新型コロナの流行がもたらしたクリーンな空―大気汚染と認知症の関係―

 

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)によりお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げます。
また、罹患された皆様および関係者の皆様には心よりお見舞い申し上げます。

 

今週26日、新型コロナウィルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が全面解除されました。
状況が落ち着いているうちに、次なる流行に対する備えを進めておきたいですね。
医療や介護の体制をより強固なものにする社会的な取り組みも期待しています。

コロナがもたらした災い(わざわい)

さて、4月21日のcaféstの記事「『コロナ時代の僕ら』あとがきに続いてー欧州の介護現場からも忘れたくないこと―」では、
イタリアのパオロ・ジョルダーノ(小説家、物理学博士)の問題提起―すべてが終わった時、以前とまったく同じ世界を実現したいのか―を紹介しました。

 

そこには、コロナがもたらした災い、そのなかで白日のもとに晒された自分自身の至らなさや社会の問題点を忘れてはならないというメッセージがありました。
当然、そういう自分自身や社会を変革すべきという示唆も読み込むべきでしょう。

コロナがもたらした幸い(さいわい)

一方、災いとばかり言えない状況も、コロナはもたらしてくれているのではないかと感じています。

 

例えば、次の朝日新聞の記事のタイトルには、コロナがもたらした幸いとも捉えられうる側面が端的に示されていると思います。

 

人が出ないと、現れた 街に動物・澄んだ水・青い空、…コロナ余波

注:有料会員限定で、2020年4月19日付。著者は飯島健太、香取啓介、高田正幸の3氏。

水や空気がきれいになった

この記事の中で、特に「水や空気がきれいになった」という報告に注目しました。

 

「水の都」として知られる世界遺産イタリア・ベネチアの歴史地区。新型コロナウイルスで観光客が激減した結果、住民が驚く変化が表れた。濁っていた運河が透き通り、水の底が見えるようになったのだ。

 

中国でも、新型コロナウイルスが流行した期間に大気や水質の改善がみられた。普段は空が白くかすむことが多い北京でも1月下旬以降は青空が広がる日が続いた。同国の生態環境省が全国337地点を分析したところ、今年1~3月のPM2.5(微小粒子状物質)の空気中の濃度は昨年同期と比べて22%減った。

 

北京で青空が広がる日が続いたという状況と同様に、インドでも大気汚染の大幅な改善により、数十年ぶりにインド北部からヒマラヤ眺望が可能になったそうです。
また、中国で大気に⾶来する汚染物質が減った結果、日本に越境する汚染物質が減り、九州上空の大気汚染の劇的な改善がもたされたという報告が出ています。

温室効果ガスの排出も削減された

さらに、大気汚染物質のみならず、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出が削減されているという点も注目すべき事態です。

 

独シンクタンク「アゴラ・エネルギーベンデ」は3⽉下旬、2020年のドイツの温室効果ガス排出量は少なくとも5000万トン、場合によっては12000万トン減るとの予測を発表した。ドイツは20年に温室効果ガス排出量を1990年⽐で40%削減する⽬標を掲げてきた。この⽬標は数カ⽉前まで実現不可能とみられていたが、「コロナ危機」によって達成が⾒込まれるという⽪⾁な状況を⽣み出した。

出典:欧州ニュースアラカルト パンデミックは気候危機に何をもたらすのか(著者は八田浩輔氏)|毎日新聞2020年4月9日付

 

中国でも、31⽇までの4週間で⼆酸化炭素(CO2)排出量が2億トン減少(前年同期比で25%減)し、国内の発電所の⽯炭消費量が3割減ったと推計されています。(出典:同上

水や大気がきれいではない社会に戻してよいのか?

これらの環境改善は良い変化ではないのでしょうか?
水や大気がきれいでない社会に戻してよいのでしょうか?

 

元に戻して、元の世界とまったく同じ世界を再現してしまったならば、災い(わざわい)がまた降りかかりやすくなるばかりではなく、気づくことができた幸い(さいわい)、すなわち、きれいな水や空気という自然の恵みにお目にかかれなくなってしまうことでしょう。

大気汚染と認知症の関係

新型コロナの流行がもたらしたクリーンな空は、つかのまの僥倖かもしれませんが、私がこの点をコロナがもたらした幸いとしてクローズアップし、注意喚起したいと思うのは、認知症との関係においても大気がきれいであることは大切と認識させてくれる論文が本年3月に発表されていたためです。

 

論文はこちらになります。

Association Between Cardiovascular Disease and Long-term Exposure to Air Pollution With the Risk of Dementia”|JAMA Networkのサイトから  

