感染管理専門家の坂本史衣さんから学ぶ―院内感染を防ぐ闘い―

2020/06/30
  • Twitter
  • Facebook
  • LINE

 

本日で6月が終わりますね。
断続的に強い雨が降る日でした。

『情熱大陸』の無料見逃し配信

以前の記事(リンクあり)で紹介した、
以下2つの『情熱大陸』(TBS系列のドキュメンタリー番組)の無料見逃し配信も本日(6月30日 23:59)までになっています。

 

4月12日の放送:ウィルス学者の河岡義裕さん

4月19日の放送:感染管理専門家の坂本史衣さん

注:リンク先は情熱大陸のサイトでのプロフィールが確認できるページです。

 

無料見逃し配信中の動画のサイトはこちらです。

mbs動画イズムのサイト

感染管理専門家としての坂本史衣さんの言葉に注目

今回は、『情熱大陸』の25分の動画内での、坂本史衣さんのポイントが凝縮された言葉を幾つかピックアップしたいと思います。

坂本さんの感染管理専門家としてのキャリア

まず、その前に、坂本さんの感染管理専門家としてのキャリアを確認してみましょう。

 

・看護大学を卒業後、聖路加国際病院で看護師を始めたが、臨床現場が肌に合わず退職。客観的に物事を見る性格が、患者に寄り添う現場に合わなかった

・アメリカに留学し、公衆衛生大学院で感染管理を学ぶ

・そこで知己を得た感染症医療の専門家の推薦で、一度辞めた聖路加国際病院に戻り、院内の感染対策に20年近く取り組む

・2003年、国際的な感染予防と管理の認定資格―感染管理および疫学認定機構Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)―を取得し、以降5年毎に更新

 

yahooでの連載記事も参考に

今、坂本さんはyahooニュースにても連載をされていますので、そちらも参考にしたく思います。

 

・yahoo記事1:結局のところ、新型コロナウィルス感染症は空気感染するのか?(3月18日付)

・yahoo記事2:新型コロナもう飽きた、でも感染は心配…今何をすればいいの?(3月24日付)

・yahoo記事3:新型コロナ医療の現場から 命の選択を避けるために今できることを(4月12日付)

・yahoo記事4:新型コロナウィルス感染症の院内感染はなぜ起こるのか(4月27日付)

・yahoo記事5:新型コロナ予防【マスク・フェイスシールド・手袋】どう使う?(67日付)

・yahoo記事6:経済活動再開に向けた感染対策とは「接触が避けられない仕事の現場」でやれること【#コロナとどう暮らす】(6月20日付) 

・yahoo記事7:新型コロナ:職場内クラスターをどう防ぐ?【#コロナとどう暮らす】(625日付)

動画語録

さて、幾つかポイントと思う坂本さんの言葉をピックアップしていきます。

注:しかし、決してすべてを網羅できているわけではありませんので、関心を持たれましたら、yahoo記事を見てみてください。動画は2020年7月1日時点で、既に上記のサイトから削除されていました。

語録1
:それだけこのウィルスって気付かれないままにひっそりと病院の中に入りこむのが上手

yahoo記事4にて、坂本さんは、新型コロナウィルスをステルス戦闘機のようだと言われています。

 

どのような病原体であれ、院内感染を防ぐには、感染性のある患者さんや職員を早期にみつけて隔離する「先手必勝」のアプローチが重要です。ところが、新型コロナウイルスは早期発見が難しく、ステルス戦闘機のように医療施設に入り込むという特徴があります。

 

新型コロナウィルスは、感染した患者さんまたは医療従事者とともに医療施設に入ってきます。感染者なら発熱しているだろうから、サーモグラフィーカメラや体温測定で発見できそうだと思われるかもしれませんが、発症初期には発熱がみられないことがあります。咳が出ない人もいます。そもそも新型コロナウイルスに感染していても無症状の人が一定数います。

 

実際に、無症状の感染者から院内感染が広がったという日本での報告(後注1)や、医療従事者のうち3%が無症状で感染していたというイギリスからの報告(後注2)があります。
「ひっそりと病院の中に入りこむ」という坂本さんの言い方はとてもしっくりきます。

語録2
:紙の上に(ウィルスが)いることが問題じゃなくてそこに触って顔を触って入ってくる

新型コロナウィルス感染症の主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。(出典:yahoo記事6 
語録2は接触感染について言っています。
接触感染は、ウィルスが付着した環境に触れた手で目や鼻、口に触れ、粘膜の細胞から感染する経路です(出典:yahoo記事2

 

接触感染を防ぐために個人が行うべきは手指衛生です。
手指衛生のポイントは、適切なタイミングと方法で手指衛生を行う仕事中になるべく眼・鼻・口に触れない習慣を身につけるの2点です。(出典:yahoo記事7

 

また、坂本さんによれば、一日に1回程度、高頻度接触環境表面(high touch surfaces, HTS)を消毒することも推奨とのことです。

 

