米国発アルツハイマー病予防法のリコード法と食事② オリジナルから日本版へ
2018/09/13
米国発アルツハイマー病予防法のリコード法での食事の考え方の概論について前回の記事ではお伝えしました。
米国発のリコード法を日本で導入するために踏まえるべきことをお伝えします。米の摂取とタンパク質の摂取の2点についてです。
①米の摂取をどう考えるか?
低炭水化物食を勧めるプレデセン氏は、米をパスタ、クッキー、キャンデイー、砂糖と並べて、できれば摂取を避けたい「赤色信号食品」のリストに載せています。
これに対して、白澤氏は「夕食はごはんを食べていい」と言っています。ただし、以下の条件をつけています。
- 日中は糖質制限をする
(ケトン体をエネルギー源としている状態にする) - 夜9時までに食べ終わり12時までに寝る
- 白米に比べてビタミンや食物繊維が多い玄米を選ぶ
また、今野氏は量の目安は1食あたり20~40gと言っています。ご飯ならお茶碗半分程度とのことで、朝昼晩のうち、夕食だけ主食を抜くという方法でも構わないと言います。
「夕食は食べる(日中抜く)」、「夕食だけ抜く」と違いはありますが、食べて良いけど、控えめに食べるというのが共通のメッセージです。
②タンパク質の摂取をどう考えるか?
緩やかな菜食主義を勧めるプレデセン氏はタンパク質の摂取の目安について、体重1kgあたり1gのタンパク質で十分であり、ここが上限という言い方もしています。また、魚、鶏、肉はメインディッシュではなく、薬味として加えるとの考え方を示しています。つまり、摂取しすぎないようにという注意喚起のメッセージです。
これに対し、白澤氏は、「日本では食べなさすぎによるリスクがあります。肉や魚、大豆製品、卵などタンパク質を多く含む食品はしっかりとったほうがいい」と言います。
今野氏もタンパク質(肉、卵、大豆製品)は積極的に摂取してほしいので毎食摂取することを勧めています。
③タンパク質の摂取に関する日本人の高齢女性を対象とした研究結果から
では、一体どれくらいのタンパク質を摂取すれば良いでしょうか。
日本人の高齢女性(日本国内35県にわたる85校の栄養関連学科に通う学生の祖母世代の女性2108名。年齢は65~94歳。)を対象に、アルツハイマー病や認知症との関連ではありませんが、タンパク質摂取と虚弱(フレイルとも呼ばれる、加齢とともに心身の活力が低下し、日常生活への支障や心身の脆弱性が出現した状態。健康な状態と要介護の状態の中間。)との関連性を検討した研究では以下の結果が得られています。
- タンパク質の摂取量が多い人から人数が均等になるように5群に分けたとき、最もタンパク質の摂取量が少ない群(1日あたり62.9g以下)に比べて、タンパク質の摂取量が1日あたり69.8g以上になると、虚弱になる割合が有意に低かった。
- この関係性(摂取量が多いと虚弱になる割合が有意に低い。)はタンパク質が動物由来(魚、肉、卵等)か、植物由来(穀物、豆類、野菜、果物など)かで分解して検討してみても成立していた(摂取量が多いと虚弱になる割合が低い)。
- また、この関係性はタンパク質を構成するアミノ酸(個別アミノ酸の数値あるいは個別アミノ酸の組み合わせの足し算の値からなる計8パタンで検討している)に分解してみても成立していた(摂取量が多いと虚弱になる割合が低い)。
- タンパク質の由来(動物か植物か)やタンパク質を構成するアミノ酸の種類によらず、タンパク質の摂取量が多いと虚弱になる割合が有意に低いということだが、この関係性がもっとも顕著なのは、分解して見た場合ではなく、合計でタンパク質を見た場合であった。
なお、日本人の食事摂取基準(2015年版)では、70歳以上の女性でタンパク質の推奨量は50g(男性では60g)となっています。繰り返しになりますが、この研究では1日約70g以上のときに虚弱になる割合が有意に低かったという結果でした。
この1つの研究結果だけでは結論づけられませんし、虚弱予防という点からになりますが、1日50~60gでは足りない可能性があります。また、研究での考察では、1日の摂取量ではなく、タンパク質を朝食・昼食・夕食に分割して食べることが虚弱予防と結びついていたこと示す研究結果もあると述べられています。これは今野氏が毎食タンパク質を摂取すべきと指摘していることを裏付ける知見かもしれません。
タンパク質の1日摂取量合計なのか、頻回に(各食で)摂取することなのか(量なのか食べ方という質なのか)という点についての解明は今後の課題になりますが、タンパク質を由来や種類にこだわらず摂取すべきというメッセージを持つ結果であったと思います。
これは、(アルツハイマー病予防か、虚弱予防かという違いはありますが)白澤氏が指摘する「食べなさすぎによるリスク」と重なる結果とも思われます。また、具体的にはどのくらいかを示唆する結果であったとも思います。
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<参考図書>
- デール・ブレデセン著、白澤卓二監修、山口茜訳(2018)『アルツハイマー病 真実と終焉』(ソシム株式会社)
(編集者注:山口茜の「茜」のくさかんむりは正確には6画のくさかんむり。) - 白澤卓二(2018)『Dr.白澤のアルツハイマー革命ボケた脳がよみがえる』(株式会社主婦の友社)
- 今野裕之(2018)『最新栄養医学でわかった!ボケない人の最強の食事術』(青春出版社)
<参考論文>
Kobayashi S, Asakura K, Suga H, Sasaki S, et al. High protein intake is associated with low prevalence of frailty among older Japanese women: a multicenter cross-sectional study. Nutrion Joutnal 2013, 12: 164
<参考サイト>
- 日本人の食事摂取基準(厚生労働省のHP内)
- 児林聡美他「日本人高齢女性のたんぱく質摂取量と虚弱(フレイルティ)有病率の間には関連がある:多施設共同横断調査」
(本記事で紹介した英語論文の日本語での要約/東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野のHP内)