、それよりやや広いサイズということになります。)

スタッフは認知症の人の街の暮らしを成り立たせるエキストラ

別の記事注1)になりますが、イボンヌさんが、「ホフヴェイ」でのスタッフの役割に関して、次のように言われています。

 

認知症の人は、これまでと同じ暮らしを繰り返すことに何より安心を覚えます。『ホフヴェイ』では、認知症の人が失くしてしまった能力をスタッフがさりげなく補うことで、自分らしい暮らしをストレスなく続けることができる点が特長です。

 

街の造りが、認知症の人の“どう振る舞えばいいの?”という疑問にヒントを与えます。それまで暮らしてきたのと同じようにしていればいいのです。ただ、認知症の患者さんは普通と違う行動をするので、専門家が常にサポートします。例えばここのスーパーマーケットでは、住人がレジでお金を支払うことを忘れても、登録されたナンバーで記録し、まとめて精算できるシステムを採用しています。普通のスーパーなら事件になりますが、みんな顔見知りですし、誰からも責められることはありません。スタッフがさりげなくサポートするので、失敗経験にならないのです。

 

このお話を聞きますと、ここのスーパーマーケットは嘘とまこと、フィクションとリアルが織り交ざった場所のようであり、スタッフはフィクションを成り立たせるエキストラのような役割を担っていることが分かります。

フェイクの建造物が認知症の人の安全を守る

こちらの記事(注2)では、ホフヴェイの方式がオランダやドイツに広まっている様子が描かれています。(注:「ホフヴェイ」はオランダの首都アムステルダムに近い場所にあります。)

 

以下は、この記事で紹介されている、ドイツのデュッセルドルフでの事例になります。

 

フェイク(にせもの)のバス停がある。混乱状態にある認知症の人がどこかへ行きたいと思い、このバス停に忍耐強く並ぶ傾向がある。しかし、実際にはこのフェイクのバス停にバスが来ることはない。折を見て、介護者が認知症の人に声をかけ、住まいへ案内する。

 

要するに、バスが来ることのないフェイクのバス停が、混乱状態にある認知症の人に、(待てばバスが来るだろうと思うがゆえに)その場で忍耐強く待つということをさせて、結果として、気持ちを落ち着かせたのではないかと思います。

 

この事例からも、虚実がないまぜとなった社会が、認知症の人の混乱や不安を軽減させる仕掛けとなっているのだと学ばされます。(終)

 

(文:星野 周也)

 

 

Exit mobile version