HTSとは人が手で頻繁に触れる環境やモノの表面を指します。代表的なHTSには、机、椅子、カウンター、ドアノブ、電気のスイッチ、キーボード、マウス、水道のハンドル、電話などがあります。消毒には、界面活性剤を含む家庭用洗剤、アルコール(濃度60%以上)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度0.02%~0.05)などを使用します。次亜塩素酸ナトリウム溶液は金属に繰り返し使用すると錆が生じることがあります。

出典:yahoo記事6

 

語録2は受付スタッフから、保健所の指示で来訪した、レッドゾーンの人(感染させる危険のある人)の受付対応について相談があった際の坂本さんの回答です。受付の人は「問診票をビニールに入れている」など言われていました。

 

感染させるおそれのある人が持っていた問診票を触ることがただちに問題なのではないと言ってくれることは心強いと思います。
問診票にウィルスが付着していたとして、問診票に触ることで手にウィルスがつき、さらに、その手で顔などに触れることで、ウィルスが体内に入り込んでくるという感染経路を理解できるならば、手指衛生の徹底、手を目・鼻・口に触れないようにするという対策が、頭の中でも導けることでしょう。

語録3
:怖い病気なんですよね

3月25日夜の東京都の小池百合子都知事の記者会見に同席した、国立国際医療研究センターの大曲貴夫医師が、新型コロナ感染で重症化していく場合、数時間で急激に症状が悪化するので怖いと言われていたことは衝撃でした。

 

本当に1日以内で、数時間で、それまで話せていたのにどんどん酸素が足りなくなって、酸素をあげてもダメになって、で、人工呼吸器もつけないとこれは助けられないという状況に数時間でなる。

それでも間に合わなくて、人工心肺をつけないと間に合わないっていうことが目の前で一気に起こるわけですよね。ものすごい怖いです。

出典:「本当に数時間で人工呼吸器をつけないと助けられなくなる」最前線のトップが語る新型コロナの怖さ(著者は伊吹早織氏)|BuzzFeedNews 2020326日付

 

 

坂本さんも動画の中で「怖い病気」(語録3)と言い、yahoo記事3にて、次のように語られています。

一般病棟に入院し、鼻カニューラで低流量の酸素投与を行っている患者さんのなかには、短時間のうちに高流量の酸素が必要となり、やがて集中治療室(ICU)で気管挿管されて、人工呼吸器管理となる方がいます。

 

そして、坂本さんは、短時間のうちに、集中治療室での治療が必要になる場合があることを見据えて、あらかじめICUのベッドを空けておく必要があると言われています。(出典:yahoo記事3

語録4
:常にその(院内感染の)リスクとは背中合わせで、うちでもいつ起きてもおかしくないです

坂本さんは、4月12日付のyahoo記事3で、マスクやガウンなどの防護具が相変わらず手に入りにくい状況と言われています。

 

プラスチックガウンも不足する見込みです。すでに入荷できていない病院もあります。顔を覆うシールドも同じような状況です。そのため、ガウンの代わりに大きなゴミ袋をかぶり、シールドの代わりにクリアファイルで顔を覆うなど、さまざまな代用品を使った試みが行われています。決して安全な状況とは言えず、院内感染のリスクと隣り合わせです。

 

一方、防護具の適切な使用の有効性についても、語られており、耳に留めるべき点と思います。(出典:yahoo記事4

 

新型コロナウィルス感染症は、必要な防護具を適切に使うことができた場合、そう簡単に院内感染を起こすような感染症ではありません。それはこの感染症の患者さんをこれまで100名以上受け入れてきた病院の感染管理担当者や感染症専門医が感じているところです。

 

 

中国での研究結果ですが、新型コロナウィルス感染症が流行していた武漢市の病院に、別の市の病院から派遣された医療従事者において、防護具の適切な使用により、誰一人として感染をせずに済んだという報告(後注3)もあります。
きちんとした備えが感染予防につながると示唆が得られます。

終わりに―東京は3月下旬に医療現場は逼迫していた―

3月下旬に、東京の医療現場は、病床が1床空くと直ちに病床が埋まり、さらに、待機者がたくさんいる状態であったとのことです。後注4)(後注5

 

「医療崩壊も近かったのか」と脳裏をよぎります。

 

この動画の撮影日は、3月30日、4月7日(動画内で確認できた日にちに限る)です。患者数の増加に病床や受け入れ態勢が間に合うか、合わないかというピークのなかでの取材対応ではなかったかと思われます。

 

聖路加国際病院は、国の感染症指定医療機関として2月から感染患者を受け入れており、重症者を治療する集中治療室の感染管理に取り組む姿も動画内では描かれていました。
また、坂本さんは「コロナ対応しているのを知られたくない」、「家族にも黙っている」という看護師の率直な思いを代弁して伝えてくれていました。

 

見る側、そして、それを伝える側として、感染のリスクと背中合わせの現場の尋常ではない緊迫感を真摯に受け止め、しっかりと伝えていかねばならないと思いました。

 

(文:星野 周也)

 

 

 

 

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE