ビッグデータやITを駆使した台湾のコロナ対策

2020/04/10
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こんにちは。
フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどSNSでは「うちで過ごそう」、「stay home」というメッセージが飛び交っており、緊張の日々を過ごしております。
連帯感を持って一緒に乗り越えていければと思っています。

台湾のコロナ対策を評価するJAMA掲載の記事

3月3日付で、米国医師会が発行するJAMAという雑誌に、台湾のコロナ(新型コロナウィルス感染症)対策を評価する記事が発表されました。

Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing(著者はC. Jason Wang, Chun Y. Ng, Robert H. Brook3氏)

 

著者らは台湾の事例を危機に迅速に対応した例と考えています。

台湾と日本の新型コロナウィルスの感染の状況

台湾と日本の新型コロナウィルスの感染の状況は4月9日12時現在、下表の通りです。

感染者 死亡者
台湾 379 5
日本 4,768 85

 

台湾の人口は2,400万で、日本の人口は1億2,600万です。人口の5~6倍の差を考慮しても、台湾は日本と比較すると感染者、死者数が抑えこまれていることが確認できます。

注:数字は厚生労働省のサイトに基づきます。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者の状況は上の表の日本の数字とは別に集計されており、4月7日18時時点で感染者は712名、死者は11名です。

 

今回は冒頭に挙げたJAMA掲載の記事にて著者らに評価された台湾のコロナ対策についてご紹介します。
適宜、他のネット記事も参照しています。

迅速な対応―危機認識の速さ―

12月31日

WHO(世界保健機構)から中国の武漢市で原因不明の肺炎の報告があったのが昨年(2019年)の1231日です。
台湾は即日、武漢市からの帰国便に対して検疫官が機内に立ち入りし、乗客に対して発熱や肺炎の症状がないかの確認を開始しました。

1月5日

年が明けての1月5日、検疫の対象者の拡大の方針が発信され、過去14日間に、武漢市に渡航し、台湾入国時に発熱やかぜ症状(上気道感染の症状)が見られた人が対象者になりました。
感染が疑われる対象者には26種類のウィルス検査を実施しました。
発熱や咳の症状がある対象者は自宅での隔離対応になりました。

1月20日

1月20日にCECCという組織(注:Central Epidemic Command Centerの頭文字で、直訳すると中央感染症指揮センターという意味。)を本格稼働させ、省庁間が横断的に連携して伝染病対策に取り組む体制を整えました。日本の厚生労働大臣に相当する役職(衛生福利部部長)の陳時中氏がCECCの指揮官になりました。

注:20日、中国から、武漢市での感染が累計198名になったことに加え、北京市から2名、深セン市で1名の感染があったことが報告されました。(←参考記事へのリンク

ビッグデータの活用

台湾のCECCが行ったことの1つにビッグデータの活用があります。
具体的には健康保険カードに出入国に関するデータを組み入れました。また、飛行機での入国者の検疫電子システムを開発しました。

1月27日―武漢市(中国の湖北地区)への渡航歴情報の組み入れ―

1月27日に、健康保険カードに武漢市を含むエリアである中国の湖北地区への渡航歴情報の組み入れが行われました。これにより、この地区を訪れていた人が医療機関で健康保険カードを機器に挿入すると、その情報が表示されるようになり、医療機関側はこの人が湖北地区に行ったことをただちに確認できます。

1月30日―組み入れる渡航歴情報の範囲の拡大―

1月30日には、中国大陸、香港、マカオへの渡航歴の情報が健康保険カードで確認できるようになりました。

注:それ以降も対象地域を拡大しており、221日には韓国、日本の渡航歴も加えられました。

2月14日―入国者の検疫電子システムの開発に着手し、3日間で完成―

台湾は2月14日に空港(飛行機)での入国者の検疫電子システムの開発に着手し、3日間で完成させました。

 