注:著者はGiulia Grande, Petter L. S. Ljungman, Kristina Eneroth, Debora Rizzuto4氏で2020330日付

研究概要

・スウェーデンの首都ストックホルムのクングスホルメンの2927人の住民のデータ

・1人の住民あたり平均して6年追跡したデータ(データ収集期間は2001年~2013年)

・この2927人は追跡スタート時点では認知症がなく、スタート時点での平均年齢は74.1

・2種類の大気汚染物質、PM2.5および窒素酸化物1990年からデータ収集をしており、今回の分析での指標とした

 

補足:大気汚染物質、PM2.5および窒素酸化物について

補足①:PM2.5

PM2.5は、大気中に浮遊している直径2.5μm以下の非常に小さな粒子です。微小粒子状物質という言い方もされています。
1μm(マイクロメートルは)は1mm1000分の1です。

直径2.5μmというPM2.5が、どのくらいのサイズかと言いますと、人の髪の毛の直径が約70μmですので、その35分の1以下の大きさになります。

 

このように、粒子の大きさが非常に小さいため、肺の奥深くにまで入り込みやすく、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などのリスクを上昇させると考えられています。

 

なお、お住まいの地域のPM2.5濃度は、以下のサイトで確認できます。

大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」

補足②:窒素酸化物

窒素酸化物は高温で物が燃えるときに発生する窒素の酸化物、例えば一酸化窒素や二酸化窒素などの総称です。
大気中では、ほとんどが二酸化窒素の状態であり、二酸化窒素は、高い濃度のときに人の呼吸器(のど、気管、肺など)に悪い影響を与えると言われています。

 

お住まいの地域の一酸化窒素、二酸化窒素の濃度も、大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」で確認できます。

研究結果①-大気汚染物質の濃度(単位μg/㎥)と認知症罹患の関係―

・追跡期間中、2927名のうち364名が認知症に罹患

・2927名を認知症にかかった(表では認知症〇)364名と、認知症にかからなかった(同認知症✖)2563名にグループ分けして、居住地の過去5年の大気汚染物質(PM2.5及び窒素酸化物)の濃度の平均値を比較

 

大気汚染物質の濃度(単位μg/㎥)と認知症罹患の関係

全体
2927名
認知症〇
364名
認知症✖
2563名
PM2.5 8.4 8.5 8.3
窒素酸化物 25.9 26.9 25.8

 

2927名全体の居住地のPM2.5の濃度は8.4μg/㎥で、窒素酸化物の濃度は25.9μg/㎥でした。
1μg(マイクログラム)は1gの1000分の1です。

 

認知症を罹患した場合とそうでない場合の居住地の濃度を比較したとき、PM2.5も、窒素酸化物も、認知症を罹患している方の居住地で高いという結果でした。「8.5 VS 8.3」、「26.9 VS 25.8」と、決して顕著な差ではないかもしれませんが、統計上も有意差ありという判定になっています。

注:分析枠組みとしては、認知症が発症した場合と、そうでない場合の過去5年の濃度の比較です。認知症が発症した時点からの過去5年の濃度という定義に対して、認知症を発生していない場合の過去5年の濃度というのが厳密には分からないものの、分析上の定義がなされて計算されていると考えられます。

研究結果②―大気汚染物質の濃度が増すごとに認知症の罹患率は変わるのか?―

今回のデータをもとに、大気汚染物質の濃度が増えるごとに、認知症の罹患率がどう変わるかを統計的に算出(注:ハザード比)した結果が以下になります。

変化量(μg/㎥) 認知症の罹患率
PM2.5 0.88 ↑ 1.54倍
窒素酸化物 8.35 ↑ 1.14倍

 

居住地のPM2.5が0.88μg/㎥増えるごとに、認知症の罹患率は1.54倍になり、窒素酸化物が8.35μg/㎥増えるごとに、認知症の罹患率が1.14倍になると計算されました。

研究結果③―疾患を持っている場合に大気汚染物質による認知症の罹患率は変わるか?―

調査対象者全体の2927名のうち、調査開始時点で心不全の方が287名、虚血性心疾患の方が439名いました。
このような疾患を持っている場合の、大気汚染物質が増えることの影響を見た結果が以下の通りです。
この表で、持病Aでの罹患率は調査開始時点で心不全であった方における認知症の罹患率で、持病Bでの罹患率は調査開始時点で虚血性心疾患であった方における認知症の罹患率です。

