「介護作業」から「介護臨床」へ:介護施設からのレポート

ヘッダー画像。車いすを押す人と見守る人。近未来的な背景。

こんにちは。
認知症Cafést online 編集スタッフのタジマです。

実は、私は介護事業会社 本社勤務のCafést編集スタッフでありながら、最近は、実際の介護施設でも勤務しています。
そこで、プロの介護士が行う介護を間近で見るなかで、「介護の専門性」とはどのようなものなのかを考えていました。
本日は、そのような私の雑感と学びの記録についてお届けしたいと思います。
乱文で読みづらいところもあるかと思いますが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

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簡単な自己紹介

私は公認心理師であり、修士課程において心理臨床に関する教育と訓練を受けてきました。
現在は、現場のケアにとって価値あるモノを作る力をつけるために、介護事業会社の開発部門に勤務しています。
しかし、これまで実際に介護を行った経験はほぼゼロでした。

そのような中で、介護という仕事についてより深く理解するために、半年の期間限定で、社内の介護施設で実際の介護に従事する機会をいただきました。
私は現場で働くにあたって、決めていたことがあります。

それは、手順や段取りを覚えるだけの「介護作業」ではなく、「介護臨床」を実施する、プロとしての業務を学ぶということです。
すなわち、お客様(あるいはご利用者様、患者様)のQOLの維持・向上にとって効果的なケアを実施できるようになることです。

介護作業ではない介護臨床を学ぶことは、「臨床的に価値あるモノを作れるようになりたい」という私の目標にとっては必要不可欠でした。
なぜならば、何が臨床的に意味のあるアウトカムなのか、そしてどのような介入がそれを変化、または維持させうるかについての答えは、介護臨床の中にしか存在しないと確信するためです。

下記では、介護臨床における専門的な側面を、2点記述します。
なお、移動や移乗、入浴や食事等の個別的な介護の手技についても重要な専門性ですが、ここではより一般的でかつ包括的な専門性を取り上げるため、個別の手技については省略しました。

お客様の疾患や病態について学ぶこと

私が勤務する現場は、医療的ニーズが高いお客様のための施設です。
そのため、個別のお客様の傷病についてよく理解したうえで、介護にあたることが重要になります。

たとえば、血液透析を行っているお客様や糖尿病を患っておられるお客様には、食事や水分の管理が必要になります。
パーキンソン病を有するお客様には独特の歩行介助が、足に血栓や浮腫があるお客様には患部を特に丁寧に扱うことや、定期的な足の運動が求められます。
骨折や低血糖が見られるお客様には、特に転倒に注意する必要があります。
私は、身体疾患や解剖的知識には全く明るくなく、やはり一から勉強する必要がありました。

もちろん、医療処置は医師や看護師の領分です。
しかし、疾患や病態に関する知識があることで、上記のように介護職もお客様のQOLに配慮した柔軟な行動が取れるうえに、医療従事者との連携もスムーズになります。

ただし、もちろん疾患によってできなくなったことだけでなく、お客様のできることや、潜在的な強みを見つけることも忘れてはいけません(自戒をこめて)。

お客様に対する態度について学ぶこと

知識のほかに、態度に関する専門性もあります。
お客様に接する際の声のかけ方や、身のこなし方ひとつとっても、深い経験を積まれた介護士と、私のような経験の浅い者とでは雲泥の差があります。

では具体的には、介護臨床のプロとしての態度とはどのようなものなのでしょうか。
援助者の基本的態度について明瞭に記述している、ナイチンゲールの書籍(注1)から、個人的に納得のいった内容を引用したいと思います(注2)。

新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること、また食事内容を適切に選択し適切に与えること―こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること


上記の事項は、お客様のストレスを軽減するだけでなく、疾患を悪化させる原因を除去することでもあるとナイチンゲールは述べています。
たとえば、適切に換気がなされていない空気や、湿気深い部屋は、細菌の繁殖を増加させ、容易にお客様が疾病に罹患することにつながるといいます。

患者を自分について思い煩うことから解放するために存在すべきである (略)
生命を守り健康と安楽とを増進させるためにこそ、観察するのである


上記のためには「何がどう患者を動かすかについての綿密な観察」が必要であるといいます。
たとえば、お客様が食事をとることができない原因は、食品や食事形態のためなのか、食欲のためなのか、食事時間のためなのかといったことを理解することで、適切な食事提供が可能になります。

この本を読んでいると、家で不要な物音を立ててしまったり、お客様の変化を見落としていたりと、介護の基本がまだまだ足りていない自分に気づきます。
そして、さらに配慮の行き届いたケアを行わないといけないと実感させられます。

まとめ

今回は、介護臨床の構成要素のほんの一部として上記を取り上げました。
手順や段取りを抑えて「介護作業」をするだけでも、ある程度現場は回ります。
しかし、多くの介護スタッフは専門職業人としての「介護臨床」を行っているように思われます。

介護現場の課題というと、世間ではとかく「体がつらい」「大変だ」ということばかりが取りざたされます。
しかしながら、介護は世間のイメージするものよりも、はるかに繊細で、またはるかに多彩な要素を含んでいます。
本社から現場へのサポートにあたっては、そのような介護臨床の質の向上、ひいてはお客様のQOLの向上に寄与することを意識したいと思う昨今です。

脚注

注1) フロレンス・ナイチンゲール(1859) 湯槇 ます・薄井 坦子・小玉 香津子・田村 眞・小南 吉彦訳(2021) 看護覚え書 (改訳第7版) 現代社

注2) 本書は看護師としての態度について記述したものですが、内容の大部分は介護行為についてのものであり、また著作当時の社会情勢においては、「他人の健康の世話をする者は誰もが看護師(nurse)と呼ばれて」いたため、現在の介護士に対しても適用可能な内容であると考えました。

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