台湾に戻る旅客は、自身のスマホで指定のQRコードからオンライン上の健康申告入力フォームの画面を出し、そこに渡航歴や健康状態を入力します。旅客の感染関連リスクによる振り分けをするためです。リスクが低いと判定された場合、スマホのSMS(電話番号宛てのショートメール)で、健康申告の認証のメッセージが届き、それを提示すれば、スムーズに入国することができます。

 

一方、新型コロナウィルスの感染が拡大している地域からの渡航者は、感染関連のリスクが高いため、自宅での検疫・隔離が義務付けられます。これらの対象者はスマホの位置情報機能などにより、きちんと(外出することなく)自宅に留まっていたかについて監視されました。

ITの活用①―マスクマップの事例―

マスクの流通の管理

台湾は資源分配においても積極的に手を打ちました。

 

1月20日には、外科で使用するサージカルマスク4,400万個、(微粒子を防ぐ)N95マスク190万個を備蓄していて、政府の管理化に置いていると発信をしました。また、政府の資金や軍人を投入してマスクの増産を進めました。

注:JAMAの記事での「資源分配」に関する記述としては以上です。以下、マスクマップについてはネット記事を参考にしました。

 

市販のマスクについては、2月初旬に市場経済を統制し、市民1枚がマスクを購入できる枚数や値段を指定しました。台湾国内で製造されたマスクを政府が買い取り、マスクの流通を政府の管理下に置きました。1月に市民が争ってマスクを買い求め、各地で売り切れとなり、値段のつりあげや転売が起こったという状況を踏まえての政策です。

 

また、マスクは健康保険カードを使い、指定薬局で販売する仕組みとしました。混雑を分散させるため個人番号が奇数の人は月水金に、偶数の人は火木土に薬局を訪れるよう定め、一度購入すると1週間は再度買えないという運用になっています。

 マスクマップ

それでも1つの日に購入者が集まってしまうと、その日の在庫が切れてしまい、薬局まで実際に足を運んでも、マスクを入手できないということがありえます。

 

そこでITを活用したマスクマップの取り組みが行われました。台湾のIT担当の閣僚で、天才的なプログラマーとして知られる唐鳳(オードリー・タン)氏が、政府側が保有するリアルタイムの各薬局のマスクの在庫データを公開し、民間の有志が地図データとリンクさせて、市民が閲覧できる仕組みを開発しました。
このマスクマップ(←リンクあり)(注:使用するブラウザによっては地図上の情報が表示されない場合があります。)により、在庫のある近くの薬局を検索でき、無駄足を踏まずに、マスク入手ができるようになりました。

ITの活用②―ダイヤモンド・プリンセス号乗客の立ち寄り先マップ―

JAMAの記事では、台湾の施策の課題を残した事例の1つとして、ダイヤモンド・プリンセス号が1月31日に台湾に寄港した際に、乗客の下船を認めたことが挙げられています。

 

ダイヤモンド・プリンセス号は1月20日に横浜を出港し、25日に香港に立ち寄りました。香港で下船した80歳の男性乗客から新型コロナウイルスによる肺炎が確認されたと2月1日深夜、香港政府が発表しました。
130日には香港からの飛行機での渡航歴に対してアラートを鳴らす体制にしていたことと比較すると、香港に立ち寄った後に台湾に立ち寄った船の乗客については台湾での朝から夕方までの観光を許可していたことになりますので、JAMAの記事での指摘につながったと思います。

 

その後、クルーズ船での多数感染が判明したことを受けて、台湾政府は2月7日に、ダイヤモンド・プリンセス号乗客が台湾に下船した際に、訪れた50か所ほどの場所を公表し、マップ(←リンクあり)に示しました。1月31日にこれらの場所を訪れ、乗客と接触したかもしれない人たちに対して、14日間の症状の確認と(必要があれば)自宅待機を求めました。

 