対象者
全体での
罹患率
2927名
持病A
での
罹患率
287名
持病B
での
罹患率
439名
PM2.5 1.54倍 1.93倍 1.67倍
窒素酸化物 1.14倍 1.43倍 1.36倍

 

前述のとおり、居住地のPM2.5が0.88μg/㎥増えるごとに、認知症の罹患率は1.54倍と計算されましたが、調査開始時点で心不全であった場合には1.93倍、虚血性心疾患であった場合は1.67倍になり、大気汚染物質が増えることによる認知症の罹患率は高まります。

 

同じく、居住地の窒素酸化物が8.35μg/㎥増えるごとに、認知症の罹患率は1.14倍と計算されましたが、調査開始時点で心不全であった場合には1.43倍、虚血性心疾患であった場合は1.36倍になり、大気汚染物質が増えることによる認知症の罹患率は高まっています。

コメント

心不全や虚血性心疾患をお持ちの場合に大気汚染物質による認知症の罹患率が高まるという結果について

大気汚染物質の濃度が増えることで、認知症の罹患率が高まるという結果は、持病のあるなしに関わらず、対象者全体で一般的に確認できたことです。
そのうえで、心臓や血管の持病(心血管疾患)がある場合に特に高まるという結果を見てますと、新型コロナウィルスに感染した人でどういう属性の人で重症化しやすいかという議論が思い起こされます。

 

中国での新型コロナウィルス感染患者約45000人のデータでは、下表のとおり、持病のない患者と比較して心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、がんの患者では致死率が高くなるという結果が得られており、持病、特に心血管疾患があることでリスクが高まることが明瞭に確認できます。

致死率
持病なし 0.9%
心血管疾患 10.5%
糖尿病 7.3%
慢性呼吸器疾患 6.3%
高血圧 6.0%
がん 5.6%

出典:年齢、基礎疾患、肥満、性別、喫煙・・・新型コロナが重症化するリスクは?(著者は忽那賢志氏)|YahooJAPANニュース 2020418日付

日本の空はきれいなのか?

スウェーデンの首都ストックホルムのクングスホルメンの2927人の住民の居住地のPM2.5の濃度の平均は8.4μg/㎥で、PM2.50.88μg/㎥増すごとに認知症罹患率が1.54倍になるという結果でした。

 

これを頭に入れていただき、日本の空のPM2.5の濃度を確認してみましょう。
平成18年度~平成22年度の都市部のPM2.5の濃度は1520μg/㎥、非都市部では1015μg/を推移しています。

出典:微小粒子物質(PM2.5)に関する情報|環境省

 

よって、スウェーデンの先ほどのデータと比べれば、日本のPM2.5の濃度は高いという結果でした。PM2.5の濃度の違いは認知症の罹患率を変えることを踏まえれば、大気汚染物質による認知症の罹患率はスウェーデンのこの地区より日本で高いという計算になります。

注:同様に、窒素酸化物でもスウェーデンのこの地区と日本での比較を行いたかったのですが、スウェーデンの研究ではμ/㎥という単位が使われているのに対し、日本ではppmという単位が使われているなど、俄か勉強したレベルでは力及ばず、単位を揃えての比較が難しいと感じたため、断念しています。

普段は意識しないでいる「空の重み」

 

こんな具合に考えていくと、住む場所の違いで、知らず知らずのうちに負荷がかかっているように思われ、急に普段は意識しないでいる「空の重み」が出現する錯覚に襲われます。

 

このような知見を積み重ねていき、認知症のリスクという観点からも、大気汚染物質の濃度の増加への警鐘を鳴らしていくべきと思います。心血管疾患などの持病を持って生きる状況も考慮するならば、なおのことそうです。
そして、経済活動の追求は、大気汚染物質の濃度を増やさないという条件の下で、推進されることを望みます。

 

(文:星野 周也)

 

<参考>(本文中で示したもの以外)

