先日(1月29日)、東京の板橋で開催された、第157回老年学・老年医学公開講座を聴講してきました。
テーマは「腎臓を守って、認知症を予防!めざせ、健康長寿!」でした。
今回はこの講座から、「心房細動と認知症」について勉強してきたことを報告します。
心房細動とは?
心房細動とは何かについて、主にこちらのサイトの説明に従って、まず説明します。
参考サイト:心房細動といわれたら – その原因と最新の治療法 – |知っておきたい循環器病あれこれ
公益財団法人 循環器病研究振興財団よりこの記事の利用の許諾を得ました。
心房細動の簡単な説明
心房細動とは不整脈の1つで、心臓の中の心房という部分が小刻みに動き、けいれんするような病状を指します。
心房とは?
心臓は4つの部屋に分かれ、上の方の二つの部屋を心房、下の二つの部屋を心室といいます。4つの部屋は外側が筋肉でできています。
筋肉が収縮すると心臓の中にある血液が心臓の外に出ていくようになっており、心臓は血液を送りだすポンプと言えます。
注:画像はistockから
心臓の血液の流れ
心臓の血液は心房から心室を通って全身へ出てきます。
「心房→心室→全身」というシンプルな図式を思い描けばよいと思います。
心房と心室の筋肉が動くのは、心臓に弱い電気が流れるからです。
心房は心室の手前にすぎません。それゆえ、仮に心房にけいれんが起き、心房の動きが止まったとしても、心室さえしっかり動いておれば大きな問題はないということです。
心房細動と認知症
(注:ここからが、板橋で聴講してきた講演の内容を踏まえたものです。当日の講演内容に関する講演集も参考にしています。)
ある研究では、心房細動があると、ない場合に比べて血管性認知症やアルツハイマー型認知症などあらゆる種類の認知症が増える(統計的に有意差あり)という結果が得られています。
心房細動が認知症の原因になっていることが示唆される結果です。
心房細動と脳梗塞
心房細動が認知症の原因であるという関係性の背後にあると考えられるのが、心房細動と脳梗塞の関係です。
心房細動では、心房内で血液が停滞し、血栓(血のかたまり)が生じやすく、その血栓が脳の血管へと流れ着いて、脳の血管が詰まる脳梗塞(「心原性脳塞栓症」)のリスクが高くなっています。
このタイプの脳梗塞では大きな血管が詰まり、重症となるケースが多いと言われています。
さらに、心房細動では、脳内の小さな血管が詰まる無症候性脳梗塞も起こりやすくなっています。東京都健康長寿医療センターの病理解剖データでは、心房細動のある80歳ぐらいの人では2/3の人がそれにかかっていることが明らかになっています。心房細動により心拍が乱れ、血圧が変動し、脳の血流が悪くなることが原因と考えられます。
つまり、心房細動では、心臓で出来た血栓が脳内の大きな血管を詰まらせる脳梗塞のみならず、脳内の微小な血管が詰まる脳梗塞も起こりやすくなっているということが分かります。
心房細動の治療と認知症
抗血栓療法
さきほど、心臓(心房)内で出来た血栓(血のかたまり)が、脳内の血管を詰まらせる脳梗塞(「心原性脳塞栓症」)について話をしました。
これを踏まえ、心房細動では、血栓をできにくくする薬を飲む「抗血栓療法」が行われています。
現在、4種類の飲み薬が使用可能になっています。
プラザキサ(ダビガラトン)、イグザレルト(リバーロサキバン)、エリキュース(アピキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)の4種類です。(注:製品名のあとに括弧をつけて一般名を記しています。一例を示すと、プラザキサが製品名、ダビガラトンが一般名です。)
これらは2011年以降に使用が可能となった新しい薬です。
従来はワルファリンという飲み薬が使用されていました。これも血栓をできにくくする狙いを持ったものです。その反面、ワルファリンも、新しい薬も、出血(歯ぐきの出血、血痰、鼻血、皮下出血、血尿、血便)しやすくなるなどの副作用があります。
新しい抗血栓療法の認知症予防効果
新しい飲み薬を使用した心房細動の患者と、従来の飲み薬であるワルファリンを使用した心房細動の患者の認知症の発症を比較した研究があり、その研究では、新しい飲み薬を使用していた患者での認知症の発症率は、ワルファリンを服用していた患者の約半分(統計的に有意差あり)でした。
アブレーション治療
心房細動の原因は、心臓内での異常な電気信号の発生です。
アブレーション治療とは、治療用のカテーテルを太ももの付け根から血管を通じて心臓に挿入し、カテーテル先端から高周波電流を流して、異常な電気信号を発生する部位の周囲を焼くことです。これにより、異常な電気信号を発生している部位が隔離され、心臓全体に電気信号が伝わらなくなります。
アブレーション治療の認知症予防効果
アブレーション治療が認知症を予防できるかについてはまだ明らかではないそうです。(注:「明らかではない」とは、編集スタッフの見解になりますが、先ほど、抗血栓療法と認知症の関係について例示したようなデータが得られていないということではないかと思います。)
一方、アブレーション治療を行うことで腎機能の低下が予防できたという研究結果(エビデンス)はあります。
カフェスト編集スタッフによるコメント
心房細動ー父と益子直美さん―
心房細動というテーマは実は関心があります。
父(80歳前後)が心房細動なのです。それで、血栓をできにくくする新しい薬の1つの「プラザキサ」を飲んでいます。
それゆえ、アブレーション治療も関心がありました。
元バレーボール日本代表の益子直美さんが心房細動になり、この治療を受けたと、以前、ネット検索(→参考:〔元バレーボール日本代表 益子直美さん】心房細動(3)ストレスの影響大|ヨミドクター 2019年8月31日)にて知りました。
アブレーション治療の適用の条件
益子さんと比べれば高齢ではあるが、アブレーション治療を父も受けた方が良いのではないかと思い、講座の会場に入る際に渡される質問用紙に、「アブレーションの適用の条件」に関して記入し、休憩の時間に回収箱に提出しました。そうしましたら、休憩時間が終わった後に、なんとこの私の質問が講座の中で取り上げられ、回答が得られました。(注:講義中に挙手して質問をするというスタイルではありませんでした。)
東京都健康長寿医療センターの原田和昌さんが回答をされました。
・80歳前後と高齢でも、心臓の画像診断を行い、安全な場所であればアブレーション治療を最近は行っている。ただし、みんなが出来るかというとそうではない。
・脈が速い、心不全の症状が強いなどの場合に行うのが原則で、症状が出ていない高齢の人にはやっていない。このように、利益と不利益を見比べて判断する。
対話型の質疑応答ではありませんでしたから、この回答に対するさらなる掘り下げはできなかったですが、この説明(や追加での情報収集)を踏まえれば、父の場合、動機や息切れなどの症状が出ていてないと傍(読み:はた)からは見えますので、アブレーションで異常な電気信号の回路を絶ち、心房細動を消失させてしまうことまではしなくてよいという判断になるのではないかと思います。
そうであるならば、心房細動の根治を目指すのではなく、心房細動と適切に付き合いながら生きていく方法を考えるべきという方針になるだろうと思います。
いくらかスッキリしました。
(文:星野 周也)