JAMAの記事で新しいテクノロジーの活用例として明確に取り上げられているのは、検疫の電子システムの箇所です。QRコードからの健康申告入力(検疫電子システム)、自宅隔離状況のスマホ位置情報での管理等について記した箇所です。
カフェストの今回の記事では、これらに加えて、(ネット記事も参照して)マスクマップ、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客立ち寄り先マップもテクノロジー(IT)を活用した事例として分類して、紹介させていただきました。

注:JAMAの記事ではマスクは資源の配分の話題のなかで取り上げられ、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の訪問場所の公表は起こってしまった課題に対する対応として取り上げられています。

注:上述のマップのサイトから画像を複写し、入手しました。

これらの迅速な対応の背景にあるSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験

今回の台湾の迅速な対応の背景にあるのが、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験です。中国からSARSの感染が広がり、台湾まで被害が拡大しました。ある記事によれば台湾では当時、SARSが原因で37人(関連死も含めると73人)が亡くなりました。

注:別の記事では台湾でのSARSの死者は84人となっています。

 

「1つの中国原則」という政治的理由で台湾がWHO(世界保健機構)に未加盟で、WHOから最新情報を得られなかったという事情もありました。

注:台湾は現在もWHO未加盟です。WHOは今年の122日に開いた新型コロナウィルス肺炎の対策を話し合う緊急会合で台湾を排除しました。その後、日本や米国、欧州各国などが台湾の参加を強く支持したことから、211日のWHOオンライン会合にようやく台湾も参加し、意見交換することができました。

 

JAMAの記事でも、その経験を踏まえ、「中国から発生する感染病に対して常時警戒し、迅速に対処できる準備をしてきた」、「次に発生する危機への迅速な対応を可能にする公衆衛生上の施策の仕組みを確立した」とまとめられています。

コメント

健康保険カード

健康保険カードに出入国の情報を紐づけ、病院等ですぐ確認できるようにすることや、この健康保険カードでマスク流通の管理をすることは合理的と思います。

 

台湾の健康保険カードには、ICチップが搭載され、氏名や生年月日、どこの病院で診療を受けたか、処方箋や薬物アレルギー、予防接種記録、女性の場合は妊娠や出産に関する記録も収められているそうです。
これも便利なことと思います。

 

自分を振り返ると、病院に行く頻度があまり高くないこともあるだろうと思いますが、お薬手帳が必要なときに手元になく何冊も発行してもらっているなど、管理が十分に出来ていないと思います。薬の情報が健康保険証に統合されるならば、私はありがたいし、助かると感じると思います。

マイナンバーカードと介護保険証を一本化する動き

日本でも行政のデジタル化を進める動きが見られます。
2023年度からマイナンバーカードと介護保険証を一本化すると言われており、先行して医療の健康保険証を20213⽉からマイナンバーカードで代⽤できるようにする予定です。医療、介護の保険証との一本化を通して、利用者の利便性向上や行政手続きの簡素化が目指されています。

参考:マイナンバーカード、介護・健康保険証と一本化へ|日本経済新聞 2020.01.12付

 

マイナンバーカードを持っておりますが、現時点で便利と感じるのは、役所に行かなくとも住民票がコンビニで取得できることくらいでしょうか。

 

薬の情報など健康管理での活用のほか、台湾の事例を踏まえれば、今後は感染症対策など社会の危機管理での活用という視点での検討も意義があるのではないでしょうか。

マスク

現状、都内に住む私の近隣の薬局は、毎日のようにマスクなどを買い求めて開店前に行列ができています。

 

コンビニや薬局などでもマスク、ハンドソープ、ウェットティッシュ、トイレットペーパーが売り切れになっていたり、販売していても「1家族1点まで」など掲示があったりします。消費者の行動を統制しなければ、ものが行き渡らない状況ということと思います。

 

日本政府が布マスクを全世帯に配布(郵送)すると報道がありました。確かに郵便を使えば、全世帯に届くと思います。台湾のICチップが搭載した健康保険カードでの流通管理という方法も選択肢の1つになると思います