1. 安倍首相 緊急事態宣言の全面解除表明|FN PRIME online 2020年5月25日付

2. 緊急事態宣言の全国解除を安倍首相が表明。「“日本モデル”わずか1カ月半でほぼ収束させることができた」|ハフポスト日本版 2020年5月25日付

3. 新型コロナは「敵」ではない。哲学者が説くウィルスとの「共生」(著者は渡邊 雄介氏)|Forbes Japan 2020年4月18日付

4. 中国の都市封鎖で九州の大気が劇的改善 ピーク時の10分の1(著者は今井 知可子氏)|西日本新聞 2020年5月18日付

5. 大気汚染と認知症の関連にCVDが介在(著者は小路浩史氏)|Medical Tribune 2020年4月15日付

6. クングスホルメン|在日スウェーデン大使館公認 観光情報サイト

7. 「PM2.5」による大気汚染 健康に及ぼす影響と日常生活における注意点|政府広報オンライン 平成30年2月1日付 

8. SPM, PM2.5, PM10, ・・・, さまざまな粒子状物質(著者は新田 裕史氏)|国立環境研究所

9. 排出物質:窒素酸化物|環境再生保全機構

10. 大気環境に関する用語集 > 窒素酸化物(NOx)|環境再生保全機構

11. 大気汚染物質(常時監視測定項目)について|そらまめ君

12. 新型コロナ、重症化招く基礎疾患 心血管系リスク(著者はNsikan Akpan氏、訳はルーバー荒井ハンナ氏)| 日経スタイル ナショジオ 2020年3月27日付

13. 平成27年度大気汚染の状況|環境省

 

 

衰えと引きこもり生活での楽しみ

 

こんにちは、認知症Cafést Online編集スタッフのUです

不要不急の外出を控え、体の衰えを感じる

原則リモートワークをしております。不要不急の外出も控えております。
先日、仕事場に行く必要があり、久しぶりに出社いたしました。
すると、通勤時間がとても長く感じました、革靴で歩くのも久しぶりで違和感がありました。

 

 

帰宅すると足に鈍痛があり、翌日には案の定、筋肉痛でした。
自分でも驚くほどの、衰えを感じ、改めて外出や歩行の大切さを痛感しました。

WEBで動画を見ながら晩酌

自宅に引きこもり、テレビも再放送ばかりなので、夜はWEBで動画を見ながら晩酌ばかりしております。

 

 

最近のお気に入りは、ソニーミュージックと韓国のJYP(K-POPを代表する企業)によるNizi Projectというオーディション番組で、自分の娘と同年代の子たちの奮闘する姿に、柄にもなく貰い泣きしてしまいます。
涙腺も衰えたのかなぁ。

Zoomでの飲み会もやりました

今、はやりの、Zoomでの飲み会も部のメンバー(カフェストメンバー)で開催しました。
パソコンの画面の画像選択ではありませんが、Zoom画面でも、画像を選んで背景にすることができるので、メンバーみんなで居酒屋のなかにいる画像で揃えましたら、飲みの雰囲気が出ました。

 

私の娘やmimiの息子の「〇〇君」もちょっと顔出ししたりして賑やかでした。
思いのほか楽しめました。

 

人とのつながりを維持する大切さ

 

こんにちは、編集スタッフのmimiです。

前回のKの投稿に続きますが、本日は私の母の話を。

コロナ鬱

ひと月ほど前でしょうか、遠方に住む母が鬱になりかかっていました。自粛の状況下で訪問はできないため、遠隔ではありますが兄弟総出であの手この手を尽くしておりました。

 

要因は、複数。
親しい友人の急死、新型コロナウイルスの蔓延による不安、自粛によるサークル活動の休止など。
その最中に家族が発熱したため、自分もコロナに感染したと信じ込んで毎日のウォーキングもやめて、一歩も外に出ない日々。そして、食欲も落ちて全然食べたくないというような状況でした。

 

本格的な鬱にならずに済んだのは、幸いにして発熱した家族が問題なく軽快したことと、もう一つ、SNSで友人との繋がりを取り戻したことがとても大きかったと思います。

 

母は70台半ばですがPCもタブレットも使え、家族とも日常的にビデオ通話をしているので心配していなかったのですが、よく聞いてみると意外な点でつまずき、サークル仲間のLINEグループに入れていなかったそう。
そこで、離れていても友達追加できる操作を教えたら、速攻繋がれたという連絡が。

その後LINEグループでの会話はもちろん、数年ぶりにケーキを焼いてグループ内でシェアして楽しんだりと、日常でのあらたな楽しみを見つけていました。

「人とのつながり」の重要性

高齢者がこの自粛で気を付けたいこと、ということで東大の飯島先生が記事(注:後掲の参考サイトをご確認ください)を書かれています。
それは運動、栄養、人とのつながり

 

今回母は「人とのつながり」が急激に希薄になったことで、その他の「運動」と「栄養」にも影響が出ていました。普段は健康で丈夫で大変活動的な母でも、何らかのきっかけでバランスを崩してしまう。一つが崩れると全体に影響が出る。そして、一つが上向くと全体も上向く。

人間のもろさと強さを実感したと同時に、SNSなどのツールが人のつながりを維持するのにいかに有効かということも体感しました

 

