密着!「認知症と向き合う介護現場から」第3回

2018/08/16
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初出:2018年8月16日|最終更新:2020年5月15日

 

 

セントケアホーム鵠沼(以下、ホーム鵠沼)の所長(注:初出日時点での肩書)
井藤知美さんへのインタビュー記事の第3回目(全5回)です。

 

「認知症と向き合う介護現場から」は介護現場のリアルな肉声をお届けします。

 

今回のキーワードはいいところ探しです。

 

いいところ探し

いいところ探しに関する井藤さんの言葉から紹介します。

 

「(介護の仕事を始めて)3年くらい経ったころに実践者研修に行きました。認知症ケアの手法、決定権はお客様にあるという考え方、チームケアの重要性など学びました。実践者研修での課題として自分のホームでいいところ探しに取り組みました。」
(取材者による注:実践者研修は都道府県や政令指定都市が主催する認知症高齢者の介護に関する研修。
グループホームの人員基準で、管理者や計画作成担当者の条件として、厚生労働省が定める研修の受講が挙げられています。実践者研修はその一つです。)

 

「『1日1回、お客様のことでもいいから、スタッフのことでもいいからいいところ見つけたら書いてください』と発信しました。申し送りの記入や通常の(お客様の)生活記録とかあるなかで、いいところ探しは追加の帳票(記録)でした。ですから、この発信は実験でした。」

Q.結果はどうでしたか?

 

「1か月の実践者研修の期間限定だと考えていましたが、継続したんです。そこからはとにかく、お客様、スタッフのいいところ探しをしようって。発する言葉もできるだけいい言葉にしようと伝えました。お客様のあれができない、これができないではなくて、これができないけれどあれはできるとか、あのスタッフはこれは苦手だけど、これは得意だよねとか。会話の最後はいい話で終わるようにしようよと。スタッフに伝え続けました。」

 

「それが認知症ケアにもつながりました。この人はこれができないから手助けをしようではなくて、この人はこれができるからこういうアプローチをしていこうという考え方になっていきました。」

Q.詳しく教えてください。

 

「看取りの段階に入っているお客様がいらっしゃいます。その方のトイレのお手伝いについて、夜間はご本人にとって負担だろうし、夜間だけおむつにしようかと意見があがっていました。それを受けて、先日ミーティングを行ったんですが、一番どうかなって思っていたスタッフが『だってご本人はトイレに行きたいんですよね。』と言ってくれました。移動が難しくなられていたので、結局、夜間はポータブルのトイレをベッドの脇に置いて、そこに座っていただくお手伝いになりました。それ(トイレ介助という方針)をスタッフから言ってくれたのが嬉しかったです。ああ伝わっていたんだって。」

 

「別のお客様で畑をやっていらっしゃる方がいました。いろんなお野菜を作られていて、お料理に使ってたんですけど、余ったものをスタッフにくれるんです。それで、最初はくれていたのですが、大根もかぼちゃも枝豆とかもひとまとめにして100円で売るって言いだされて。『えーお金取るの?』と言ったら、『そのお金で次の作物をつくる肥料を買うんだ』と。そしたら、そのやりとりを見ていた認知症のお客様が、『あらそれで100円なら安いわ、1個もらうわ』とおっしゃったのです。」

 

「(100円で野菜を買うと言われた認知症のお客様が)『あたしのお財布どこへ行っちゃったかしら』と言いだされました。それを見て、『また、財布がないと言い出したよ』と言うスタッフもいました。でも、私はすごく大事なことだなって、生きるためにお金は必要で、それを思い出させてくれるきっかけをそのかぼちゃはつくってくれたと思いました。お財布がないと心配するのはとっても大事な能力で、私だってお財布がなければ探すよって。あのお客様は当たり前のことを言っているだけだから否定することはないし、1個100円でかぼちゃを売るのは続けていいと思いました。」

編集スタッフのコメント

認知症の症状に関する一般的な説明では、「自分の財布がない、盗まれた」という訴えを物盗られ妄想と呼びます。しかし、井藤さんは財布がないと心配するのは大事なその方の能力で、ご本人のできることの一つと捉え返されました。これもいいところ探しの結果なのではないでしょうか。

 

次回に続きます。乞うご期待!

 

 

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