監視と公益

スマホの位置情報で自宅待機を守っているかどうかを確認するなどの台湾の徹底したやり方に対して、人権やプライバシーの視点から怖さを感じたという記事も見ました。

 

今まさに日本でも緊急事態宣言が出されて、それによる私権の制限など、個人の権利と公益の適正なバランスのあり方が議論されている状況です。
このような議論を通して、新しいルールや仕組みが確立されていくと思います。社会が大きく変わるのではないかと感じています。しっかり適応していきたいと思います。

 

(文:星野 周也)

<認知症Cafést内関連記事>

新型コロナウィルス感染症の対応について―高齢者施設の感染管理―

<参考>(本文で示したもの以外)

1. 新型コロナ、台湾で感染者が少ない理由(著者は小路 浩史氏)Medical Tribune2020.03.13付(会員限定)

2. 「日本とは大違い」台湾の新型コロナ対応が爆速である理由(著者は藤 重太氏)President Online 2020.02.29付(会員限定)

3. 呼吸器の病気 > 感染性呼吸器疾患 > かぜ症候群 | 一般社団法人日本呼吸器学会

4. 新型コロナウィルスの感染拡大防止、注目される台湾の取り組みとは(著者は西岡 省二氏)|YAHOO!JAPAN ニュース 2020.3.12付

5. 健康保険カードに全ての海外渡航歴注記へ|Taiwan Today 2020.02.24付

6. 台湾の新型コロナ対策、米医療雑誌『JAMA』で紹介される|台北駐日経済文化代表処 2020.03.05

7. 台湾の新型コロナ対策が「善戦」しているワケ(著者は早川 友久氏)|WEDGE Infinity 2020.02.28付 

8. 3レベルの感染状況指揮センター設置で新型肺炎対策を強化TaiwanToday 2020.01.21

9. WHO「感染予防にマスクは不要」は本当か 専門家に聞いた(著者は牧野 宏美氏)| 毎日新聞2020.03.06

10. 新型コロナ“神対応”連発で支持率爆上げの台湾 IQ18038歳天才大臣の対策に世界が注目(著者は西岡 千史氏)AERA dot 2020.02.29

11. 大混乱を回避、台湾の知られざる「マスク事情」 政府が買い上げ、「マスクマップ」で在庫確認(著者は高橋 正成氏)|東洋経済online 2020.03.07

12. 〔のぞき見〕マスク販売状況を地図上で共有|NNA ASIAアジア経済ニュース 2020.02.04付(有料会員限定)

13. こんなに違う台湾コロナ対策  IT駆使、マスクも買える(著者は西本 秀氏)|朝日新聞デジタル2020.03.06付(有料会員限定)

14. 豪華客船ダイヤモンド・プリンセスとは? 16日間の「東南アジア大航海」で新型コロナウイルスに集団感染(著者は安藤 健二氏)|ハフポスト日本版2020.02.05

15. 〔新型コロナウィルス〕ダイヤモンドプリンセス乗客の台湾内立ち寄り先情報|香港ねこと台北暮らし(ライターネーム「mimi」さんのブログ)2020.02.22

16. 香港の80歳が新型肺炎 クルーズ船で横浜から帰国(著者は益満 雄一郎氏)|朝日新聞デジタル 2020.02.02付

17. 新型コロナウイルスで日台関係はどうなる? 対応の違いが生み出す亀裂とは(著者は田中 美帆氏)|Yahoo!JAPAN ニュース 2020.02.26付

18. ウィルスは国籍も人も選ばない 台湾が空白のWHOは不完全(著者は謝長廷氏)|毎日新聞2020.03.05付

19. 「マイナンバーカードでマスク購入を管理できる」ってホント? ICチップの活用可能性(税理士ドットコムによる配信, 著者は国分 瑠衣子氏)|Yahoo!Japan ニュース 2020.03.14付

 

 

 

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