高齢者は特に新しい技術との親和性が高くなく、しかしながら身体機能の低下で孤独になりがちです。スマホ、ロボットなどツールは何でも良いのですが、高齢者お一人おひとりに合わせた“人とのつながり”の支援に引き続き取り組んでいきたいと思います。

 

 

人間の細胞の数より多い腸内細菌の変化が示すこと―地中海食や認知症との関係―

 

地中海食と腸内細菌の関係について述べているハーバードメディカルスクールのブログ記事がフェイスブックでシェアされていました。

 

こちらのブログ記事(注、以降、ハーバードブログ記事と略する。)で、
Mediterranean diet linked to lower inflammation, healthy aging

「地中海食を食べれば、炎症が抑えられ、健康的に年を重ねていくことができる」というタイトルです。
ご紹介したいと思います。

地中海食について(復習+α)

地中海食の定義(復習)

以前のカフェストの記事(「地中海食のおかげでスペインが世界最長寿国になる!?」)での地中海食の定義を再掲します。

1993年に開催された「地中海食に関する国際会議」で定められたものです。

 

□植物性食品(果物、野菜、パン、その他の穀物製品、豆類、種実類)が豊富

□加工度を最小限にとどめた、季節折々のその地域で育てられた新鮮な食品を使う

□典型的なデザートとして新鮮な果物を食べる
ただし、お祭りの日にはナッツ類、オリーブオイル、精製した砂糖または蜂蜜でできた菓子類を食べる

□油脂類の主たる摂取源としてオリーブオイルを用いる

□少々か適量の乳製品(おもにチーズとヨーグルト)を食べる

□卵の使用は週に4個未満

□赤身肉の使用はまれであり、少量

□少々か適量のワインを普通は食事とともに飲む

 

ハーバードブログ記事で示される地中海食の特徴

今回、紹介する上記のハーバードブログ記事では、地中海食の特徴を「果物、野菜、ナッツ、豆類、オリーブオイル、魚が豊富、一方、赤身の肉、飽和脂肪酸は少ない」と記しています。

地中海食の健康効果(復習+α)

以前の記事(「地中海食のおかげでスペインが世界最長寿国になる!?」)では、地中海食の健康効果として、「脳卒中・心筋梗塞の発症率・死亡率を減らす」、「糖尿病の発症率を減らす」、「がんの発症率・死亡率を減らす」を挙げました。

 

ハーバードブログ記事では、「がん、脂肪肝、その他の疾病の発症率を減らす、インスリン抵抗性の割合を減らす」と書かれています。

 

脂肪肝は肝臓に脂肪が多くたまった状態で、肝炎や肝硬変に進行することがあります。

インスリン抵抗性は、インスリンという糖の吸収を促す働きを有するホルモンが効きにくくなっている状態です。インスリン抵抗性があると、血糖値が下がりにくくなり、Ⅱ型糖尿病の要因と考えられています。

腸内細菌について

大腸に生息している無数の腸内細菌たち

私たちの体には数多くの細菌が生息しています。大腸に生息している細菌の集団を「腸内細菌叢(そう)」といいます。別名として「腸内フローラ」もよく使用されます。

注:科学論文では「microbiota」、「microbiome」が使用されています。

 

大腸の腸内細菌叢は100種類~1000種類の細菌から構成されていて、総数は約100兆~1000兆個と言われています(注:種類や数は諸説あります)

腸内細菌と健康の関係

ハーバードブログ記事では、「腸内細菌の遺伝子が健康に影響を与えていることが過去20年の研究で分かってきた」と述べられています。

具体的な健康との関連として、「腸内細菌叢の状態が変化することで、体内の炎症が抑えられ、慢性疾患の治療に役立つ」、「腸内細菌叢の状態の違いで、がん、インスリン抵抗性、脂肪肝、細胞の損傷の発生・発症割合が変わる(腸内細菌叢の状態によりがん等の発生・発症割合が抑制される)」と記されています。

 

腸内細菌叢の状態というのが少し不明確なのですが、他の記事などを参照していると、腸内に生息する細菌の種類、細菌の組み合わせ、細菌の数や割合の多寡などのことを指しているようです。

地中海食と腸内細菌の関係について

以上を踏まえたうえで、ハーバードブログ記事にて紹介されている、地中海食と腸内細菌の関係を探求している研究を見てみましょう。今年2月に発表された研究とのことです。

この研究のデザイン

・65歳から79歳の約600人の成人を対象

・この600人を地中海食を食べる群と、そうでない通常の食事を食べる群に2分割し、腸内の細菌(腸内細菌叢)を比較

 

この研究にある問い

・地中海食でがんなどの発症率が抑えられるのは腸内細菌叢が変化した結果ではないか?

