『情熱大陸』でのウィルス学者の河岡義裕さんのお話―新型コロナウィルスを解明するためのアプローチ―
2020/05/02
こんにちは。
認知症Cafést編集スタッフのSです。
『情熱大陸』から
TBS系列で日曜の23時から放送されるドキュメンタリー番組『情熱大陸』で、新型コロナウィルス感染拡大防止を目指す今の社会状況でのタイムリーな企画の放送が2週続きました。
注:リンク先は情熱大陸のサイトでのプロフィールが確認できるページです。
6月末まで無料見逃し配信中となっています。
こちらのサイトです。
注:画面下にある「エピソード」の項目で、4月12日放送分、4月19日放送分が確認できます。
関心を持たれた方は、ぜひ動画をご覧になっていただければと思いますが、私もこちらでメモを記したいと思います。
本日は、ウィルス学者で、現在、政府の新型コロナウィルス感染症対策専門家会議のメンバーを務めておられる河岡義浩(かわおかよしひろ)さんのお話からのメモです。
河岡義裕さんの実績と現在(主に放送で語られていたことに基づく)
実績、受賞歴(表彰歴)
・インフルエンザウィルスの人工合成に成功
(インフルエンザワクチンなどの開発にこの技術が使われている)
・2006年にロベルト・コッホ賞受賞、2011年に紫綬褒章を授与
現在
・新型コロナウィルスのメカニズムを解明する研究に従事
・電子顕微鏡により新型コロナウィルスの分析をしている
(東京大学医科学研究所にて)
河岡義裕さんのお話から(ナレーターの解説も含めて)
動画内で確認できる取材(撮影)期間の情報
ウィルスと感染症の基礎
・ウィルスは生きた細胞に入り込むことでしか増殖できない。そこで増えたウィルスはやがて細胞を破壊し、また新たな細胞にとりついて、同じことを繰り返す。
・感染症は、病原体に触れなければ感染しない。そういう意味ではすごく簡単。
新型コロナウィルスを解明するためのアプローチ
・ウィルスそのものは他のコロナウィルスとそんなに変わらない。ただ、どういう動物に感染するか、どういう細胞に感染するのかという基本的なことが分かっていない。(注:いわゆる風邪の原因となる4種類のコロナウィルスが知られている。)
・感染する動物が分かればこのウィルスのデータが取れる。
・実験室では感染させたマウスやハムスターの臓器を調べる。どの臓器で、どの程度ウィルスが増殖するかまで丹念に観察する。
・同じウィルスを投与されても、動物によっては発症しないものもいる。ウィルスの増え方が人間の場合と近ければ、研究に適した動物ということになる。
薬やワクチンの開発
・研究に適した動物が決まれば、薬やワクチンの開発の足がかりになる。ただし、ワクチンはすぐには出来ない。
・薬はおそらくすでに人に使われている薬の中でこのウィルスに対して有効な薬、ベストなものではなくても、今の状況をしのげるような薬が見つかってくると予想される。それが見つかれば少し安心できる。
感染症と医学の関係に関する印象的な発言(生の発言のかたちで記します)
歴史は繰り返すじゃないですけど、あんまり変わらないんですよね。パンデミックにしろ流行にしろ、パターンは決まっているので。それは…100年前のスペイン風邪のときもそうだし。
情けないのは100年経ってもやってることは「人に近づかない」それか、みたいな。医学が100年もがんばって 。
視聴者に向けての番組最後でのメッセージ(生の発言のかたちで記します)
希望はあります。これはわれわれみんなが行動を自粛すれば必ず流行は収まります。
コメント
コロナはギリシア語で王冠を意味する―ミクロの世界の挑戦―
電子顕微鏡で観察されるコロナウイルスは表面には突起が見られ、カタチが王冠(英語では“crown”)に似ていることから、ギリシャ語で王冠を意味する“corona”という名前が付けられたそうです。
球のカタチをしていて、直径は約100ナノメートル(注:1ナノメートルは10億分の1メートル)とのことですから、ウィルスを解明することはミクロの世界での挑戦です。
このようなミクロの世界の話は、当サイト(認知症Cafést)の関心に立ち戻れば、脳の神経細胞の働きの解明とそれを踏まえた認知症薬の開発の挑戦に近しいものと思います。(参考:「グリア細胞とは何か?―認知症薬と認知症対応の最新動向―」)
「100年経ってもやってることは『人に近づかない』」
電子顕微鏡でしか見ることができないミクロの世界の解明に取り組みながら、世の中の人々には「人に近づかない」ようにしてください、行動自粛をしてくださいと伝えなくてはならないことの河岡先生の葛藤のようなものが映像では描かれていて、私にはこの番組での最大の見せ場と思いました。
現在のウィルスの世界的な感染拡大の状況を先取りしたかのような映画が、2011年に公開されています。スティーブン・ソダーバーグ監督作品の『コンティジョン』です。
Newsweek日本版での、この映画の脚本家スコット・Z・バーンズへのインタビュー記事「気味が悪いくらいそっくり……新型コロナを予言したウイルス映画が語ること」(4月8日付)で、脚本家バーンズは、現在の新型コロナウィルスの状況について、驚いていない。私が取材した科学者たちはそろって、こうした事態が起きるのは時間の問題だと言っていたからだ
と言っています。
そして、映画のシナリオを作成するためパンデミックについて徹底的にリサーチした結果、次のような見解に至ったそうです。
リサーチを進めるなかで学んだことの1つが、公衆衛生の本質とは何かということ。
それは私たちが互いに背負う義務だ。互いに距離を保ち、手をしっかり洗い、体調が悪くなったら家から出ない。この3つは、真っ先に実行すべき実に優れた対策だ。科学的・薬学的な治療法が見つかるまでは、人間こそが「治療法」なのだ。
互いに距離を保つなど、人間が互いに背負う義務の遂行が治療法であるという脚本家バーンズの認識と、「100年経ってもやっていることは『人に近づかない』」という河岡先生の見解は概ね共通と言えるでしょう。
ワクチンと社会的対処の併存―人間こそが「治療法」―
ワクチンの開発と社会的対処を共に行っている状況と言えます。
認知症薬、認知症対応について、以前の記事で、認知症薬と、(薬に頼らない)生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫などの非薬物的な認知症対応の適切な併用や切り替えが標準と考えられている
と申し上げました。薬物療法と非薬物的対応の併用という考え方に馴染んでおりますので、ワクチンの開発をしながらも、「人に近づかない」という人々の行動にかかっているという状況に、勝手に真理を感じたりしています。
オーバーラップさせながら、行ったり来たりさせていただいてますが、脚本家バーンズの言葉―人間こそが「治療法」―は、創意工夫をしながらの認知症ケアにも当てはまることだと思います。
当然ながら、同じ人間がすべきことでも、感染拡大予防においては人が「人に近づかない」ようにするのに対して、認知症ケアにおいては人が人に直接的に、工夫をしながら関わり、近づいていくという正反対の方向の努力になっています。しかし、感染拡大抑止と同様、認知症ケアにおいても、人間こそが「治療法」であるという点は、100年、200年と時間が経っても変わらないことかもしれません。(終)
<認知症Cafést内関連記事>(本文で示したもの以外)
アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」及び血液診断について―米国での国際学会報告から(2019年12月)―
<参考>(本文で示したもの以外)