和食 VS マインド食② 日本人の食事を対象とした研究結果から

2018/09/06
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和食と認知症予防との関係について少しずつ研究の知見が出ています。
ここでは日本人の食事を対象とした2つの研究の結果を紹介します。

 

研究1 久山町研究

1本目は福岡県久山町の地域住民を対象とした研究です。

 

分析対象者は60-79歳の久山町の男女1006名で、調査期間は1998年から2005年です。

 

以下の結果が報告されています。

 

  • 認知症の発症と関連が見られた食事パタン(注:食品の摂取量により点数化されています。)は、緑黄色野菜、淡色野菜、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品、藻類の摂取量が多いほど点数が高くなり、米の摂取量が多いほど点数が低くなるパタンであった。
  • この食事パタンで点数を算出して、点数が高いものから対象者を4群に分けたときに、最も点数が低い群に比べて、最も点数が高い群で血管性認知症の発症割合が有意に低かった。
    平たく言うと、緑黄色野菜、淡色野菜、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品、藻類の摂取量が多く、米の摂取量が少ない人において、血管性認知症の発症割合が低かった。
  • この食事パタンに基づく得点と栄養素との関係は、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウムの各栄養素の摂取量が多いほど点数が高くなる得点化となっている。
  • この食事パタンに基づく得点化で最も点数が高い群(血管性認知症の発症割合が低い)では、糖尿病の人が多いという特徴も認められた。
  • 最も点数が高い群で、血管性認知症の発症割合が有意に低いものの、糖尿病の人の割合が高いのは、糖尿病による治療の結果として、この食事パタン得点が高くなるような食事をしている可能性が考えられるため、糖尿病がない人に限って食事パタンと認知症発症の有無の関係を検討したところ、最も点数が低い群に比べて、最も点数が高い群で血管性認知症のみならず、アルツハイマー型認知症の発症割合も有意に低かった。繰り返しになるが、(糖尿病がない人に限った場合の解析結果)緑黄色野菜、淡色野菜、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品、藻類の摂取量が多く、米の摂取量が少ない人において、血管性認知症のみならず、アルツハイマー型認知症の発症割合が低かった。

 

研究2 大崎コーホート研究

続いて、宮城県の大崎市の地域住民を対象とした研究です。

 

分析対象者は65歳以上の大崎市の男女14,402名で、調査期間は2006年から2012年です。

 

以下の結果が報告されています。

 

  • 認知症の発症と関連が見られ、日本食パタンと名付けられた食事パタンは、にんじん・かぼちゃ、葉菜類、海藻類、じゃがいも、白菜、キャベツ・レタス、オレンジなどかんきつ類、その他果物、大豆(豆腐、納豆)、トマト、漬物、きのこ類の摂取量が多いほど得点が高くなるパタンであった。
    (食事摂取頻度調査のデータをもとに、主成分分析という統計手法により39の食品のグループ分けをした結果で得られたパタンである。)
  • この食事パタンで得点化して、点数が高いものから対象者を4群に分けたときに、最も点数が低い群に比べて、最も点数が高い群で認知症の発症割合が有意に低い。
    (この研究では日本の介護保険で使用されている認知症の日常生活自立度でランクⅡ以上を認知症発症と定義して分析をしている。)
  • 上記の日本食パタンとは別に、伝統的な日本食という観点から理論的に9個の食品からなる日本食インデックスを作成した。
    (確証的因子分析という統計手法によりこれらの9個の食品が日本食インデックスを構成していることを確認した。)
  • このインデックスは、米、みそ汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚、緑茶を性別ごとに設定された基準値を超えて摂取している場合に1点を加点し、牛肉・豚肉、コーヒーについては、性別ごとに設定された基準値を下回って摂取している場合に1点を加点する得点化である。
  • このインデックスでの得点化でも、点数が高いものから対象者を4群に分けたときに、最も点数が低い群に比べ、最も点数が高い群で認知症の発症割合が有意に低かった。
  • このインデックスを構成する個々の食品で個別に認知症発症との関連を検討したところ、緑茶、海藻の摂取量が基準値を超えている場合に、認知症の発症割合が有意に低いとの結果が得られた。

 

研究1・研究2を踏まえて

①米の摂取をどう考えるか?

研究1の結果は米の摂取量が低いほど、認知症の発症割合が低いという結果で、米は摂取しない方がいいということになります。『世界一シンプルで科学的に証明された究極の数字』で、主に糖尿病のリスクとの関連からではありましたが、白米が少量でも体に悪いと指摘されていること重なります。

 

研究2のうち39の食品を分類して得られ、認知症発症との関連が見られた日本食パタンには米は含まれておりません。そのうえで日本食パタンの得点が高い人で認知症の発症割合が有意に低いという結果でした。

 

その一方、研究2では、米、みそ汁の摂取量などから日本食インデックスを作成(米の摂取量が基準値を超えた場合に加点)しており、この日本食インデックスの得点が高い人で認知症の発症割合が有意に低いとの結果も導いています。
この結果からは、米を食べても良いのではないかと思うですが、日本食インデックスを構成するもののうち、個別に検討すると、緑茶、海藻の認知症予防効果が大きいとの結果でした。

 

これらからは米の摂取が認知症予防につながるとは言い難いので、ほどほどにということと思います。
結果を見るにあたっては、久山町研究のHPや研究1の考察で書かれているように、米の摂取を単独で考えるのではなく、食事パタンの中での米の摂取と捉えることが大事です。一定の摂取カロリーの中で、米の摂取量を減らして予防効果がある他の食品の量を増やす食事パタンがよいことを示しているとHPでは説明されています。

②和食と地中海食(マインド食)との関係1ー牛乳・乳製品では結果が異なる?ー

研究1で得られた食事パタンは牛乳・乳製品の摂取量が多いほど、得点が高くなります。研究1の食事パタンの得点は栄養素レベルでは飽和脂肪酸の摂取が高いほど得点が高くなります。牛乳・乳製品が飽和脂肪酸を豊富に含みますので、食事パタンとの上記の関係が見られることになります。
(地中海食の代名詞、オリーブ油は飽和脂肪酸が少なくて、一価不飽和脂肪酸が豊富であり、地中海食スコアでは飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比が高いと得点が高くなります。)

 

一方、地中海食では乳製品の摂取量が低いほど、地中海食スコアとしては得点が高くなります。
よって、日本人にとっては牛乳・乳製品を摂取すべきものとなり、地中海食にとっては乳製品は摂取を抑えるべきものという違いが見られます。

 

このことに関連して久山町研究のHPでは日本人の牛乳・乳製品の摂取量はいまだに欧米人の半分以下と大きく下回っているため、日本人においては牛乳・乳製品の摂取が望ましいという結果になったものと考えられると考察しています。
(なお、研究2で、39の食品を分類して得られた日本食パタンには、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バターなどは含まれておらず、乳製品と認知症発症の関連は特に示されていないことになります。)

 

③和食と地中海食(マインド食)との関係2―共通して認知症予防効果があるもの―

和食と地中海食やマインド食に共通していて、認知症予防効果があると言われているものは、野菜、果物、豆類、魚の摂取と思います。(赤身)肉の摂取が少ないことも和食と地中海食(マインド食)の共通項目と言ってよいかもしれません。研究2にて、理論的な観点で作成し、認知症発症と関連が見られた日本食インデックスでは、牛肉・豚肉(つまり、赤身肉)の摂取量が基準量より下回ることで加点されていました。

まとめ

和食か地中海食(マインド食)かという問いを入り口としながら、掘り下げていきますと、この区別を越えて、健康に良いと言われているものが浮かび上がってきたと思います。
エビデンスレベルが高いとは言えない段階とは言え、示唆に富む結果であったのではないかと思います。
参考にしていただければと思います。

 

(文:星野 周也)

 

<認知症Cafést内関連記事>

 

<参考HP>

 

<参考文献>

  • 津川友介(2018)『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)
  • 佐々木敏(2015)『佐々木敏の栄養データはこう読む』(女子大学栄養出版部)

 

<参考論文>

  • 研究1
    Ozawa M, Ninomiya T, Ohara T, et al. Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. Am J Clin Nutr 2013; 97:1076–1082
  • 研究2
    Tomata Y, Sugiyama K, Kaiho y, et al. Dietary patterns and Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2016; 71:1322-1328

 

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