 

この研究の結果

・地中海食を食べた群で、炎症の減少が見られた

・地中海食を食べた群で、腸内細菌の変化が見られた。がんや脂肪肝などが抑制される腸内細菌の状態に変化した

 

コメント

腸内細菌が地中海食と健康効果をつないでいる可能性―研究結果から示唆されること―

この研究では、地中海食を食べている人たちとそうでない人たちを比較して、地中海食を食べている人で炎症が抑制され、腸内細菌の変化も確認されたという結果を得ました。これは、腸内細菌が「地中海食が有しているさまざまな健康効果」をもたらす1つの要因になっている可能性を示しています。

腸内細菌は人間の細胞の数より多い

腸内細菌も調べると奥深いです。

人間の細胞の数は一説では60兆(注:数十兆と理解すればよいとおもいます。)と言われておりますので、人間の細胞の数より多い数(100兆~1000兆)の腸内細菌が腸内に住んでいることになります。

腸内細菌叢は、年代で異なり、国によって異なり、健康状態によって異なる

近年、腸内細菌の大量の遺伝子情報を解析する技術が進み、腸内細菌の実態が解明されつつあります。

 

腸内細菌叢における細菌の構成は年代によって異なり、国によって異なるそうです。また、同じ日本人の間でも多様性が認められるとのことです。

 

そして、このカフェスト記事を通して確認できるのは、健康状態によっても腸内細菌叢に変化が見られるという点であります。

腸内細菌叢は認知症や軽度認知障害(MCI)の有無によっても異なる

日本では、国立⻑寿医療研究センターの佐治直樹もの忘れセンター副センター⻑らが、東北⼤学、久留⽶⼤学、株式会社テクノスルガ・ラボと協⼒して、腸内細菌叢と認知症や軽度認知障害(MCI)との関連の研究を進めています。

 

この研究チームは、昨年の2月に、認知症のある人とない人とで腸内細菌の組成に違いが見られることを発表し、昨年の12月には、認知症の前段階である軽度認知障害のある人と認知機能が正常な人とでも腸内細菌の組成に違いがあることを発表しました。

 

もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らが、もの忘れ外来の受診患者さんから検便サンプルを採取・解析して、 腸内細菌は認知症と強く関連することを見出しました|国立長寿医療研究センター(ニュース&トピックス 201921日付)

もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らが、軽度認知障害という認知症の前段階においても、腸内細菌は認知機能低下に関連することを見出しました|同上(20191218日付)

腸内細菌と地中海食や認知症との関係から成り立つ仮説

カフェストの読者の皆様には何度もご紹介してきましたが、地中海食とDASH(アメリカ発高血圧改善のための食事法)を組み合わたマインド食(MIND食)がアルツハイマー病の発症率を低下させるという研究結果が出ています。

 

地中海食と腸内細菌の関係、認知症と腸内細菌との関係の知見を踏まえますと、マインド食とアルツハイマー病との関係についても腸内細菌が介在していると仮説が立つのではないかと思います。
今後さらに知見の動向に注目してまいります。

 

(文:星野 周也)

 

<認知症Cafést内関連記事>(本文中で示したもの以外)

最新の研究知見―認知症と腸内環境―

認知症予防に効く!?マインド食

<参考>(本文中で示したもの以外)

1. 赤肉(栄養学)|Wikipedia

2. 不飽和脂肪酸|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)

3. NAFLD / NASH 患者さんとご家族のためのガイド|日本消火器病学会ガイドライン

4. インスリン抵抗性|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)

5. 腸に住む無数の腸内細菌たち|腸内フローララボ(生酵素サプリメントのOM-Xサイト)

6. 腸内フローラ|ヤクルト中央研究所

7. 免疫栄養学|医療法人社団 麻布医院

8. 腸内細菌とがん免疫療法|市民のためのがん治療の会

9. メタゲノム情報から読み解く腸内フローラの生態と疾患との関係(服部正平氏)|メディエンスFORUM(2018年7月14日公開講演会「プレシジョン・メディシンの将来<臨床検査の多様化から精密医療へ>」講演資料)

10. 腸内細菌と健康|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)

11. 医療を変える「マイクロバイオーム」|シスメックス学術セミナー

12. 微生物の数|東京薬科大学 生命科学部(学科紹介のページ)

13. 肝疾患について|東京都肝疾患診療連携拠点病院 虎の門病院 肝疾患相談センター

 

 

在宅での過ごし方~こんな時だからできること~

 

本日は認知症Cafést Online編集スタッフのKが、Editor‘s Tweetをお届けします!

不要不急の外出をしない状況が続いているなかで

現在、新型コロナウイルスの影響で、不要不急の外出をしない状況が続いています。
今回は、在宅での過ごし方について話したいと思います。

在宅での過ごし方―私(K)の場合―

今までは外出をしたり、遊んだり、生活の行動制限がない状況から、急に環境が変わり、在宅での生活となっている状況はとても単調な生活リズムになり、元気が無くなったり、イライラ状態になったりします。
テレビを見ていても、同じようなニュースや、再放送の番組が多くなっています。

在宅での過ごし方―母の日企画で、両親へのプレゼント―

私の両親も、テレビではなくパソコンで動画やDVDを見たりしています。特に映画などはとても好きだということが分かり、母の日も迫っていることもあり、Amazon Fire TV Stick(←該当ページへのリンク)を購入し、両親の部屋のテレビにセッティングをしました。

 

回想法とまではいきませんが、昔の懐かしい映像、音楽、映画などの鑑賞はとても良いとされていますので、今のような状況において、在宅生活での良い刺激にはなるかと思います。
ちなみに両親は早速、映画や音楽などを楽しそうに見ていました(笑)。

何か普段と違うことを

皆さんも、なかなかストレスのかかる状況とは思いますが、この非常事態を乗り越えるために、一緒に頑張っていきましょう!こんな時だからこそ、何か普段と違うことをしてみるのも良いかもしれませんね!

 

<認知症Cafést内関連記事>

大切な人を守るために

 

 

『情熱大陸』でのウィルス学者の河岡義裕さんのお話―新型コロナウィルスを解明するためのアプローチ―

 

こんにちは。
認知症Cafést編集スタッフのSです。

『情熱大陸』から

TBS系列で日曜の23時から放送されるドキュメンタリー番組『情熱大陸』で、新型コロナウィルス感染拡大防止を目指す今の社会状況でのタイムリーな企画の放送が2週続きました。

 

4月12日の放送:ウィルス学者の河岡義裕さん

4月19日の放送:感染管理専門家の坂本史衣さん

注:リンク先は情熱大陸のサイトでのプロフィールが確認できるページです。

 

6月末まで無料見逃し配信中となっています。
こちらのサイトです。

mbs動画イズムのサイト

注:画面下にある「エピソード」の項目で、4月12日放送分、4月19日放送分が確認できます。

 

関心を持たれた方は、ぜひ動画をご覧になっていただければと思いますが、私もこちらでメモを記したいと思います。

 

本日は、ウィルス学者で、現在、政府の新型コロナウィルス感染症対策専門家会議のメンバーを務めておられる河岡義浩(かわおかよしひろ)さんのお話からのメモです。

河岡義裕さんの実績と現在(主に放送で語られていたことに基づく)

実績、受賞歴(表彰歴)

・インフルエンザウィルスの人工合成に成功

(インフルエンザワクチンなどの開発にこの技術が使われている)

・2006年にロベルト・コッホ賞受賞、2011年に紫綬褒章を授与

 

現在

・新型コロナウィルスのメカニズムを解明する研究に従事

・電子顕微鏡により新型コロナウィルスの分析をしている

(東京大学医科学研究所にて)

 

河岡義裕さんのお話から(ナレーターの解説も含めて)

動画内で確認できる取材(撮影)期間の情報

・3月24日~4月11日(この期間内、4月7日に緊急事態宣言が出される)

 

ウィルスと感染症の基礎

・ウィルスは生きた細胞に入り込むことでしか増殖できない。そこで増えたウィルスはやがて細胞を破壊し、また新たな細胞にとりついて、同じことを繰り返す

・感染症は、病原体に触れなければ感染しない。そういう意味ではすごく簡単。

 

新型コロナウィルスを解明するためのアプローチ

・ウィルスそのものは他のコロナウィルスとそんなに変わらない。ただ、どういう動物に感染するか、どういう細胞に感染するのかという基本的なことが分かっていない。(注:いわゆる風邪の原因となる4種類のコロナウィルスが知られている。)

・感染する動物が分かればこのウィルスのデータが取れる。

・実験室では感染させたマウスやハムスターの臓器を調べる。どの臓器で、どの程度ウィルスが増殖するかまで丹念に観察する。

・同じウィルスを投与されても、動物によっては発症しないものもいる。ウィルスの増え方が人間の場合と近ければ、研究に適した動物ということになる。

 

薬やワクチンの開発

・研究に適した動物が決まれば、薬やワクチンの開発の足がかりになる。ただし、ワクチンはすぐには出来ない。

・薬はおそらくすでに人に使われている薬の中でこのウィルスに対して有効な薬、ベストなものではなくても、今の状況をしのげるような薬が見つかってくると予想される。それが見つかれば少し安心できる。

 

感染症と医学の関係に関する印象的な発言(生の発言のかたちで記します)

歴史は繰り返すじゃないですけど、あんまり変わらないんですよね。パンデミックにしろ流行にしろ、パターンは決まっているので。それは…100年前のスペイン風邪のときもそうだし。

 

情けないのは100年経ってもやってることは「人に近づかない」それか、みたいな。医学が100年もがんばって

 

視聴者に向けての番組最後でのメッセージ(生の発言のかたちで記します)

希望はあります。これはわれわれみんなが行動を自粛すれば必ず流行は収まります。

 

コメント

コロナはギリシア語で王冠を意味する―ミクロの世界の挑戦―

電子顕微鏡で観察されるコロナウイルスは表面には突起が見られ、カタチが王冠(英語では“crown”)に似ていることから、ギリシャ語で王冠を意味する“corona”という名前が付けられたそうです。

 

球のカタチをしていて、直径は約100ナノメートル(注:1ナノメートルは10億分の1メートル)とのことですから、ウィルスを解明することはミクロの世界での挑戦です。
このようなミクロの世界の話は、当サイト(認知症Cafést)の関心に立ち戻れば、脳の神経細胞の働きの解明とそれを踏まえた認知症薬の開発の挑戦に近しいものと思います。(参考:「グリア細胞とは何か?―認知症薬と認知症対応の最新動向―」)

「100年経ってもやってることは『人に近づかない』」

電子顕微鏡でしか見ることができないミクロの世界の解明に取り組みながら、世の中の人々には「人に近づかない」ようにしてください、行動自粛をしてくださいと伝えなくてはならないことの河岡先生の葛藤のようなものが映像では描かれていて、私にはこの番組での最大の見せ場と思いました。

 

現在のウィルスの世界的な感染拡大の状況を先取りしたかのような映画が、2011年に公開されています。スティーブン・ソダーバーグ監督作品の『コンティジョン』です。
Newsweek日本版での、この映画の脚本家スコット・Z・バーンズへのインタビュー記事気味が悪いくらいそっくり……新型コロナを予言したウイルス映画が語ること」(4月8日付)で、脚本家バーンズは、現在の新型コロナウィルスの状況について、驚いていない。私が取材した科学者たちはそろって、こうした事態が起きるのは時間の問題だと言っていたからだと言っています。

 

そして、映画のシナリオを作成するためパンデミックについて徹底的にリサーチした結果、次のような見解に至ったそうです。

リサーチを進めるなかで学んだことの1つが、公衆衛生の本質とは何かということ。

それは私たちが互いに背負う義務だ。互いに距離を保ち、手をしっかり洗い、体調が悪くなったら家から出ない。この3つは、真っ先に実行すべき実に優れた対策だ。科学的・薬学的な治療法が見つかるまでは、人間こそが「治療法」なのだ。

 

互いに距離を保つなど、人間が互いに背負う義務の遂行が治療法であるという脚本家バーンズの認識と、「100年経ってもやっていることは『人に近づかない』」という河岡先生の見解は概ね共通と言えるでしょう。

ワクチンと社会的対処の併存―人間こそが「治療法」―

ワクチンの開発と社会的対処を共に行っている状況と言えます。
認知症薬、認知症対応について、以前の記事で、認知症薬と、(薬に頼らない)生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫などの非薬物的な認知症対応の適切な併用や切り替えが標準と考えられていると申し上げました。薬物療法と非薬物的対応の併用という考え方に馴染んでおりますので、ワクチンの開発をしながらも、「人に近づかない」という人々の行動にかかっているという状況に、勝手に真理を感じたりしています。
オーバーラップさせながら、行ったり来たりさせていただいてますが、脚本家バーンズの言葉―人間こそが「治療法」―は、創意工夫をしながらの認知症ケアにも当てはまることだと思います。

 

当然ながら、同じ人間がすべきことでも、感染拡大予防においては人が「人に近づかない」ようにするのに対して、認知症ケアにおいては人が人に直接的に、工夫をしながら関わり、近づいていくという正反対の方向の努力になっています。しかし、感染拡大抑止と同様、認知症ケアにおいても、人間こそが「治療法」であるという点は、100年、200年と時間が経っても変わらないことかもしれません。(終)